高崎困民党、健在ナリ

「なんだ、そんなことならまだ競馬やれるんじゃないか!」

 議場にヤジが飛んだ。とにかく交渉の過程がメチャクチャだし、改正競馬法についての理解もおかしい、このまま県側の思惑通り「廃止」手続きだけが進むのはいくらなんでもヘンだ――競馬議員はもちろん、競馬のことなどふだん関心のなかった一般の県議の中にさえそういう声が大きくなってきて、厳しい質問に群馬県側の担当者が立ち往生する場面も再三。このまますんなり「廃止」というわけには、まだゆきそうにない。

 ライブドアの参入表明以降、日本中の地方競馬を巻き込んだ騒ぎの発信源となった群馬県高崎競馬。11月始めに堀江社長自ら前橋の群馬県庁を訪れ小寺知事と会談した後、事態は進展せず、月末には県側が「ライブドア側から具体的な提案がない」「交渉は時間切れ」と、息のかかった一部地元紙に一方的に発表。以後も、岐阜県笠松競馬などがライブドアの話を前向きに聞こうという姿勢を示していたのにも関わらず、「廃止はすでに決定ずみ。くつがえす材料はない」と開き直って強行突破しようとしていた。

 マスコミ報道だけを見て「やっぱり高崎はダメみたいだね」という観測がひとり歩きする中、しかし、うまやもんたちはまだあきらめない。高崎困民党、健在ナリ。


「とにかく、九月に一度“廃止”を宣告されて、うちはもう一度死んでる競馬場なんだよ。二度殺されることはないんだから、やつらにもうひと泡吹かせるために、まだやることやっべよ」

 県側がここまでライブドアの参入提案に対して頑ななのは、理屈ではない。間違いなくもう感情論だ。自分たちのやってきたこと、お役所競馬の既得権益に対して本質的に敵対する存在であることを直感的に察知している。その意味で、彼らの感覚は鋭い。

 ポイントだと言われてきた赤字が出た場合の対処についても、現行の開催経費を削減するイニシアティヴをとらせてくれれば万一赤字でも百パーセント負担しますよ、とまでライブドア側は譲歩している。なのに、聞く耳すら持たないのは、これまでのずさんな経営内容がバレるのがこわいか、それとももっと何か都合の悪いことを隠しているから、としか思えない。

 ライブドアの担当者も「ほんっと、どこもお役人はダメですねえ。特に群馬県はムカつきますよ」と不快感を隠さない。開催経費の削減などを検討するための資料を示して欲しい、と要求していたのにもまともに対応せず、次回の交渉は東京で、と打診しても、多忙だから行けない、と木で鼻くくったような返事をよこすばかり、あげくの果て、「ビジネスマナーがなっていない」「ライブドアが横から介入してきたので、補償交渉が進まない」などとネガティヴなコメントをお抱えメディアに垂れ流す手法。いや、小寺知事自身、取り巻きの記者連には「要は一発屋なんだろ?だったら一発屋らしく最初から十億くらいカネ積んで見せりゃいいんだよ」などと言い放つ傲岸不遜。断言する。赤字体質のまま競馬を永年放置してきた経営責任など、彼らはかけらも感じていない。マナーが悪い? へっ、笑わせるんじゃねえっての。

「なんかねえ、こういう連中が競馬を牛耳ってきたんだなあ、と思うと、情けないよね」

 ふだん、そんなことはまず口にしない寡黙なノリヤクのひとりがぽつり、そう言った。

「でも、ここで俺たちが踏ん張らないと、日本中の仲間がまた同じやり方で、仕事や生活を奪われてゆくんだよね」

 高崎競馬の開催は年度末を待たず、暮れの29、30、31日で終了。一着賞金500万円の高崎大賞典がひとまずのフィナーレだ。けれども、高崎困民党は新しい競馬、自分たちの手でつくる競馬を、まだ確かに夢見ている。