「額に汗して働く人たちが憤慨するような不正を摘発してゆきたい」――ライブドア騒動の最前線で捜査の指揮をとる東京地検特捜部長の発言だそうです。おお、よく言ってくれた、と拍手喝采する向きも結構あるようで、まあ、その程度にはわがニッポンの民心は未だ健康なり、です。
とは言え、農業以下の一次産業従事人口が少数派に転落してすでに久しく、もはや完璧に三次産業主体の高度ポスト産業化社会の現状で、なおこういうもの言い。地道であること、中庸を保つことの美徳を説くのは賛成ですが、比喩でなく本当に額に汗して働くのは外国人ばかり、という近未来さえ目前の昨今、いまどきの「仕事」を語る言葉が未だこんな旧態依然のままというのもそれはそれで、なんだかなあ、です。
IT企業などはしょせん虚業、という言い方も目に立ちます。虚業の最たるマスコミ関係者が得意げに口にしているのは大笑いですが、そう言う人たちの頭にはその対極に「実業」があるのでしょう。でも、この実業というもの言いも、もとは明治の終わりに出てきた新しい言葉。当初はまさにカネ儲け、それこそホリエモン並みの経済優先な新たな世渡りの必要を説くもの言いでもあった、といった来歴などはきれいに忘れられているようです。
そう言えば、額に汗する人たちの定番には「労働者」もありました。今様口入れ屋、桂庵たる派遣会社が我が世の春を謳歌し、増え続ける契約社員やパート、バイトの現実には労働組合も見向きもしない現在、あたりまえの「仕事」の手ざわりを穏やかに伝えられる言葉やもの言いの不在のままでは、また必ず足もとの現実から手痛いしっぺ返しを食らわされるはずです。