南関東、そして大井の価値は?

 今日はひとつ、南関東地方競馬にエールを送りましょう。

 どうしていまさら、って? 新しい地方競馬の体制では、ナイター競馬コンテンツを持った南関東と、馬産地競馬の背景を持つホッカイドウ競馬とが手に手をとって、新たなニッポンの地方競馬の中核にならなければならないと思うからです。特に大井が、その中でも主軸として自覚し、主体的に動いてもらわねばならないことには、どうにもなりません。

 とは言え、全国的な売り上げ低迷から大井も逃れられていない。最低賞金が一着百万円を切ったのが少し前。そうか、あの大井でさえも、と静かな衝撃が走りました。現場の厩舎は言わずもがな。他の競馬場から見れば、大井はまだまだ大丈夫だろう、と思われているかも知れませんが、実際の厩舎経営の収支はどんどん悪化。かえってまだ華やかなイメージがある分、よそからの眼はもとより、当の大井の厩舎関係者でさえも危機感をあまり持てないでいるところがあるようです。 

 同じような意味で、ナイターを中心にした大井の、そして南関東の競馬コンテンツというのは、すでに全国区でなじみのあるものになりつつあるにも関わらず、そのことについて、実は当の南関東の主催者自身がいちばんよくわかっていないかも知れない、という構図もあります。

 たとえば、WINSなど近隣にどこにもなく、JRAの競馬を楽しむことはテレビやネットを介してできたとしても、実際に馬券をその手で買うためにはクルマで何時間も走らなければならないような環境にある、とある地方の山あいの小さな町。パチンコ屋くらいはいまどきのこと、いくつかあるその中のひとつが、経営不振もあって何年か前から場外馬券を売るようになった。地元の地方競馬の場外ですが、併売で東京の大井のナイター競馬なども売る日ができた。なにせ夕方から夜にかけてのこと、仕事がおわってからでも暇ついでに通うようになる。大きな映像を介して見る東京の競馬、カクテルライトに映える馬たちもきれいだし、何より頭数もふだん見ている地元の競馬より多くて華やかさがある。自然にジョッキーの名前もなじみになり、勝負服もその戦法も覚え、一年を通じたレース体系はもとより、さらにメジャーなイメージのあるJRAの馬やジョッキーがやってくる交流重賞なども季節の風物詩として身について、長年なじんだ地元の競馬とはまた別の、メディアを介して増幅されたイメージも含めて「熱く」声援を送るようになってゆく――こういう、眼には見えにくいけれども、しかし全国のあちこちにの草の根の大井ファン、南関東のなじみというのが確実にある層を作り始めています。

 先日、とある南関東のジョッキーにそんな話をしてみました。あんたら、いつもファンに見られて競馬やってるわけだけど、でも、目の前にいるだけがファンじゃない。どこか田舎の山の中の場外の大画面の前にたむろしているおっちゃんやアンちゃん、おばはんやねえちゃんたちに「○○~ッ」と、いつもの南関東の競馬場と全く同じように一喜一憂、ヤジられたりおがまれたりぼやかれたり、知らない間にいろいろやられてるんだぞ、と言ったら、へええ、と眼を丸くした。ヘグったらそういうお客さんからも叱られてるんだろうなあ、と苦笑い。でもだったら、意外なところでボクのファンなんかも、もしかしたらできてるかも知れないですねえ。

 そうだそうだ。だから手があいた時にはできたらこれまで乗ったことのないような競馬場、手があいたらたまには見学兼ねて乗りに行ってみなよ、ヘタしたら地元よりたくさん声がかかるかも知れないぜ。

 JRAを中心に営々と築き上げてきたニッポン競馬の「ファン」の広がりというのは、いま実際に馬券を買ってくれている人たちのさらに外側に、かつて競馬に熱くなった世代、あるいは競馬場に足運んだことはなくても場外の常連、メディアを介してバーチャルな「競馬」にも同じように一生懸命になる資質を持った、眼にみえない部分もすでに膨大に仕込んできています。だから、それを信頼して競馬を下支えしてゆくようにもってゆく。ナイター競馬という武器を持った南関東、大井を中心とした戦略ならば、十分それは可能なはずです。

 商品としての南関東の競馬を、もっと全国的に売ることができる仕組みを整備する。ぶっちゃけ場間場外も含めた、全国の地方競馬の馬券販売システムをもっとシンプルにわかりやすく、南関東を中心に再編成してしまう、これがいま、大井と南関4場に課せられた最大の使命です。どこの競馬場も場外も、大井のナイターを看板商品にしながら、同時に地元の競馬も南関東で、そしてできる限り他の地方でも相互に売り合ってゆく。そういう新たな経営基盤を確立させてゆきながら、同時に生産頭数の減少など競馬をめぐる環境の変化に伴う問題、たとえば馬房数の調整や外厩制度、輸送システムの簡素化、効率化などにも対処できるようにしてゆく。大変難しいことですが、でも、これをうまくやりとげられれば、10年後にはもしかしたら今のJRAのローカル開催などより、そんな新しい地方競馬の方がはるかに魅力的な競馬コンテンツになって、ファンに愛されているだろう、と予測します。