ホッカイドウ競馬、最後のチャンス

 馬インフルエンザ騒動、JRA周辺では幸いほぼ終息のようですが、前号この欄で懸念した通り、地方競馬からそれ以外、乗馬やばん馬など含めた裾野の部分でまだぎくしゃくが続いています。

 帯広のばんえい十勝本体には具体的な影響はほぼ出ていないのですが、地元でやっている草ばん馬が九月に入ってから軒並み開催を自粛。「何かあったら困る」という用心からですが、それ以外でも、各地の乗馬の大会が同じように開催を中止していますし、何より馬の移動がまだ制約を受けています。また、競馬場でも、本当なら休養させたい馬を、いったん出したら再入厩がいつになるかわからないので出すに出せない、だから馬房があかず新たに入厩予定の馬も入らない、という悪循環が出始めています。実際、出走投票をして確定した後に、検査をやって陽性が発覚、当日に出走取消、という事態もこのところ、珍しくなくなっています。それでも馬券を買ってくれるファンは、本当にありがたいと思います。

 改めて痛感したのは、地方競馬の主催者同士の連携の薄さ、です。その分、上意下達の「お上」の意向(今回の騒動の場合、農水省の指示が強かったようですが)がそのままそれぞれの主催者に直接に響いてこざるを得ない。

 たとえば、地方競馬の中では最も「ブロック」的なつながりの強い南関東にしても、まず大井が単独で陽性馬に反応した結果、その他の三場もあわてて追随せざるを得なくなった。けれども、一応、検査をしてその結果は出すものの、大井のように隔離したり、調教時間を別にするといった対策は特にしていないところもあります。また、いったん検査をして陽性馬を出した後、時間をあけて再度検査をして、今度は一気に陽性馬ゼロ、と発表した、ある意味勇気あるところも。ナイター中心の夏場の過密開催スケジュールと、その連なりから秋口に入ってからの在籍馬確保が難しい、といった台所事情があるのはわかりますが、表面的な数字をやりくりして辻褄さえ合わせた発表をしておけばとりあえずそれでいい、という態度がちらちら垣間見えるのは、僕がひねくれているからでしょうか。

 そんなこんなの中で、ホッカイドウ競馬の改革が一歩前進しました。水面下では去年あたりから青写真が作られていたようですが、道の農政部の腰が重くなかなかテーブルにつけなかったことが、さすがにここにきて累積赤字(約120億円という数字は、あの岩手に次ぐ巨額の負債です)の解消はもちろん、単年度の収支均衡すらおぼつかないままでさらに赤字が増えそうな事態に、道庁も腹をくくらざるを得なくなったようで、これはひとまずいいことではあります。

 要は、道と今の公社による経営から、馬産地や民間資本も含めた新しい主催者組織を再編成してそちらに移す、それによって人件費などの経費削減がこれまでよりずっと思い切ってできる、というわけで、事実上、六月に成立した改正競馬法の柱である「民営化」の趣旨に添った青写真と言っていいでしょう。

 ホッカイドウ競馬にとってはこれが正直、最後の再生のチャンスのはずで、馬産地競馬を標榜している以上、生産者も共に競馬を経営し、支えるというのは当然こと。遅すぎたくらいです。ここはぜひとも地元の利害や政治にとらわれず、大所高所に立ったニッポン競馬全体を見渡した上での具体的な施策を講じられるだけの態勢を、人材含めてしっかりとつくりあげて欲しいものです。でないと、民間資本を呼び込んで投資してもらうなど絵に描いた餅。何より、ことはホッカイドウ競馬だけでなく、これから後に続くべき全国の地方競馬の「民営化」の雛型でもあること、それを忘れないでください。

 ただ気になるのは、当のホッカイドウ競馬はもとより、その他の競馬場がもう体力がもたないギリギリのところまできている、ということです。実際に新体制に移行するまでには、まだ時間が必要なわけで、こういう時期、こういう状況だからこそ、各競馬場の主催者同士の横の連携、情報交換の場が重要になってきています。なのに、どうやら法律も変わっていろいろ状況が変わるらしいから、今は今年度の分だけ赤字を出さなければそれでいい、あとは他の主催者や「お上」の風向きを見ながら微調整してゆこう――このところこういう思惑の主催者が多いように見受けられます。事実、少し前までいろいろ頑張って新しい対策を試みていたような元気な競馬場でも、今年の春以降、どこも見事に動きが鈍くなっている。主催者任せでなく、厩舎関係者も同じく、横の連携を強めて対応を考えられるようにならないと、せっかくの「最後のチャンス」も流されてゆくままに終わってしまいます。