前田英博 高知競馬管理者

前田英博管理者

 まず、高知競馬はこのままなんもしなかったら確実に悪くなっていく、と。売り上げはすぐに伸びないから、話題づくりで非常に苦労してましてね。騎手か馬かで話題をつくらんといかん、と常にわたしは言うておったんですよ。それで、イブキライズアップという馬を十三連勝くらいしてたんで、これがうちのメインだ看板だ、これを売ろう、というんで、十五連勝というのを宣伝する原稿を作ってやっとった時に、当時89連敗という馬がいるんですが、と担当が言うてきたんです。これをニュースリリース作ってやってみませんか、と。発信元は橋口さんだったらしいんですが、優勝劣敗の世界の中で負けるものを売るというのはあかんだろう、と。でも、今はなんとかやらんとかん時やからやってみろ、と言うんたんです。

 当初はだからそんなの誰も報道なんかしてくれるわけない、と思ってました。そしたら、高知新聞の石井さんという記者が六月十三日に高知新聞の夕刊にポンとだしてくれたんですね。これが最初で、裏っかわで毎日新聞さんも動いてくれていたようで、七月に二十四日やったかな、特ダネという番組があるんですが、その日に毎日さんが書いてくれた新聞を特ダネがとりあげてくれて。

 朝六時半に仕事しとったのが七時に電話が鳴りましてね、今からハルウララやりたいから写真おくってくれ、と言うんですよ。朝の八時からの放送でやりたい、と。いきなりですよ。そんなのとてもじゃないけど普通の感覚じゃないですよね。それで見たらうちで一番パソコンの強い松本君が徹夜で仕事しとって、パソコンですぐ送れる、と。写真は高知新聞が撮ってくれてたんであったんですがね。僕等の技術がとてもやないけど送れてないですよ。

 TBSですね。僕はだいたい七時前に出てきてたんですよ。一階にいたからよかったんですが、自分の二回の部屋にいたら聞こえなかったと思いますよ。そういう偶然が重なって八時にもうはや、テレビに出てしもたんですよ。それからなんですよ、火がついたのは。

 それからいろいろ頻繁に出たんですが、第二弾がニューズウィ¬クやったんですよ。高山という女性記者が電話してきて、外国のメディア入ってるか、というから入ってないていうとすぐに飛んできたんです。そのちょっと前にNHKさんも入ってくれ始めてたんで、こりゃえらいことや、と。十二月くらいに放送する予定でやってくれてるんですが、絶対これは一時的に破裂するな、と。そのときにグッズなんかがまだほとんどなかったんで、そんなところにフィーバーしたらとても引き受けられないな、ということで、大井さんみたいに子会社つくっとかないかん、と。すまんがおまえ代表者になってくれ、ということで橋口さん引っ張り出して、実働部隊にここに長いこといた近森さんをお願いして、定款作って税務署に申告させてサポートKRAをつくったんですよ。

 ハルウララの顔写真をニュ¬ヨークに送ってもろたんですよ。それがすごいことになって、アメリカ版だけだったんですが、サラブレッドタイムスがすぐにとりあげて、飛び石でカナダのトロットマガジンにいって、イギリスタイム、スペインの雑誌も来ましたし、そういうものがマスコミもワールドになったんですね。

 ただ負けてるだけだったらこんなになってなかっただろう、と。まずハルウララという名前、それから名前に会った彼女の容姿が、美人という人もいますけど、何より撫で肩なんですよ。細身で。まさに一生懸命やっても勝てそうにない馬なんですよね。それと社会情勢がこういう中でリストラとか病気で苦しんでる方々のキモチをくんだ、と。

 外国でウケたのは、いわゆるエコノミックアニマル的な日本人がこういうものに関心はないと思われてたところにおもしろさを感じたらしいですね。

 報道が報道をつくってくれたところと、こっちも先先を予想して乗っていったところがあるんです。ヘンな噂が出ましたでしょ、途中で引退してどこ行くとかアテネ馬術がどうとか、それは勇み足の人がいただけのことで、私どもとしては黒船賞の日に前乗りでユタカでもアンカツでも乗ってもらいたいなあ、と。高知出身の福永裕一クンもいつでも乗りますよ、と言うてくれましたしね。

 みんな勘違いしてるのは、勝ったらどうします、と。勝ったら終わりですね、と。ぜんぜん違う、こっちは一生懸命勝たせるためにやってるんですよ、ひとつ勝ったら次を狙うのがあたりまえでしょ、われわれはひとつ買っても、たぶんみなさんは次頑張れ、と言うてくれると思って益代、と言うんです。

 とにかく、馬もわれわれも、みんな必死にやってるところに共感してくれてるんだろうと思いますよ。普通なら処分される馬が周囲の声援で必死にやってるところがいいんだろう、と。だから、ほんまのこと言うたら、次勝たせることを考えてるんですよ、負けてるだけじゃ更生競馬にならなくなっちゃう。

 たぶん勝った時というのが一番盛り上がると思いますよ。難しいでしょうけど(笑)そのために日本最高の騎手を乗せるとか、ローテーションを考えるとか、いろいろ考えてはいるんです。

 ただ、こういう競馬場ですから、経済的に馬主さんがもちませんから、ケアするために売り上げの一割をフィードバックしてるんです。十月から機能してます。いまは十分に預託料分くらいは彼女が稼いでいる形になっているんです。

 ウララに限らず、うちで走って人気が出た馬でも、少し有名になったらじきに外へ出ていってしまう、そういう流出を止めたい制度をつくったわけですね。先を読みながらやってるんですよ、ほんとに。

 (サポートKRAの代表をやってくれている)橋口さんらは全部ボランティアで無報酬ですからね。高知競馬なくなったら君らも困るやろ、と言うんですよ。

――これだけ人気になると、商売にしようと寄ってくる人もいるでしょ?

 そらもうたくっさんいますよ、本なんかもだいぶ出てますけど違うところがありますわね(笑)売り上げが何倍かになった、とか書かれてる方もいらっしゃいますが、あれは嘘です(笑)。何百万かは増えてますよ、この間の単勝も一番人気でしたが、普通のうちのメインだと単勝は15万くらい売れたらいいんですよ、それがあの日は590万円ですよ。ハルウララを200万買ってくれるとほんとにあてに行く人もうるおうわけですよ。ちょこっと斜めに入ったもんだから単勝五千円でしょ。

 入場人員はすごいです。直接経済効果はわたしは考えてないんです。そんなもの今はどうやっても無理ですから。かつ馬じゃなくて負ける馬にみなさん凍死するはずないんですから。馬券だっておまもりでお土産として買っていただいているわけで。だから、それでもこのいちばんきびしい時にどこの競馬場でも泣き言しか出ないのに、それ言う前に、いそがしいよ、大変だよ、と言えるのはすばらしいことですよ。

 正月の入場者は公式には8260人。これにはまだウラがあって、7Rがハルウララが出てたんですが、6R終わった時点でまだ長蛇のクルマの烈やったんですよ。担当者がえんちょえしますよ、と言うてきたんで25分延長したんです。場外やってないからできるんですが、みんなとにかくウララを見たいというんですから、しかたない、入場料とらんから入ってもらえ、というんで入れたんで、その人たちは計算に入ってないんですよ。だから実際はおそらく一万人を超えていたはずです。

 とにかく、あれはいままで経験したことのないお客さんでしたねえ。専用窓口をつくるようになったのも、6R締め切る前に下おりていったら、窓口に人が並んでる。6Rのお客さんと思ったら違うんです、7Rのお客さんがもう並んでいるんですよ。

 予想のつかないことがあるから苦労しますよ。高知競輪との強豪で窓口に人いないんですよ。売れるまで売れ、と。このために来てくれてるんやから、と。朝九時半くらいに入場門行ったらもう並んでて、いちばんはじめのおっちゃんは富山から来た!んだ、と徹夜で寝て待ったのにはよ入れてくれ、と。

 あとで2200人くらいは住所書いてくれたんですが、一番が愛媛で260人くらい二番めが香川で140人かな、三番め大阪で100人以上、名古屋じゃ京都じゃ東京も50人くらいおった。ツアーが5人くらいでそれ以外が50人。48%が圏外のお客さんでしたね。

 開門も十五分早めたんですが、みんな売店に殺到するんですわ。まだ品物も並べてないのにえらいことになってね。7R終わったらまたお客さん戻ってきて、残ってる品物なんでもいいから売ってくれ、というんでみんな売り切れになってしまって。その一日出売り上げが百万超えてましたもん。

 安西さんが言うてしもてるからね。ここまで有名になったら離さないですよ。

 夏の八月にウララがいなくなる、と聞いたんです。すぐに電話したんです。そういうわけにはいかないんです、と言うた。引退したら引き受けていいですね、というから、引退しなくてもいいから走らせてくれ、と言うたんです。馬主名義とったら名義買えるでしょう。

 僕が彼女にクギ差してるのは、ウララがいま、高知競馬から去ったらただの馬になっちゃうよ、と。ここにおるから意味あるんだよ、と。それを十分に理解をして、ここで去っていってもハルウララなりのものを残してくれるならいいけど、今引っ張ってったらただの馬になるよ、というんで、一応、いまのところは紳士協定になってるんです。

 ここまでになったのはほっといてなってわけやないんです。みんなの努力があってこうなったんですから。三月まではこういう線で、次は五月のゴールデンウィ¬クのことを考えて、強い馬ならほっといてもいいけどこういう馬は必ず飽きがきますから。いけるところまでいかせてやる、勝てるものなら勝たせてやる、それを考えてます。何とかしてひとつ勝てるんじゃないか、と思わせるようなことをね。いつの日にかは引退するんでしょうし、引退式もしてやらんといかんでしょう。

――一部で来年の三月で引退、と言われてますが……

 絶対ないです。そりゃケガしたら別ですけど、いろいろ言われている三月の引退というのはないです。ハルウララが高知競馬の馬である以上、高知競馬が開催している限り普通に走る、と。主催者としてはどうぞ引退してくださいなどとは絶対に言いません。

 (同じく100戦以上して未勝利だった)名古屋のグレースアンバーにしても、うちなら(十歳で定年という)ルールを変えてしまいます。僕ならそうします。

 何のために競馬やってるかというと収支をなんとかしなきゃならんわけですから、その障害になる要因は取り除くのが当たり前のことで、これでハルウララ終わりですね、なんてことは僕は言いませんよ。高知競馬にプラスになることならば条件の方を変えるのが当たり前だと思います。

 赤字だったらやめなきゃならん、来年も続けると言うことはその収支がいまのところ整ってるということです。単年度赤字にはもう絶対にならんと。一四半期大変だった賞金も手当ても戻りました。続くことによって彼らも馬で仕事ができるわけですから、どうしても続けないといけない。水飲んででも競馬する、と言うてくれてますし、僕らも頑張ろうということで。

 他の競馬場さんは、投資ができる強みがあるんですよ。うちはそれができない。儲かるとわかっとっても投資することで一時的にでも赤字をつくってしまうとそれでアウトなんです。だからどうしても滋味な勝負地味な勝負にならざるを得ない。赤字心配しもってやる商売は発展しないんですが、いまは堅実にやらざるを得ない、それが高知競馬のしんどいところです。

 わたしはそれで競馬場こさされたんですから。平成12年の四月にあのくだらん検討委員会の提言。あんな削減策だけでどうなる、と。中津、益田、新潟、足利、上山といつつ潰れましたからね。次は高崎か高知か、と言われてますけど、まだ頑張りますよ。僕等からみたら北関東でもどこでもうらやましいですわ。あの人口が。うちらどうやって集めたって高知の人口三十万しかないでしょ。

 農水省の競馬監督課はやめろとは言わないんですよ。何も手助けしないからやりたければやれ、とこうですよ。それはおかしいでしょ。

 僕はどこかでウララを勝たせるとしたら、武しかいないな、というのがあったんですよ。絵としては。新春企画で高知新聞が尋ねてくれてますし、アンカツには僕、こないだ乗りにきた時直接に言うたんです。「ユタカくんが乗るんやないですか」言うてましたが。
中央があかんかったら(大井の)的場さんを乗せようとおもてるんです。黒船賞の前日21日に的場文男招待競走がありますからね。


 ほんとは出したくなかったんですよ。次は2月の1日まで開催がないんでちょっとラクできるな、と思ってたんですが、ずっと走ってるでしょ、かえって使ってる方がいいというんで出したんですね。一枠ダメなんですよ。外枠だったらもっと着はよかったはずでず。

 本書かれているのは、まず重松さんでしょ、吉川さんでしょ、あと岡本さんという人もいます。これは高知出身だそうです。