ニュースキャスターの無責任

 今さらいちいちあげつらうのも大人げないが、テレビのニュースキャスター連中の無責任さに呆然とすることが、最近特に多い。自らものを言う、社会に向かって発言する、ということについての自覚がどこかでおかしくなっているとしか思えないことさえある。

 去る四月十五日、新宿に何かが起こる、という噂が流れた。麻原彰晃の“予言”に端を発してオウム真理教の信者を中心に首都圏ではかなり広まった話ではあったし、事実警察も厳戒体制で臨んだ。万一の事態が無差別大量殺戮になる可能性がある以上、当然である。だが、あの前日の夜、筑紫哲也は自分の番組で、私は明日新宿へ行きます、こんなくだらない噂に振り回されることはかえってオウムの思うつぼです、といった意味の発言をした。同じ時間帯でほぼ前後して、久米宏も自分の番組で同じような発言をしていた。

 もちろんくだらない噂である。そして、その噂によって動かされパニックに陥るのはもっとくだらないし、報道機関の責任としてもそのような事態は極力避けなければならない。しかし、だからと言って「こんなくだらない噂、平気ですよ」という趣旨の発言を何の裏付けもなく、それもマスメディアに流してしまうこととは違う。「単なる噂と思われますが、実際に地下鉄サリン事件もあったことですし、みなさんそれぞれ慎重な対応をお願いします」となぜ言えないのか。そこまで視聴者を、国民を信頼していないのか。彼らの発言で「そうか、大丈夫なんだ」と思って当日新宿へ出かけて、もしも万一何かが起こって被害に遇った人が出た場合、果たして彼らはどのように責任をとるつもりだったのか。

 危機をことさらにおおげさに言い立て、社会不安をあおることの愚は言うまでもない。しかし、それをおそれるあまり、中庸な危機感覚を国民に共有させてゆく努力までしなくなるのはもっと愚かなことだ。そして、テレビにもすでにその重い責任はある。  (鶴)