「都市伝説」の逆襲

 ああ、今のニッポンの情報環境だと「都市伝説」はこういう具合に裏打ちされて再活性化してゆくのか、と改めて興味深く眺めています。例の食物「偽装」疑惑の連鎖です。

 ハンバーガーのパティは実はネコの肉で……といった、証拠はないけどもしかしたらそうかも、とつい思ってしまうような噂話の類が「都市伝説」。最近またぞろ取りざたされるようになってますが、もとはれっきとした民俗学の学術ターム。“urban legend”の訳語です。興味ある向きは、ブルンヴァンの名著『消えるヒッチハイカー』からどうぞ。

 騒動は、不二家から赤福に吉兆と「老舗」を順繰りに襲撃した後、今度はネット発、自称牛丼チェーンのバイトが商売ものの食材をおもちゃにしている動画をアップしたり、フライドチキンの厨房でゴキブリ揚げたよ、と「証言」する不届き者などが出現して、これはこれで該当企業が平あやまりで火消しにまわる、格好のワイドショーや週刊誌ネタに。確かに、今やファストフードからファミレス系まで「外食産業」ならばどこでも「都市伝説」のターゲットになり得るわけで、そこにネットがからめば「実は……」という噂には事欠かない時代です。

 ハンバーガーのパティもフライドチキンも、もともとどんな食材だったのかがわかりにくい。その分、こういう都市伝説の素材になりやすい。その意味じゃ「賞味期限」の偽装問題はまあ、きっかけみたいなもの。もとから漠とした「不安」があるから“おはなし”は成長する。古くて新しい、「近代」の生活世界に根ざした新たなフォークロア、というわけです。

 もっとも、本家アメリカでも、スーパーの閉店後に店員たちがペットボトルを並べて冷凍ターキー(七面鳥)をボール代わりにボーリングをしている、てな話はいくらでもある由。ただ、どんなおバカなネタでも、まず“おはなし”として口頭で語り継ぐ「場」がまだ生きているところが、こちとらとは違う。若気の至りのバカ話を仲間うちで語り合うより先に、ネットのそれも日記でうっかり全世界に向かって垂れ流してしまうことの意味も、わがニッポンの〈いま・ここ〉固有の問題として同等に考えねばならないと、民俗学者として思います。