競馬じゃもう食えないから……――宇都宮競馬、終焉

 地方競馬まわりの競馬マスコミの大勢が、アジュディミツオーのドバイ遠征に呑気に盛り上がっている間に、またひとつ、競馬場がひっそりと最期を迎えました。宇都宮競馬場です。

 今年度内で廃止、ということはすでに決定していたのですから、これはもう予定通りではあるのですが、それでも、これでもう最後、という競馬場を見送るのは昨年末、大晦日にそそくさと店じまいした高崎に続いて、ここ一年の間にふたつめ。もう、ほんとにいやです。

 思えば四年前、2001年3月末に突然表明された大分の中津競馬の廃止から始まった地方競馬のドミノ倒しですが、一年の間にふたつの競馬場が立て続けに閉じるというのは初めてのこと。しかも、これは他の場所でも指摘してきたことですが、これまでのような市営規模の競馬場ではない、れっきとした群馬・栃木の県営の競馬にまで廃止が及んできたというのも、前例のないことです。

 3月13日・14日の日・月曜開催が文字通りの最後の競馬で、最終日の14日などは月曜日だというのに主催者発表で6600人からの観客が押し寄せ、これはまあ、最後だからという御祝儀相場だとしても、「考えたら、十年くらい前まではふだんでもこれくらいは入ってたんだけどなあ」というノリヤクたちの嘆きは改めて痛切でした。

 本来ならば高崎も当然、年度内3月末まで開催予定があったのですが、昨秋の廃止決定と同時に群馬県は、開催自体も年内12月での打ち切りを一方的に宣告、しかも最終日の大晦日は降雪でメインの高崎大賞典まで至らず途中開催中止というなんとも情けない幕切れになったのに比べれば、宇都宮の方は同じく暮れに降雪で開催中止になったとちぎ大賞典を何とか最後に振り分けることができた分、格好だけはつけられたのが不幸中の幸いと言えば幸い、でした。それでも、これで足利、高崎、宇都宮という北関東の競馬場は全滅。山形の上山競馬もすでに亡く、思えば浦和から水沢まで、南関東から岩手の間に競馬場は全くなくなってしまったわけです。かつて、北海道から貨車積みした若馬たちを青森から岩手、山形、福島、とじゅんじゅんにおろしていって、最後は南関東、それこそ汐留から大井や川崎まで馬を引いていった、といった経験もすでに昔語りとなってしまいました。

 何より、厩舎関係者のその後の身の振り方がほとんど決まっていないことが、どうにもいたたまれません。高崎の関係者はごく一部、佐賀や金沢に移籍が決定、新たな仕事をスタートさせている人もいますし、前回少し触れたように、存廃騒動から何とか一年間の「執行猶予」のついた笠松競馬に移籍する動きもあります。また、境町トレセンに立てこもる形で育成施設として何とか仕事を確保しようという人たちもいますが、それらはほとんどが関係者の自助努力。主催者側から何か働きかけての成果とは言い難い。さらに、栃木県の方はというと、先に廃止になった足利競馬場に残って宇都宮での開催に出走させていた厩舎も含めて、調教師も騎手も行き先はほとんど決まっていない状態です。

 
「こういう時代だから、安泰な競馬場なんてどこにもないよ。どこへ移ってもまたすぐに廃止になりかねない。むしろ、何とか受け入れてくれた競馬場から次につぶれる、ってジンクスもあるからね」
と、ある調教師はさびしそうに笑ってましたが、新潟、上山、高崎と渡り歩いて二度、三度と存廃騒動を経験してきた関係者もいるのを見ると、決して冗談になりません。実際、かつての春木競馬の生き残りなども関係者に混じっているのが、今回の北関東の廃止沙汰の現実です。何にせよ、貴重な技術者である調教師や騎手、厩務員はもちろん、装蹄師、獣医など厩舎関係者の有効活用をまるで考えないままの廃止沙汰というのは、これまでの「お役所競馬」の習い性とは言うものの、本当に許しがたいものです。

 地方競馬なら地方競馬の調教師免許、騎手免許というのは、基本的に全国区、のはずです。それぞれの競馬場の調騎会が受け入れないことには実際に移籍できないというのは、地元の関係者の生活を守るという意味ではある程度仕方のないところもあると思いますが、だったらなおのこと、廃止を決定した競馬場の主催者なり、また何よりその免許を発行し管理している地全協なり何なり、大所高所から競馬を管轄する立場の者が、積極的に動いて何か対策を講じるのが筋ではないのでしょうか。

 この四月から、平場の最低の一着賞金が二十万円を切る競馬場がまた増えます。ノリヤクの固定給は月にわずか五万や六万というところも珍しくない。「あの、バイトしていいですか?」と真顔で主催者に相談にくる若いノリヤクの話など耳にするたびに、ほんとに同じ日本、同じ競馬という仕事でどうしてこういう違いがほったらかされたままできてるんだろう、と、心傷みます。競馬を現場で支える人たちが競馬という仕事に夢を持てない現状を放置し、彼ら彼女らのささやかな暮らしを考慮しない、できない主催者や競馬関係団体など未来永劫、呪われてしかるべきです。