文筆業者の台所事情

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作家であれ評論家であれ、いわゆる文筆業者たちが実際は執筆よりも地方の講演活動で食べている、という話はよく耳にする。一回の値段はさまざまだが、謝礼の相場は一時間半で三十万円から五十万円程度。高い方では二百万円などという人もいるという。講演の後、主催者側に会場にやってきた人たちも含めた懇親会などが設定されることも多い。

本が売れなくなっている分、このような講演活動自体、致し方ない面があることは理解できる。中身の低調さとは別に未だ花盛りのテレビの討論番組やトーク番組なども、彼らがこのような講演の仕事を取るための顔見世の意味合いが強いとも言われる。とすれば、彼らの本芸であり、全力投球の場のはずの執筆活動にしても、単に講演の顔見世という意味が強くなっているのかも知れないが、まあ、それもまた稼業の論理ではあるだろう。

だが、この講演謝礼の相場がどのように形成されてきたのか。JCなどの講演を仕切っていた広告代理店が作り出したという説もある。ただ、いずれにしても、政治家や芸能人ならいざ知らず、人前で話をするのが本芸ではないはずの作家、評論家、学者といった人種の講演に対する謝礼と考えれば、この価格設定は高過ぎると感じるのは筆者だけだろうか。何より、そのような額の謝礼を平然と受け取れるようになる感覚の麻痺が、彼らの書くもの、語るものに反映されてこないわけはない。稼業の論理は常に両刃の剣なのだ。

*1西日本新聞でも案外たくさん仕事をしている。サンデー毎日にいたSさんの縁で紹介してもらった御仁を糸口にあれこれ書評やマンガ評、時評に連載まで持たせてもらったのはありがたかったし、何よりその「九州」らしい空気が何度か現地に訪れた時にも感じられて、個人的には好ましかった。これは産経の「斜断機」などと同様の、それこそ東京新聞「大波小波」以来の新聞の伝統芸でもある匿名コラムの枠。「風車」という名前もいかにもだった。171127