書評

「団塊の世代」と「全共闘」㉝ ――本で人生は変わり得る、か

実は最近、本が読みたくなくてしょうがないんだよ。このところ母親の面倒を見たり、忙しかったりしているから余計にそうなってるんだろうが、でも、そんな中でも特に小説は読みたくない。するすると頭に入って面白いものはないかなと思って、あ、そうだと思…

さまざまな「いなか」が――石原苑子『祖母から聞いた不思議な話』

twitter.com*1● 主人公というか主な語り手、主な素材供給元であるおばあちゃんは、昭和7年の生まれ。主な舞台は、岡山県北西部とおぼしき土地、おそらくは今の新見市に編入されたムラでしょうが、そういう具体的な地名もまた、まず意味がない。というか、関…

対談・朝倉喬司・頌

*1 現代書館から『朝倉喬司芸能論集成』が刊行された。ルポライター・朝倉喬司氏(1943~2010)の芸能関係の文章を集めた968頁の大著である。刊行を機に、編集委員会のメンバーである、株式会社出版人代表の今井照容氏、民俗学者の大月隆寛氏に対談してもら…

書評 サトウハチロー『僕の東京地図』 (1936年 有恒社)

● 古書の書評、というのはあまり見たことがない。いや、その筋の趣味人好事家道楽者の界隈には紹介言及ひけらかしな蘊蓄沙汰はそりゃ古来各種取り揃えてあるものの、それらは概ね書評というのでもなくお互い手のこんだマウンティング、こじれた相互認証の手…

書評・『マンガでわかる戦後ニッポン』 (双葉社)

マンガでわかる戦後ニッポン作者:手塚 治虫,水木 しげる,つげ 義春,はるき 悦巳,ちば てつや ほか双葉社Amazon 「歴史戦」というもの言いが飛び交い始めています。いわゆる「歴史認識」をめぐる情報戦の現在。けれども、それは何も国と国、対外的な大文字の空…

書評・臼田捷治 『工作舎物語――眠りたくなかった時代』(左右社)

*1 工作舎物語 眠りたくなかった時代 作者: 臼田捷治 出版社/メーカー: 左右社 発売日: 2014/11/13 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (10件) を見る 工作舎、という名前で反応できる、してしまう向きは言うに及ばず、すでに歴史の過程と距離感持つ若い…

【草稿】書評・臼田捷治『工作舎物語――眠りたくなかった時代』(左右社)

*1 *2 さてお立ち会い、「工作舎」という名詞一発で反応できる、しちまう向きは言うに及ばず、すでに歴史と距離感持つ若い衆世代にとってはおのれの現在からどう地続きにしてゆくか、その器量試しの一冊だ。 70年代半ば、東京の片隅に宿った小さな集団。編集…

【書評】北条かや『キャバ嬢の社会学』 (星海社新書)

*1 キャバ嬢の社会学 (星海社新書)作者:北条 かや発売日: 2014/02/26メディア: 新書 「新書」というパッケージが書店の書棚の多くを占めるようになったのは、ここ10年くらいのことでしょうか。それまでの「文庫」と同等、いや、どうかするとそれ以上に大きな…

書評・横田増生『評伝ナンシー関』(別バージョン@改稿後)

評伝 ナンシー関 「心に一人のナンシーを」 (朝日文庫) 作者:横田増生 発売日: 2014/06/06 メディア: 文庫 *1 いきなり、「あ、仲良しっすか」と言われた。仲間と共に打ち合わせに赴いた、その時だった。初対面だったかどうか、定かでない。ただ、その「仲良…

書評・横田増生『評伝ナンシー関』草稿

評伝 ナンシー関 「心に一人のナンシーを」 (朝日文庫) 作者:横田増生 発売日: 2014/06/06 メディア: 文庫 先に死んじまったんだから、何書かれてもしょうがないっすね――そんなことを言ってそうな気がする。いつものように、軽く憮然としたあの顔つきで。 急…

解説・松川二郎『全国花街めぐり』

*1 松川次郎『全国花街めぐり』(1929年(昭和4年) 誠文堂)の復刻です。 少し前までは古書市場でもそれなりに稀覯本扱いされていて、数万円といった値段がつけられていました。最近、こういう方面にまた関心が深まってきているせいか、目端の利く同業他社から…

書評・川北稔『イギリス近代史概説』

イギリス近代史講義 (講談社現代新書)作者:川北稔講談社Amazon 日本は最近、新衰退国 (new declining country) などと呼ばれているが、イギリスは半世紀近く前から「衰退国」といわれてきた先輩だ。衰退とはどういうものかを学ぶには、本書はいい教材だろう…

書評・小野俊太郎『人間になるための芸術と技術――ヒューマニティーズからのアプローチ』

人間になるための芸術と技術―ヒューマニティーズからのアプローチ 作者: 小野俊太郎 出版社/メーカー: 松柏社 発売日: 2009/12/01 メディア: 単行本 クリック: 21回 この商品を含むブログ (4件) を見る 副題とは言え、このご時世になお真正面から「ヒューマ…

書評/J・ドレイプ『黒人ダービー騎手の栄光』

Black Maestro: The Epic Life of an American Legend 作者: Joe Drape 出版社/メーカー: William Morrow 発売日: 2006/04/25 メディア: ハードカバー この商品を含むブログ (1件) を見る [rakuten:book:12009941:detail] いい記述だ。翻訳もいい。いや、原…

書評・七尾和晃『闇市の帝王――王長徳と封印された「戦後」』

闇市の帝王―王長徳と封印された「戦後」 作者: 七尾和晃 出版社/メーカー: 草思社 発売日: 2007/01/24 メディア: 単行本 購入: 2人 クリック: 30回 この商品を含むブログ (7件) を見る 目論みは悪くない。なにせ「闇市」だ。しかも、これまでほとんど表だっ…

 伊藤正徳『太平洋海戦史』

こう見えても昭和三十年代の生まれだぜ、というタンカは、『気分はもう戦争』の好漢ハチマキのもの。同じ心意気はいつも胸の内に秘めている。 戦後民主主義の安定期、あれだけ平和が一番、戦争はいけない、と言っておきながら、一方でわれらガキ共の間じゃ「…

大江志乃夫『明治馬券始末』

明治馬券始末 作者: 大江志乃夫 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店 発売日: 2005/03 メディア: 単行本 クリック: 1回 この商品を含むブログ (12件) を見る ニッポン競馬の歴史というのは、実は未だにほったらかし。カネにも業績にもならないから、まともに取り…

今 柊二『ガンダム・モデル進化論』

ガンダム・モデル進化論 (祥伝社新書 (004)) 作者: 今柊二 出版社/メーカー: 祥伝社 発売日: 2005/02 メディア: 新書 クリック: 4回 この商品を含むブログ (13件) を見る ガンダム世代、という言葉がある。テレビアニメの『機動戦士ガンダム』をリアルタイム…

重松 清『ハルウララ物語』

走って、負けて、愛されて。―ハルウララ物語 作者: 重松清,河野利彦 出版社/メーカー: 平凡社 発売日: 2004/01 メディア: 単行本 クリック: 7回 この商品を含むブログ (7件) を見る ずばり言う。写真にカネ払う本だ。 去年の秋口からワイドショーなどで一気…

書評・『ナンシー関大全』

ナンシー関大全 作者: ナンシー関 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2003/07/26 メディア: 単行本(ソフトカバー) 購入: 2人 クリック: 33回 この商品を含むブログ (35件) を見る 急逝一年、あの文藝春秋がここまで手かけて追悼するくらいの「大事件」だ…

書評・森達也『ベトナムから来たもう一人のラストエンペラー』

ベトナムから来たもう一人のラストエンペラー作者:森 達也出版社/メーカー: 角川書店発売日: 2003/08/01メディア: 単行本 いい意味で軽く読めるし、仕込みもていねいな仕事だ。なのに、ある種の息苦しさが全体を覆っている。この息苦しさとは何か。それがお…

書評・斉藤孝『スポーツマンガの身体』

スポーツマンガの身体 (文春新書)作者:齋藤 孝文藝春秋Amazon マンガはすでに日本人の一般教養である。かつての浪曲がそうだったように、戦後の日本人のものの見方、考え方を形成してきたメディアのひとつになっている、それは間違いない。そういう意味で、…

書評・香月洋一郎『記憶すること・記録すること』

記憶すること・記録すること―聞き書き論ノート (歴史文化ライブラリー)作者:香月 洋一郎吉川弘文館Amazon 民俗学というのは人文・社会科学系学問の最も下流に属している。上級の学問領域で流行りの課題も、濾過され劣化コピーされて民俗学のまわりにたどりつ…

メディアへの不信感

*1 マスメディアってシロモノに対する不信感は、このところもうデフォルトになっているようであります。だって、あいつらロクなこと伝えやがんないんだもん、ってわけで、新聞であれテレビであれ、そこに書かれ、映し出される“もの”や“こと”は、もうそれだけ…

稼業としての書評、本読むことのいまどき

古本屋に入ると、その値崩れ具合に愕然とすることが最近、よくあります。 給料をとっていた頃は、それこそ稼ぎの大半を古本に突っ込んでいたこともあって、やくたいもない雑本ならば佃煮にできるほど抱え込んでいますが、そうやって培ったはずのなけなしの相…

匿名批評の伝統

書評、というのとはちと違いますが、でもやはりこれは「批評」とか「評論」界隈でのそれなりに大きなできごとだと思うので、触れさせて下さい。産経新聞の名物コラム欄「斜断機」が、この三月いっぱいで終了したんですね、これが。 もともとは匿名の批評コラ…

『SIGHT』の濃いダシ

*1 雑誌界隈で今、書評に限らず活字関係のページを奮発してるのは、さて、どこだと思います? 『ダヴィンチ』なんて万年提灯持ちがお約束の広告系ベタベタの外道は別ですぜ。そうするってえと、案外これが『SIGHT』だったりするんじゃないかいな、と。 …

書評・沖浦和光『幻の漂泊民・サンカ』

「サンカ」と聞いてピンとくる人は、ある意味要注意。さらに「漂泊」「異人」「異界」「周縁」「闇」なんてもの言いにもうっかり眼輝かせちまうようならなおのこと。そういう性癖を持っている向きにいきなり冷水をぶっかけるような本、なのだ、ほんとは。 山…

活字の「文化」の終焉

*1 「いやあ、何とか今月は大丈夫だったなあ、って感じですよ。いつつぶれても不思議ないです。本? いやもう、自分のところの新規企画なんか出せる状態じゃないですよ」 名前を言えば誰でも知っている、まずは老舗の出版社の編集者の言。数十年続く雑誌の大…

田口ランディ被害の1年

*1 二〇〇一年もはや、年の暮れであります。書評まわりの誌紙面でも例年、「今年のベスト10」とか「本年の収穫」とか、そういう企画がお約束。ただ、これってお祭りみたいなもんで、年末進行に合わせて行われるのが何よりいい証拠。この時期だと年の前半に…