バカは作家でやってくる――飯島 愛を惜しむ

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 かのミリオンセラー『プラトニックセックス』の著者にして元AV女優、飯島愛ドノは、もはや世渡りとしては完璧に「作家」「文化人」モードに突入、たとえシャレでも「バカ」と呼ぶのはためらわれる雰囲気さえ漂っております。

 しかし、彼女は「バカ」であります。いや、「バカ」であることで正しく「文化人」たり得る希有なキャラであった、はずなのであります。

 今から十年近く前、ひっそりと出された彼女の正真正銘の処女作『どうせバカだと思ってんでしょ!』という隠れた名著をご存じか。『プラトニック…』の版元が大手小学館で堂々と「処女作」として喧伝されてきたせいか、この名著はなかったことにされていてあたしゃ不憫でしょうがないのですが、当時『ギルガメッシュないと』でテレビ露出を開始、彼女の主たるお得意サマになっていたキンタマはらした若い衆向けに書かれた内容もさることながら、そんな彼女に注がれ始めていた世間の眼をきれいに逆手に取ったそのタイトルに、当時いたく感じ入ったものです。感じ入ったあまり、『図書新聞』の一面半を占領してびっしり称賛書評を書き、吉田司兄ィに「アホか、おまえは」と罵られたりしたのでありますが、なんの、この判断はいまでも間違っていなかったと断言します。中味は『プラトニック…』と基本的に同じ、彼女の生い立ちをベースにしたエッセイなのだけれども、その頃まだ跋扈していたどんなフェミ本の能書きよりもわかりやすく、リアルに「エロス」と「セックス」について、重いキンタマ抱えて煩悶する若い衆に向かって指南する内容になっていたのでありますからして。

 だが、その愛すべき「バカ」は苦節十年あまり、ついに「神」になった。去年のワールドカップの時であります。

 誰もがムカついた韓国戦での主審の偏ったジャッジ。広告資本主導の「日韓友好」ムードに、事実上の言論統制が敷かれたかのようなニッポンメディアの中で、「韓国はアンフェア、もう私はキムチを食べない」とテレビの生放送で発言、その「勇気」にネット世論を中心に共感の輪が広がりました。

 愛姉さんの大放言が大波紋――W杯で、ベスト4に進出した韓国。その快進撃が喝采される一方、韓国戦での審判が国際的な議論を巻き起こしているなか、タレントの飯島愛さん(29)=写真=が22日、テレビ番組の生放送で「韓国の試合は絶対アンフェア。もう私はキムチは食べない」などと過激な批判を連発。これに、インターネット上で「良く言った」との意見が殺到し、大きな議論となっている。

 

 問題の発言は22日午前の「サンデー・ジャポン」(TBS系)の番組中で飛び出した。W杯での韓国サポーターの熱狂ぶりや、イタリア敗退後、ペルージャガウチ会長が韓国選手を追放すると発言した問題で参加者がコメントしていると、飯島さんが「どこのテレビもトッティの退場プレーを良く分かる背後からの映像を短くカットしてる。ずるいよ」とエキサイト。

 

 さらに、イタリア戦の主審を「だいたいエクアドルの小デブは走れない」と非難。熱狂する韓国サポーターにも「(競技場横断幕に)『アズーリの墓場へようこそ』とかいうのはいいわけ? 相手に礼儀がないのはおかしい」と切り捨てた。

 

 司会の爆笑問題が別の方向に話を振ろうとしても飯島さんの怒りは収まらない。同席したサッカー解説者の奥寺康彦氏に「黙ってないで、言いたいこといって! 私が守ってあげるから」と援護を求め、奥寺氏に「今回は(判定が)ひどすぎる」とまで言わせた。

 

 そして、飯島さんは「もうキムチは食べない」とまで激昂。「日本も(審判を)買収すればよかったんだ」と大暴走、言いたい放題だった。

――ZAKZAK 2002/06/24

 「バカ」全開、こわいものなし……もともと、「もの言い屋」としての飯島愛というのは、こういうキャラでした。

 『ギルガメッシュ…』の頃からすでにその兆候はあったし、その後バラエティ系番組に出てきても、振られる役割は「ホンネでもの言う、酸いも甘いもかみ分けたおねえちゃん」だった。『朝まで生テレビ』に出演した時などは、ギャラリーのガングロ(もう死語だが)女子高生に情け容赦なく罵倒される(当然だけど)宮台真司@テレクラ自慢助教授、の前で「あのさ~、このセンセイ、きっとあんたたちの味方してるんだと思うよ~」と、実に情け深いとりなしまでしていたし。大文字のイデオロギーや政治的立場に左右されない、経験に裏打ちされた(と思わせる)「ホンネ」のニーズ=「バカ」を武器にした正義、は、「オンナ」という前提でさらに増幅されていたわけで、彼女自身が意図していたかどうかはともかく、メディア商品としての「飯島愛」のウリは『プラトニック…』以前からこういう「バカ」系「もの言い屋」モードではありました。

 しかし、です。国内で百万部、台湾でも翻訳されてこれまた数十万部、彼の地ではニッポンオンナのあるステレオタイプとして語られるまでになったという、まさに「飯島愛」を国境を越えたキャラに押し上げるきっかけとなった『プラトニック…』ですが、そういう「バカ」系「もの言い屋」の仕事としては『どうせバカだと…』よりずっと劣る。お約束で言われているゴーストライターを使っているとかは、正直、あたしゃどうでもいい。そんなもん、使わないで本書ける芸能人なんてほとんどいないんだし、いたらあたしらの立場がないっての。何より、「バカ」を自認してきた飯島愛のキャラがそんなもんで傷つくわけもないし。また、やたらデカい活字で行間スカスカの組み方も、親子の葛藤と融和、ってあたりでオチをつけるあざとさも、『積み木くずし』以来の大衆消費財としての読みもの王道を行ってると思えばプロモーションの一環、そんなもんか、と眼をつぶれる。

 いけないのは、あなた、この『プラトニック…』がなんと、マジだということ。「あたしってほんとはバカじゃないもん、悩みも内面もあるもん」って方向に俗情を煽動してゆこうとする、その仕掛けとやり口が実に陳腐で古典的で、悪い意味でブンガクで、なんともやりきれないくらいに臭いだけでなく、何よりもその臭みをご本尊もよしとしてしまっているらしい気配が濃厚なこと、これだ。

 飯島愛よ、おまえは「バカ」ではなかったのか。「バカ」であることを自らよしとし、そのことを武器としてそのキャラをこさえてきたのではなかったのか。

 「なにしろ基本スタンスは「どうせやめる」で一貫している。AVデビューしたからといって、人気者になりたいわけでも有名になりたいわけでもない。そんなコトになれば逆に困るし、しもし途中で嫌になったらやめればいい。そんな気持ちでやっていたくらいだから、もちろんこの世界にはなんの期待も執着もなかった。あるのは「ただ稼ごう!」ただそれだけだった。」

 別に飯島愛だから、というわけでもなく、風俗系の商売に手を染めたコの大方がこういう認識のはずだ。彼女固有の感想というわけでもない。にしても、だからこそ「真実」が含まれる。テレビについてもこうだ。

 「開き直ると簡単だ。どうせやめると思っているから、本音でしゃべる。視聴者やテレビの人間にとってみれば、これほど面白いことはなかったのかもしれない。下世話な話でも下ネタでも、振られれば何でもしゃべった。もし「芸能界で成功してやろう」なんて気持ちを少しでも持っていたら、もっと自分を繕ったり、よそゆきの自分で勝負するんだろうけど、元よりそんな気持ちはない。素人が、素人丸出しのまま、好き勝手に仕事をしていた。素人だから、何をやっても許される。何をいっても許される。私はただ、思ったことを口にするだけでいい。」

 あのバストが整形であることを事実上告白し、セックス依存症だった過去の事情までもあけすけに語る男前ぶり、そうやって「バカ」の王道を演じようとしていながら、それでも「本番はやっていない」と言い張るあたりの詰めの甘さ、に、飯島愛よおまえもか! と、あたしゃひたすら嘆息してしまうのであります。

 案の定、というか、AV時代の彼女の画像を倒産した会社から買い取って再販することになった版元に対して、彼女の所属するワタナベエンターテインメントは弁護士を介して「販売自粛」を要請する文書を、取り次ぎその他に配布し、「法的措置も辞さない」という通告書を送りつけてきたといいます。

 「本件各ビデオが撮影された当時、本件タレントは、未成年の少女であり、本件各ビデオは、その行為が本人に及ぼす甚大な影響等について十分な説明のないまま、甘言を弄して制作されたものです」

 

 「本件各ビデオ及び本件各写真が、本件タレント本人の正当な許諾を受けて撮影されたものと解すべきか否かすら、疑わしいもの」

 

 「貴社(鹿砦社)のこのような行為は、明らかに青少年保護育成条例の趣旨に反する脱法的な反社会的行為であり、(…)青少年の保護育成の観点からも憂慮すべき、見過ごすことができない問題である」

 あああ、もう、情けなくて涙が出ます。どうせ弁護士の作文なんだろうけど、これを飯島愛本人が了承しているのだとしたら、あんたキャラのコントロールを間違ってる。「あたし若くて世間知らずだったんで、騙されてAVやらされてたんです~」「だから写真も映像もほんとはあたし撮られたくなかったんです~」って、あんた、一千万円に眼がくらんで、ってはっきり言ってるじゃないのよ、『プラトニック…』で! どうせ言うなら、「あたし、アソコがあんまりキレイじゃないし、仕事も思いっきり手ェ抜いてたからいま見てもあんまりいいデキじゃないから、やめといて」ぐらいのこと言えば、また男前ぶりもあがったろうに。

 ちなみに、浅草キッド水道橋博士によれば、飯島愛曰く、『プラトニック…』を贈呈した芸能人は「古舘伊知郎大竹まこと伊集院光浅草キッド」だとか。う~ん、「ちゃんと読んで、しかもあたしのキャラを傷つけない範囲でわかって宣伝してくれて、さらにそのことがアタシのキャラ偏差値をあげてくれそうな人」を選別する眼と鼻はさすがに働いているようですから、とっととこの間抜けな作文書いた弁護士を解雇して、あなたひとりで敢然、訴訟の第一線に立つことを強くおすすめします。そうすれば柳美里ごときのキチガイに振り回されて右往左往している小学館も、またそれに尻尾振ってるそこらのアタマの悪いブンガク評論家なども、きっとあなたの前にひれ伏することでしょう。松川裁判、チャタレイ訴訟以来のニッポンブンガク史上に残るブンカ的な名訴訟になること、このあたしが請け合います。