福山競馬再生会議

 21日、福山で「福山競馬再生会議――競馬場のある街、その価値は?」が開かれました。市会議員なども含めた地元関係者主体の公開シンポジウム。コーディネーターというか、司会進行の役回りであたしも参加させてもらったのですが、正直、予想以上の盛会になりました。
 主催が広島県馬主会。まずこれだけでも珍しい。「存廃」含めた地方競馬の危機に際して、この種のイベントはこれまでもいくつか試みられましたが、たいていは一般のファンかそれに類する有志が主体。実際に競馬の当事者の一角である馬主会が表立って音頭を取ったというのは、寡聞にして知りません。おそらく、全国でも初めてじゃなかったでしょうか。
 厩舎からも調騎会の代表で小嶺調教師と黒川騎手が参加。地元福山市議会議員で競馬特別委員会委員長の早川  さんに、ファン代表として地元FM福山で長年福山競馬の解説をしている岡本  さん、さらに、ばんえい十勝に参入しているオッズパークマネジメントの新名貴之さんも加わって、福山競馬を再生してゆく手立てを立場を越えて模索しました。
 「自立」「連携」「官民一体の地域ぐるみ」、この3つがいま、福山に限らず、全国の地方競馬再生の最重要課題、言わばキーワードです。
 自立というのは、要するにどこか大きな組織、エラい方面に「お願い」して何とかしてもらおう、という態度をきれいさっぱり忘れることから始まります。たとえば、今となってはもうその役割を終えたところのある交流重賞。主催者はなけなしの財布から賞金を捻出、JRAの馬や騎手を招待して、芸能人やらマスコミやらにも愛想ふりまいて1日限りの一発イベント、それで一気に売り上げ伸ばしてあわよくば単年度の赤字分くらいは埋め合わせできる、そんな発想が一時期、地方競馬に蔓延した。なるほど、確かに「一発逆転」できたケースもありました。けれども、少なくとも今世紀に入って以降、いくら全国発売してもらって売り上げはあがっても、さまざまな経費を割り引けばロクに手もとに残らないのが通例ですし、何より再生への効果的対策になっていない。だから、そういう発想を捨てる。小さな競馬場ならなおのこと、自前で何とかする。たとえ10万、百万ずつでもひとレースごとに売り上げを少しずつ積み上げてゆく。商いは牛のよだれ、と昔から言いますが、自分の手にあったところからコツコツと工夫してゆく態度をひとまず取り戻すことです。
 連携というのは、文字通り、近所の競馬場同士手を組むこと。形だけじゃない、共に開催日程を話し合い、共に場外も含めて売り合い、厩舎ももちろん馬や馬主、騎手など資源をできる限り共有してゆく、そのための工夫や知恵を全力で出し合うようにすることです。新たに地方共同法人になった地全協は、新競馬法下ではそのためのコントロールセンターの役割を期待されているはずですし、場間場外のあがりをかすめることばかりに熱心にならず、少しは死に物狂いで本来の仕事もする構えを、まず見せていただきたいものです。
 最後の「官民一体の地域ぐるみ」は「民活」「民営化」であり、先のふたつとも密接にからんできます。というか、この「民活」を進めるために、先のふたつが前提として認識されていないことには、全てがうまくゆきません。当日、オッズパークの新名さんも「民間を入れたからといって万事うまくゆくなんてことは絶対ないんです」と声を大にして言っていましたが、全部任せる、とばかりに無責任な丸投げ態勢がそのままでは、単にそれまでの「お上」が「民間」に変わったたけで何にもならない。主催者は主催者で全力で競馬を支えようとし、厩舎は厩舎で、そして民間は民間で、それぞれできることをできる限りやる、それが最前提。そこから先、「競馬を続けてゆけるようにするにはどうしたらいいか」、要は「儲ける」ためには何が必要なのか、そのためにできることは何か、を立場を越えて同じテーブルについて、素朴に考えてゆくことです。あれはできない、これは前例がない、というのは絶対禁句。できないならばどうしてできないのか、それをクリアする手立ては本当にないのか。競馬と競馬場のために自前で汗をかき、手間をかける気持ちを当事者は言わずもがな、地元ぐるみでまず持ってもらう努力を全力で始めることが、まず第一歩だと思います。
 小さな競馬、ということを僕はこれまでも何度も言っています。それは地域に根ざした、コミュニティにゆったりと支持された、競馬のフィールドオブドリームスです。大儲けしなくてもいい、最低限赤字が出ないように、地元から全国のファンに楽しんでもらうような競馬にしてゆく。そして、できれば馬たちにも地元にも還元できる程度の利益を何とか出す。そうやって続けてゆく、そんな営みの中にこそ本当の意味の「文化」も「歴史」も宿ってくるはずです。
 地方競馬だけの話じゃない。JRAの売り上げも、年明けからまた一段と下がっているようです。ローカル開催など前年比二割以上減っている日もあったりする。図体が大きい分、舵がとりにくいのに、加速度がついたらなおのこと。小さな競馬、顔の見える地元、そんな手にあった規模のファンから本当に支持されている、という実感の持てる競馬を取り戻すことは、全国区の競馬が常態となったJRAにとってもまた、切実な課題になってきているはずです。