さて、また新しい年です。アメリカ発の世界的な金融恐慌は今年さらに深まると予想されていますし、もちろんニッポン競馬の苦境はいまさら言うまでもない。こうなると、競馬が大変なんです、といくら世間に訴えても、こっちだって大変なんだ、と言い返されるのが関の山で、まさに自助努力、自分たちでまず何とかしようとあがいていないことには、その苦境自体わかってももらえない。ただ、若干いい面があるとしたら、主催者の側が簡単に競馬をつぶしにくくなったことでしょうか。事実、地元の議員などからも、雇用確保の面からにわかに競馬を擁護するような意見も出始めているようで、まあ、このへんは怪我の功名というところかも知れません。
いずれにせよ、前向きに腰を上げてゆけるような話をするしかない。具体的に何をするべきか、から語り始めてみましょう。
番組や競馬そのものの改革、施設の改善などももちろん大切ですが、目先の苦境で案外忘れられていることがひとつ、あります。全国の競馬場の馬券をどこでも自由に買えるようにすること、これです。
それこそJRAの発売システムのように、北海道から九州まで、本場でも場外発売所でも、いつでも全部好きな競馬場の馬券が買えるようになること、です。そして、競馬法改正の最初の段階での「志」の中には、このことも入っていました。
それならば、もうインターネットを介した発売システムが整備され始めているじゃないか、という声が出ます。なるほど、ネットや携帯を介して馬券を買う、そのための環境整備はこのところ進められてきていますし、実際、売り上げの比率を見ても本場や場外発売所に対してそれらネットや携帯経由での売り上げが増加しているのも事実です。
また、戦後ずっと本場以外での場外発売を積極的に推進してきたJRA自身、かつてやっていたようなWINS型の大型場外施設を軸にした馬券販売方針を大きく方向転換、ネットや携帯を介した販売展開の方にシフトしているのも周知の事実。確かに、WINSのような大型ハコもの場外は経費ばかりかかって儲けが出ない、ましてや地元の反対やそのための対策など、カネも神経も使わねばならないことが多すぎて手間がかかる、ということでしょう。
ただ、言っておかねばならないのは、だからと言って「場外発売所」というシステムそのものがダメになったわけでもない、ということです。ダメなのは、WINSのような大型施設を自前でこさえて、というやり方のわけで、そうじゃない形での「場外」ならばまだいくらでも可能性はある。ましてや、経営規模も事情もJRAと異なる地方競馬ならば、ということです。ただでさえ場外展開が緩慢で、今や競艇や競輪に比べても、地方競馬が立ち遅れてしまっているのは、ひとつにはこのような何でもかんでもJRA追随、最も悪い意味での「お上のやることに右ならえ」思考が骨がらみになっていたことがあります。
たとえば、ミニ場外、という言い方も一部で試みられていますが、趣旨としてはあれでいい。ただし、ホッカイドウのAIBAなどを見ても、あまりに客商売として貧しい施設になっているのが現状。いや、カネがなくて、と言うのなら、それこそ競馬法改正で可能性の開けた民間委託の場外発売所、たとえばここにきて一段と逆風の吹いているパチンコや大型スーパーなどの業界から、空いた店舗やフロアを利用して場外発売所に改装してもらうやり方だってすでにあるのに、これも競輪や競艇の方が地方競馬よりもよほど動きが早く、小回りも利いた展開をしていてすでに大きく水をあけられている。どうして競馬の動きが鈍いのか、その理由はいくつか考えられますが、何より、これまでの錯綜した「場間場外発売」システムを全国的に再編成、整備してゆくそのセンターがどこにもないまま、というのが大きなネックです。
Who cares? という英語の言い回しがあります。「で、誰がケツ持つんだよ?」という感じでしょうか。まさにこの Who cares? が地方競馬の状況なわけで、その意味で、やはりJRAは大したものだ、と言わざるを得ないのは、主催権まで持った司令塔がきっちりあって、そこを中心に全国の動きをコントロールすることができる組織だということでしょう。これに対して地方競馬はというと、基本的にそれぞれの主催者(要は地方自治体=お役所ですが)の独自の判断でやっている事業、というタテマエが壁になり、言い訳になり、NARであれ何であれ、全国規模での施策を立てて計画的に競馬をコントロールしてゆこう、という仕組みがないままでした。主催者間の調整がびっくりするくらい旧態依然のままなのも、この「場間場外発売」が遅遅として進まないのも、今の地方競馬の惨状の最も前提の部分の問題はこれでしょう。
だったら、南関東、たとえば大井あたりが旗を振って、まず地方競馬の主催者が同じテーブルにつくことから始めてもらえないでしょうか。そしてそこでまず、「場間場外発売」のシステムをできるだけシンプルに、わかりやすく再編成してゆく具体的な知恵を出し合う。現状未だ笛吹けど踊らず、先も見えず、の「地域連携」「ブロック化」の夢も、まず競馬を支えるべき売り上げの下支えの「改革」をやりつつ考えないことには、絵に描いた餅以下になること必定。実際、NARその他の競馬エスタブリッシュメントがいくら言ったところで、ここまで経営状態の悪化した主催者同志では何も動きようがないわけで、懸案の馬資源の共有化にしても、具体的な馬の輸送ひとつどうやったら経費削減できるのか、いまある競馬の枠組みの中では絶対にムリでしょう。だからこそ、主催者も含めて厩舎関係者も馬主も、そしてもちろんファンも全部一緒になりながら、JRAとはまた違う地元の、ちいさな競馬の未来像を同じテーブルから声に出してゆく、そういう「力」を結集してゆくことが必要です。
「お役所競馬」の悪口を言い続けているあたしですが、「お役所」にもいいところがあるのは、地元の議会に弱いところ。つまり「地元の声」というのが具体的にあって地元の議員やメディアが関心を持って問題にしてゆけば、いやでも動かざるを得ない、ということです。逆に言えば、まず地元で競馬を支える、という態勢をつくること。ばんえい十勝が売り上げ的に苦しみながらもまだ希望があるのは、地元から「競馬はなくてもいい」という声がまず出なくなっていることです。同じように、全国それぞれの競馬場が自分の「地元」をもう一度発見し、力にしてゆくことを手もと足もとから考えて動くことをやってゆかねばなりません。そんな「JRAとは違う地元のちいさな競馬の魅力」をうまく結集してゆければ、JRAと遜色ない売り上げを全国であげることも可能だとさえ、あたしは信じています。