とにかく場外をつくろう

 馬券が売れなければ競馬は成り立ちません。いまさら改めて言うまでもない、当たり前のことです。ですが、その当たり前のことを、少なくとも地方競馬に関しては、現場の厩舎関係者はもちろん、肝心かなめの主催者さえもがこの期に及んでまだ、あまり身にしみてないようなところがあります。

 売り上げ低下をぼやくばかりではもうどうにもならない昨今のこと、いくらお役人とは言いながら、隣近所の競馬場と相互に馬券を売り合う試みを始めてみたり、そうやってたとえ一日一千万程度の売り上げでも少しずつ積み重ねることから当座やらないと、という危機感くらいはいくらか共有されるようになってはきている。とは言え、それは本当に困窮がぎりぎりのレベルにまで煮詰まってきた小さな競馬場のこと。いくらかでもまだ内部留保があったり、あるいは少し前までの「優等生」意識が未だに抜けないような地域や競馬場だと、そういうなりふり構わぬところまでには、未だなかなか至らないようです。

 思いっきりざっくり言ってしまいますが、いま、競馬法の第二次改正が目前に迫っているこの段階で、地方競馬の主催者がとりあえずやっておかねばならないのは、主催者組織の見直しやそれに伴う経費の徹底的な削減、合理化と同時に、とにかく自前の場外発売のネットワークを拡充してゆく努力を全力でやっておくこと、これに尽きます。それは、敢えていやな言い方をすれば、近い将来、最悪、競馬を開催できなくなるようなことになったとしても、馬券を「売る」そのシステムさえきちんと整備拡充し、確実に利益が落ちるようにしておけば、補償なりその後の後始末なりの資金も期待できれば、将来また自治体予算に貢献できる可能性も出てくる、ということでもあります。本当に有能なお役人ならば、それくらいの目算はあって然るべき。なのに、ここ一、二年の流れを見ていても、そのような新たな場外発売所を開設してゆく動きはあきれるほど鈍いまま。やはり、競馬担当のお役人というのはその程度、ということなのでしょうか。

 JRAの方では、これまでのWINSを軸にした場外展開からすでに方針転換、ネットや今後携帯までも視野に入れた新たな馬券発売を視野に入れた動きを始めています。WINSのようなハコモノ場外展開があまりにムダが多く、たとえそれで売り上げを伸ばしたところで出費分が多い、つまり儲けにならない、という事情があると言われている。だから地方でも右へならえ、で、新規場外の建設に二の足を踏んでいるようなのですが、しかし、僕に言わせればそれはミソもクソも一緒の話。これまでWINSが進出する時に地元にカネをばらまき過ぎた、そういうJRA商法のツケというところもあるはずで、同じように今、この状況で地方競馬も場外発売所建設を自粛していい理由にはなりません。ホッカイドウ競馬のようなミニ場外規模でいい、もっと言えば馬券の発売機を数台置くだけでも構わない、とにかく地元の範囲でどこででも馬券を買えるようにしておくことが、目下手っ取り早くできる「ニッポン競馬の未来」のための手もとの一歩、です。

 もちろん、以前から言っているように、ネットや携帯を介した馬券の発売は今後、新たに増えてきた三連単に代表されるような「ワンコイン馬券」のファンに対応する上では必須ですし、それが今後の大きな流れなのは間違いない。けれども、特に地方競馬について言えば、そういう新たなファン層への対応と全く同等、いや、場合によってはそれ以上に、今自分たちの抱えている眼前のお客さん、ある程度年齢層の高い昔ながらのファンへのケアという意味でも、もっと気軽に馬券を買えるような場外システムを構築してゆくことが不可欠です。

 すでに、馬券発売の民間への委託は現行の競馬法でも可能になっています。パチンコ店やショッピングモールなど、潜在的なレベルも含めて事業への関心はずっと増えてきている。問題は、それをうまく掘り起こしてつないでゆく受け皿がまだ全く不十分なまま、だということです。ネットでの馬券発売はソフトバンク楽天がそれぞれ既存の地方競馬の市場を引き受けて開拓し始めていますが、これまでの場外発売のシステムの方は未だ旧態依然、地全協の下請けに等しいNRSが縄張りを囲っていて、しかもせっかく新規に参入しようとしてきている民間の業者に対しても、年間800万程度のポストを平然と要求してきたりという、相も変わらずの天下り根性のお役所商法。こういう既得権益をそのままにしておいては、どれだけ競馬法がドラスティックにいじられ、各競馬場の再編や整理統合が行われようとも、JRAを頂点とした日本競馬全体が持っているポテンシャルをほんとうに活かしてゆくような形にはならない。同じことは、馬券の発売機やトータリゼータ関連システムから、馬の輸送や馬糧の仕入れ、果ては予想紙に至るまで、競馬の周辺業界全般にも言えることです。

 馬券を「売る」、客商売としての競馬を本当に風通しのいい形で稼働させてゆくためにも、番組や日程、厩舎管理と公正確保、といった面からだけ競馬を考えるのででなく、そういう「売る」ためのシステム全般についても根本的な洗い直しと再編成が、今は必要な時期です。日本競馬の構造改革とは、そのような面も含めてのことなのだ、という理解が競馬に携わる人たち全般にもっともっと浸透してゆかないことには、どんな改革も絵に描いた餅、に終わることでしょう。

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