騎手こそ、華

 騎手の交流がいちだんと盛んになり始めているようです。馬資源の共有はハードルがまだ高いけれども、人ならば、という事情が大きい面もありますが、それでも流れとしては喜ぶべきこと。このところ立て続けにそんな流れでいい企画が出てきています。

 まず、27日に行われた川崎の「佐々木竹見カップ」。恒例のシリーズですが、今年も武豊に、もう堂々JRAジョッキーになった元大井の内田博が言わば主賓。対する地方からは、岩手の菅原勲村上忍、金沢から吉原、名古屋の岡部に兵庫の木村健、高知の赤岡、佐賀の山口勲が。そして地元南関東勢は、最近存在感が増した浦和の繁田健、船橋張田京、川崎の今野とそれぞれ南関トップクラスの強者に、もちろんいまや重要無形文化財級の名手、大井の的場文という強力布陣。まずは、「佐々木竹見カップ」の名に恥ずかしくないラインナップでしょう。もっとJRAも含めた全国的な広報宣伝をやってもらいたいくらいのものです。

 と同時に、それと比べれば地味っちゃ地味でしたが、西の方でも素敵なジョッキーシリーズが。25日に福山で行われた「ドリームジョッキーズカップ」です。地方競馬の現役二千勝クラスのジョッキーを集めた企画でしたが、こちらの顔ぶれも実は「佐々木竹見カップ」に勝るとも劣らないものでした。

 名古屋の安部幸、金沢の中川雅に、笠松の「ハマちゃん」濱口楠と元同僚で今は兵庫の川原正ちゃんのなつかしい揃い踏み、そして元中津で同じく今は兵庫の有馬澄、さらに高知の西川、荒尾の牧野孝に加え、折から韓国から凱旋披露の形になった「ミスターピンク」内田利まで。これらに地元福山から岡崎と鋤田のふたりが迎え撃つ形に。「佐々木竹見カップ」の南関東と、もうひとつど岩手と九州との騎手交流シリーズがあった関係で佐賀勢が名前を連ねられませんでしたが、それでも、やはり全国区の二千勝ジョッキーの勢揃いはぜいたくなメニュー。ファンもそのへんよくご存じで、また相互発売の効果もあり、ひさびさに一億を軽く超える売り上げがあったのは、地元的にはちょっとしたスマッシュヒットでしょう。

ちなみに、福山では来月21日に、「福山競馬再生会議――競馬場のある街、その価値は?」と題して、ァンも含めた地元の競馬の未来像を語り合うシンポジウム形式のイベントが予定されています。音頭を取ったのは地元馬主会。NPOなど一般市民の団体を巻き込んだこのような「地元」のサポート体制構築は、ばんえい十勝が一歩先んじていますが、この「民営化」の果実が他の地域にもそろそろ根づき始める兆候だとしたら、これまたとても望ましいことだと思います。

 ともあれ、競馬は馬、であると共に、やはり騎手、ジョッキーも華。この当たり前のことを、しかし、あたしたちはともすれば忘れがちになっているかも知れません。特に、「個」としての馬にスポットが当たる度合いが強いJRAの競馬を見慣れるとなおのこと。その意味で、JRA三浦皇成の大売り出し中なのも、やり方はともかく、その気持ちはわからなくない。

 組織ぐるみカネまかせでいくら煽ろうが、スターホースというやつがおいそれと出てくるわけはないし、何より、広告や宣伝の力で「つくれる」ものでもないことは、この場でも何度も触れてきたとおり。論より証拠、あのご老体のオグリキャップ一頭が未だ府中にあれだけのファンを呼べる、その事実と、たとえばディープインパクトがこの先、年老いた時になお同じことをやってのけられるかどうか、静かに考え直してみればわかるでしょう。それは現役時代の数字や記録だけの偉大さ、とはまた少し別のこと。記録でなく記憶に残る、というもの言いがありますが、競馬などはまさにそういう名もない無数のファンの「記憶」のステージとの相互作用、交歓によって初めて「大衆レジャー」になり得てきたことを、いまみたいな状況だからこそ、競馬のマネージメントに関わる立場の人ならば、絶対に忘れてはならないと思います。

 特に地方競馬は、ジョッキーがどれだけ貴重な「資源」なのか、もっと再認識していい。何年もかけて、費用もかけて育成した騎手が、このところ櫛の歯引く如く免許を返上、姿を消してゆくのが眼につきます。今よりましな競馬場へ、あるいは牧場へ、といったケースだけでなく、競馬という仕事そのものにもう先がない、と見きっての馬と全く関わりない転身も少なくない。

 思えば、今世紀に入ってから、バタバタと小さな競馬場からつぶれていった時でも、調教師もさることながら、競馬にとって花形であるはずの騎手でさえも、その移籍先を探すのは難しいのが普通でした。免許を与えているNARも表立っては調整に手を貸さず、あたら技術と経験を持った職人ジョッキーたちが競馬場の表舞台から姿を消してゆかざるを得なかった。もちろん、その後紆余曲折を経て他の競馬場で活躍している騎手もいますし、先の内田利などはまさにその代表。国境まで飛び越えてニッポンの地方競馬のジョッキーのレベルを「世界」に知らしめている。シンガポールで頑張っている元ホッカイドウ競馬の高岡調教師もそう。「国際化」を、と口にするのなら、海外の競馬事情の紹介に血道をあげるだけでなく、これら言わば草の根からの、追い詰められたギリギリのところから身体を張って活路を見出しつつある「うまやもん」たちの国際化をこそ、もっともっと光を当てて称揚し、ファンも含めて応援してゆくべきじゃないのでしょうか。