馬の頭を蹴った、から始まること

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 馬の頭を蹴った、という些細なできことから、ちょっと騒動が出来しています。北海道は帯広、ばんえい競馬の競馬場でのことです。

 ばんえい競馬というのは、普通の競馬と異なり、サラブレッドの倍ほどある体重1トンにもなる重種馬たちが鉄製のそりを「輓曳」し、200mの直線馬場の2個所の坂路障害を乗り越えながら競うもの。早い話が、荷馬車を引っ張る馬車ウマのその仕事っぷりを競馬にしたようなもので、山仕事や運送などに開拓以来、馬を広く活用してきた北海道ならでは生活文化に根ざした、全国でもここだけの競馬です。以前は道内でも複数の競馬場、北見や岩見沢旭川などでも巡回で開催されていましたが、今は帯広だけになっている。とは言え、道庁から「北海道遺産」認定もされ、またここに来て全国的に地方競馬の売上げが底を打って経営環境が好転したこともあり、この3月までの2020年度は過去最高の売上げを記録して、まずは新年度に向けて得手に帆を上げる状態ではあった、その矢先の椿事でした。

 4月からの開催に向けて新たにデビューする2歳馬たちの能力試験、つまりばんえいの競馬ウマになれるかどうかの模擬レースの場で、障害を乗り越えられずに前脚を折り曲げてエンコしてしまった馬を何とか立ち上がらせようと騎手がソリから降りて叱咤激励、その際、思わず足で馬の頭部を「蹴った」映像がwebを介して拡散され、それを見たいまどき世間のメディア桟敷の善男善女らが「かわいそう」「動物虐待だ」と当該競馬場や主催する帯広市役所に抗議の電話やメールを殺到させたというのが、まずはことの発端。わずか数日で1,500件以上ものそういう「市民の声」が寄せられ、また手回しよく地元の新聞やテレビからwebのニュースサイトなどにも派生的に取り上げられ、それらの中に「動物愛護」の観点からの情緒的な批判から、騎手をやめろ、いや、そんな残酷な競馬そのものもやめちまえ、といった極端な論調まで混じるとなると、事態はさらに「炎上」、主催者側が対応に追われる始末に。

 競馬の開催中のできごとでもなく、競馬法その他に抵触する事案でもなさそうなのに、競馬の監督官庁である農水省は競馬監督課からいち早く帯広市に口頭で事態収拾の指示を出し、それに応じた形で当該騎手の処分と騎乗自粛、その他類似事案の発覚とそれに伴うさらなる処分の発表から記者会見に至るまで、どうも事態の展開があまりに早く、かつ仕込んだかのような手際のよさに違和感を抱いていたところ、ここにきて、とある関連記事にはこんなことも。

「4月23日には本行為は動物愛護管理法第44条第2項で定める動物虐待罪にあたるとして、NPO法人アニマルライツセンターが北海道帯広警察署(署長:野手敏光警視正)に刑事告発状を発送している。」

 「社会運動」として動物をダシに「環境」や「エコロジー」に棹さしてゆく芸風は、かつての消費者運動などから本邦でもすでにそれなりの歴史がありますが、この2月には、かの小泉進次郎環境大臣が唐突にこんなことを言い始めてたり。

小泉進次郎環境相は26日の記者会見で、鶏卵業界で複数の鶏を収容したケージ(かご)を密集させる「バタリーケージ」という飼育方法を採用していることについて、所管する農林水産省と連携して改善に取り組む考えを示した。「バタリーケージ含め、アニマルウェルフェア(動物福祉)の観点から、連携が深められればと思う」と述べた。環境省は動物愛護を担当している。」

 環境省農水省の連携事案の一環、という「問題化」のからくりがほの見えたかな、というあたりで、なんだかんだで40年近くなる地方競馬とそれを仕事とする界隈とのつきあいもまた、否応なくこの21世紀、令和の御代の〈いま・ここ〉に巻き込まれてゆくことになりそうです。

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*1: 各種報道、例によっての手癖でしかなかったが、ようやくまっとうな「コメント」と言えるものが出たのは善哉……210503 note.com