冷凍マンモスのこと

 しかし、みんなそんなに冷凍マンモスの尻が見たいのか? つまりは、象の尻だぞ、おい。

 かの「愛・地球博」である。いまどき「万博」である。世界の国からこんにちわ、である。「天皇」が、もはや昭和天皇の固有名詞みたいになってるのと同様、「万博」と言えば1970年の大阪万博、高度経済成長が盛り上がるだけ盛り上がった最後の瞬間のあのでっかい五尺玉、しかわれら国民の記憶としてはあり得ないと思うのだが、いまどき敢えて「万博」とは。でもって、目玉の売り物が、ああ、なんと象の冷凍とは。素晴らしすぎる。

 象の見世物は、古く江戸時代からあった。幕末までに都合三度、シャムだか安南だかから日本に渡来、現地の象使いもついてきて、両国界隈で見世物に供されて大人気、、「一度見れば七福あり」とまで言われ、錦絵にもなっている。さらには、時の天皇に拝謁させるのに冠位まで与えられただの、最後は中野村の百姓に払い下げられてそこで生涯を終わっただの、いや、実は信州あたりで農作業に使役されていただの、まあ、そのへんの顛末も含めて、近世民衆生活史にまつわる民俗学トリビアのひとコマ、ではある。

 何も象に限らず、ラクダや虎も動物見世物の定番だった。近代になって動物園がそのへんを引き継ぐのだけれども、思えば「万博」もしょせん国が勧進元のでっかい見世物。遠くシベリアから掘り出した冷凍マンモスがこの21世紀の日本でなお呼び物になるのも、微妙に「伝統」ってやつかも知れない。もちろん、手作り弁当広げてわいわいやるのが定法。食べ物持ち込み禁止などという無粋な規則は糞食らえ。裃つけた役人根性じゃ活きた興行は立ち行かないものと思い知られよ。