「全面勝訴」ご報告

 まずはご報告から。

 2020年6月末、勤め先の大学をいきなり「懲戒解雇」されて、あまりの理不尽に地位確認と損害賠償を求めて札幌地裁に民事訴訟を提起していた件、2年9ヶ月ほどの審理ののち、先日2月16日に判決が出ました。結果として「全面勝訴」と言っていい内容でした。本誌読者の集いでもお話させてもらったこともあり、ご心配おかけしていた向きもあったかと思いますが、一審地裁段階とはいえ、まずはたいへんありがたい判決だったことをご報告させていただきます。


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 もともと、定員充足率を満たして補助金を獲得したいために、日本語能力の問題のある外国人留学生までも見境なく入れる全入方針の施策をとるようになったことで授業が成り立たなくなり、それを何とか是正しようと現場の教員有志らとあれこれ動いていた当時の学長を大学法人側が事実上解任に等しい形で追い出したついでに、その学長が任期最終日に北海道庁で記者会見を開いて内情を告発した場に同席していたという理由で、自分も「懲戒解雇」処分にされた、というお粗末。いやはや、やることがあまりに滅茶苦茶なので人に説明してもにわかに信じてもらえないくらい、むしろこちらがお恥ずかしくなるような事態ではありました。

 判決は、「懲戒解雇」の無効と教員としての地位確認、および損害賠償を求めていたこちらの主張をほぼ全面的に認めた内容で、大学側の「不法行為」とまで認定。これまでの対応ぶりからも大学側はおそらく懲りずに控訴してくるだろうとは思いますが、少なくとも裁判所がこの「懲戒解雇」が不当で「不法行為」であることを、関連の証跡および事実認定と共に判断した以上、一審地裁段階とは言え、これを引っ繰り返すだけの理路を改めて構築して高裁に持ち込むこと自体、現状かなり難しいのではないかとは思われます。

 留学生を入れることで定員充足率をあげる、という、経営難に瀕する私大がある時期からとってきた窮余の策を文科省自体が黙認してきたところがあったことが、今回の事態の背後に横たわる問題でもあります。今回の裁判の過程でも、留学生の日本語能力の基準その他について、専門学校や高校とは別だてで、こと大学に関してだけは法令や規則にいわば「抜け穴」を敢えて作っていたとしか思えないことが見えてきました。事実、審理の過程でもこのあたりは争点のひとつになりましたし、その意味では判決の内容次第では文科省の責任問題にまで波及しかねない事案でもあったのですが、しかし、裁判所は判決ではそこには触れず、あくまでも「懲戒解雇」の是非についてだけ判断するという形になっていました。

 中国の日本語学校にこちらの大学の看板を貸し与え、そこを介して学生をかつ集めた上に、実質不正入試と言ってもいいずさんな入試を行い、日本語のまるでできない留学生も含めて入学させていたという事態は、10年ほど前まであちこちで流行っていた私大経営のやり方ではありました。それをいまどきなお考えなしに追随するあたりがまずもって経営センスのなさなのですが、ただ、それを後押しする文科省OBが陰に陽に介在、未だにそれをありがたがって唯々諾々従うだけで、大学としての、そして公益法人としてのコンプライアンスもガバナンスも見失った大学法人側の一連の迷走は、監督官庁であるはずの文科省からも結果的にお墨付きをもらった上でのていたらくでもあった事実は、今回の裁判においてさえも直接司法の舞台にあげられることなく、したがって文科省の「黙認」の責任も問われることなく、形式的には幕が引かれようとしていることになります。

 むろん、大学側が控訴するとして、自分たちで適切なやり方をしてきたと主張していたその留学生関連の施策について、改めて高裁に持ち込んでの審理を要求することはあり得る。何も間違ったことはしていなかったし、文科省その他公的機関から問題を表立って指摘されたこともなく、今回の判決でも是非を判断されなかったその施策について事実誤認に基づいて誹謗中傷をした前学長とその一派の行為について再度、判断してほしい――ざっとこんな理屈を繰り出して控訴に訴えることは、まあ、ないではないかも知れない。

 ただ、それをやると、「黙認」という形で都合良く運用してきた文科省の留学生政策と、それをいいことに好き放題の運用をしてきた大学側、共に司法の場に引き出され、責任を問われることになります。「暗黙」前提の運用で、その施策の実際の許容範囲をうまく塩梅しながら自らの利権を確保してきたお役所の論理、官の手口は、「暗黙」前提である限りこのような掟破り、考えなしのやりたい放題によって、うっかり破綻を垣間見せることになる。もちろん、それをも織り込んだ官僚的対応のスキームというのもありますし、事実、今回の判決内容もそれらのシナリオに沿ったものと見えなくもないですが、単にこの事案だけでもなく、本邦「戦後」に醸成されてきたそれら「暗黙」前提の管理手法自体、あちこちで迂闊な綻びを呈し始めているようにも見えます。

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*1:以下、関連ご参考(´・ω・)つ
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