うまやもんにも「再チャレンジ」を

 笠松安藤光彰騎手が、JRAの騎手試験に合格しました。ご存じ、あの「アンカツ」安藤勝巳騎手の兄。今年度初挑戦で一次試験から突破、というのは、園田の赤木、笠松の柴山の両騎手が事実上無理と言われていた一次試験からの合格をやってのけて以来、情け容赦なく試験問題の中身を難しくしたと巷間、言われていた中、ひとまず立派なものです。

 「筆記(試験)は、できた、という手ごたえがあったんだよ。むしろ口頭試問の方が、失敗したかな、って思うとったで自信なかったんだわ」とは、本人の弁。現役の騎手学校生徒よりも高得点だった、と言われた赤木騎手のケースほどでないにせよ、かなり頑張って試験対策をやった結果だったのは間違いないようです。 「国際化」を標榜してめでたくグループワンに仲間入りしながら、日本と海外の間の壁よりもJRAと地方、地方と地方の間の壁の方がずっと高い、というのが、未だニッポン競馬の現実。海外の騎手が短期騎乗で年間に何人もJRAに参戦してこれるようになっても、同じ国内の地方競馬の騎手に対してはその門戸は狭いまま。安藤勝巳騎手以来、その狭き門をこじあけて小牧太、岩田など何人かがすでに移籍し、しかもそれぞれ大活躍しているわけですが、対するJRAの騎手会の方が「もうこれ以上、腕達者の地方騎手を入れないでくれ」と言わんばかりの動きをしていたり、いやもう、あまりに情けない限り。同じニッポンの競馬、同じ稼業のプロ、じゃないですか。恥ずかしくないんですか。

 それでも、少しずつ時代は変わりつつあります。不幸にして廃止する競馬場が続出、各主催者の自主努力も限界にきて、これまでの枠組みがなしくずしに自然崩壊を始めている地方競馬では、これは怪我の功名と言うべきか、少なくとも騎手の交流は以前よりずっと活発になってきています。

 そもそも厩舎関係者、とりわけ地方競馬のうまやもんたちというのは、その土地、その競馬場に根づいて暮らしている人たちで、不思議なことに移籍してもその先にうまく根づけるかどうかは正直、難しいところがありました。古くは春木や紀三井寺の時もそうでしたし、中津、益田、三条、上山、そして高崎、足利、宇都宮と続いた近年の廃止競馬場からでさえも、縁あって他場に移っていった騎手や調教師たちでそのまま新天地で活躍できた例は、決して多くありません。それでも、以前のように閉鎖的で、とにかく「よそもの」は新たに入れない、といった頑なな姿勢は、どこの競馬場も人材が減ってきている苦しい現状もあり、結果的に緩和されてきている。そのため、短期免許を継いで全国行脚の道を選んだ内田(利)騎手はもとより、同じく宇都宮から北海道に移籍して大暴れした山口(竜)騎手を始め、船橋へ移籍した森騎手、高崎から浦和の水野騎手、新潟から向山騎手(笠松)や山田(信)騎手(船橋)、益田からは御神本騎手が大井、秋元騎手と岡田(大)騎手が浦和、峪畑騎手が福山、上山からも小国騎手(ホッカイドウ)や前野騎手(佐賀から金沢)など、紆余曲折しながらもそれぞれ行った先に根づく例が相次いでいます。いや、それだけじゃない、自ら望んで笠松に短期騎乗を希望した大井の本村騎手や川本騎手のような意欲的な若手も出てきていますし、さらには一度は免許を返上したものの、再度チャレンジして再デビューを果たした元高崎の川崎騎手や、こちらは調教師ですが同じく元高崎の法理師(免許は継続取得していましたが)のような「再チャレンジ」組まで出てきています。結果として主催者の無策無能の犠牲になった彼らが、それでもしぶとくまだ競馬という仕事で頑張っている姿を見るのは、ファンにとってもうれしいことです。ましてやネット配信などの環境が整備されてきた昨今、地元にもう競馬場がなくなっても、かつてそこで乗っていた騎手や走っていた馬たちを手軽に眼にできるようになっている。そういうささやかなことが、減少を続ける競馬ファンの心をつなぎとめることでもあります。

 地方に限らず、JRAも含めて、競馬自体にこの先もうかつてのような売り上げは望みにくい現在、先行きに見切りをつけて競馬場から離れてゆく人たちが出るのは、これはある程度致し方のないことでしょう。それでも、免許制度の中にいる騎手や調教師には、できる限り免許は返上せずに更新できる限りはしておくことを、僕は強くすすめます。地方競馬をめぐる環境が間違いなく大きく変わる、そんな中でまた競馬を仕事としてゆける可能性だって出てくるかも知れないじゃないですか。

 と同時に、まだ競馬で仕事をしたい、それだけの意欲も技術もある人たちには、できる限りその場を開いてゆく、それもまた競馬を裁量する主催者なり、そのまた上の政策含めて案配する立場の責任です。競馬は馬が資源であると共に、その馬と共に仕事として競馬を支える人たちもまた大切な資源です。その技術や知恵、意欲などをないがしろにする施策をやっていては、どんな競馬も成り立つわけがありません。

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