何のための「国際化」?

 さて、いまさらですが、JRAおよびわがニッポンの競馬エスタブリッシュメントの方々に、改めてお尋ねいたします。競馬の「国際化」って、一体何のため、だったんですか?

 思えば、ジャパンカップの創設以来二十数年、もう三十年近くにわたって推し進められてきたプロセス。重賞競走の外国産馬への開放から、そのための関税の段階的引き下げ、外国人騎手の短期騎乗免許制度の設定から、逆にこちらから海外へ打って出るためのさまざまな補助や支援の仕組みもいたれりつくせり、地方競馬や生産者関係はいざ知らず、少なくともJRAについては自ら意識的にそのような「国際化」の旗を懸命に振ってきたことは、いまさら言うまでもないでしょう。

 ニッポン競馬を国際舞台へ――JRAの公式発表を見ても、その方向性はもうこのところずっと、その事業の重要な柱になっているようです。

競馬の国際性は、単にレースに参加することだけでなく、さまざまな国際会議に出席し、意見交換や交流につとめることにもあります。一番身近なものはアジア競馬連盟(ARF)の会議です。これはアジア諸国間の親善と相互理解の促進及び加盟国間の競馬交流を目的として日本の提唱によって創設されたもので、第1回大会は昭和35年に東京で行われ、現在はアジアの国・地域から19団体がメンバーとなっています。平成14年に日本はARFの副会長に就任しており、アジア地区の代表としてますますの重責を任うことになりました。

JRAは昭和30年に「競馬国際協定」に加入し、昭和33年にNASRC(北米州競馬委員会全国協会)の総会に初参加して以来、国際会議には積極的に出席しており、昭和48年以降は世界の競馬会議である「国際競馬総括機関連盟会議」(通称パリ会議)に毎年出席しています。

日本は平成14年からこの連盟の首脳部である執行協議会のメンバーとして名を連ねることとなりました。日本の競馬水準が上昇することに伴い、世界の競馬社会に対する責任もまた重くなってきますが、こうした国際会議を通じ、さらなるグローバル化を推進することがJRAの役割と言えるでしょう。

(JRAのホームページの「業務内容」中、「活発化する国際競馬」より抜粋)

 僕がかねがね素朴に疑問なのは、ならばその「国際化」が何のため、誰のためのものなのか、ということです。

 少なくともファンにとっては、あまり関係がない。「レースの質の向上」と言いますが、外国産馬がたくさん出走し、外人騎手があたりまえに混じるような競馬になれば、それがそのまま「質の向上」になるのか、仮に百歩譲ってそれで競馬の「質」がよくなったという見解があるのだとしても、ならば本当にそれが目の前の多くのファンにとって利益になるのか、いまのニッポンのファンが求めている競馬のあり方がそれなのか、という根本的な問いは残ります。

 いまさら古証文ですが、十年前、アラブ競馬を「廃止」していった時の理屈とよく似ている。「ファンのニーズにあわない」「時代の流れだ」――そんなもの言いで当時、多くの地方競馬がアラブ番組廃止を決定したJRAに追随、バタバタとアラブを廃止してゆきました。その「ファンのニーズ」はどういうデータによって裏づけられていたのか、当時から僕はしつこくいろんな方面に尋ねてまわりましたが、誰ひとり確かな説明をしてくれたところはなかった。まして、馬主や生産者なども含めて競馬の裾野にとって、その政策的判断がどういう影響を与えるのかについて、ほとんど見通しすらなかった。

 それと同じことがいま、「国際化」についても起こっている、僕にはそう見えます。

 国際会議に出席する、「世界」の中で発言権を持つ、それ自体はいいことでしょう。競馬を介した国際親善、結構な話です。。けれども、こと競馬についての「世界」とはどういうものか、国際的にも突出した高額水準の賞金の競馬を整然と、円滑に通年開催してゆくシステムを構築してきた、それは確かにJRAの功績ですが、しかし同時に、その高額水準の賞金を支えてきたのは、今も昔もお客さん、ファンが馬券を買ってくれることによる売り上げであることを忘れてはならないでしょう。

 いま、その肝心かなめの売り上げがどんどん下がっている。JRAには申し訳ないですが、僕はまだまだ下がり続けると思っています。景気が回復しようが関係ない。もはや競馬そのものに関心を持ってもらえなくなっている、かつて競馬に熱くなったファンでさえそっぽを向き始めている、そのことに対する根本的な危機感が、傍目から見る限り、JRAにはまだまだ薄い。

 JRAへの信任選挙があったとしたら、いま、どういう結果が出るのか。どれだけ笛を吹き、太鼓を鳴らしてみても、売り上げ低下が一向に止まらない今のこの現実こそが、実はファンから静かに不信任をつきつけられている、そんな謙虚な認識こそが、JRAに限らず競馬エスタブリッシュメント全てに求められています。