Come On!柳美里

 先月、連載の口あけで書いた柳美里サンのサイン会中止の一件に触れた原稿に対して、ご本人からきっちり因縁をつけられました。いやはや、店開き早々名誉なこってす。

 抗議文の現物は今出ている『SAPIO』(小学館)に載ってますが、つまりは小林よしのり氏の『新・ゴーマニズム宣言』がやはりあの一件に言及していたのに文句つけるついでにこっちも、みたいな内容。ただ、送られてきたのはあっちの編集部でこっちにはな~んも来ない。つまりは付録扱い。こりゃ情けない。 一応は名指しされてる当事者なもんで現物を読んでみましたが、なるほど、小林氏宛に長々書き連ねられた文章の追伸に、ようやく小生の原稿に言及があった。ああ、やっぱり付録なのね。でもって、いきなり「品性下劣な文章」ときたもんだ。そりゃまあ決して上品じゃないけどさ、だからって「問題にもしたくない」って言いながらつっかかるのは卑怯じゃないのさ。あげくの果てに「こういうことを放っておくとより大きな言論テロにつながる」と脳天気をたしなめられたり。あの、脳天気ゆえの心の健康ってのもあると思うんですけど。

 何より、かつての大江健三郎の『セブンティーン』や深沢七郎の『風流夢譚』の一件まで引き合いに出して「言論弾圧」と力んでるけど、要するにサイン会ざんしょ? 作品そのものが攻撃対象にされたわけじゃない。これがアイドルなんかだとサイン会にキレた奴から電話がかかってきたなんて経験、いくらでもあるはず。もちろんだからって許されるもんじゃないけど、でも、サイン会を中止したくらいで「言論弾圧」って騒ぐのもやっぱりちと大げさじゃありやせんか? それとも、名のある作家になるとサイン会も立派に「言論活動」になるんかいな。ようわからん。

 もともとこちとらの言いたかった眼目は、「在日」で「女性」の「芥川賞作家」を「右翼」が「脅迫」した、っていうニュースの定番の文法任せに突っ走った彼女のまわりや一部報道現場の雰囲気がありそうで、それって妙なんじゃないの、ということだ。そういう型通りの見方こそがいやだ、とのたまう彼女の感覚はわかるし正当だけど、だったらなおのこと敵はそっちだろって。書店が腰砕けなら稼業仲間の版元を説得して動かしにかかるとか、あるいはサイン済みの本をパッと気前良くばらまくとか、「闘う」方法はいろいろあると思うけど。何より僕なら、てめえの表芸である小説自体が「脅迫」の対象にされなかったことを地団駄踏んで口惜しがる。

 いずれにせよ、売られた喧嘩はなるべく買わせていただきたいけど、こんな付録扱いのまんまじゃ格好がつかねえ。こんな時にわがまま言って何ですけど、せっかく今が旬の芥川賞作家じきじきに因縁つけていただけるってんですから、ここは一発正面からきっちりからんでいただけないでしょうか。アタシが嫌いなら嫌いとはっきり言って。そういうの、もう慣れっこだから、アタシ平気よ。てなわけで、カモン、柳美里

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*1:サンデー毎日』「ちょこざいなり!」連載原稿