高知競馬、ナイターへ

 高知競馬が、ナイターに向けて動き始めました。

 「あの」高知競馬、です。言わずもがな、全国の地方競馬の中でも最も低い賞金水準でギリギリの低空飛行を続けて何とか存続してきた、ハルウララの高知、です。

 「これがほんまに、最後の賭けやなあ」

 これは地元の厩舎関係者の弁。もし実施になったら夜の九時半くらいまでレースを、と言われているとかで現場は間違いなく大きな負担。確かに、最後の切り札が切られるわけで、これで業績が上向きにならなければ、主催者の思惑とは別に、まず現場の厩舎のモティベーションは間違いなくぷっつり切れるでしょう。それだけ乾坤一擲、大勝負なのは間違いない。

 前々から、それこそハルウララの騒動で全国的に注目されるようになっていた時期、いや、それ以前から、ナイターはできないのか、という話は出てはいました。けれども、それは他の競馬場と同じような、あくまでも夢物語、大井や川崎のナイターの華やかさを横目で見ての願望であって、実際に主催者が、あるいは現場がナイターの実現可能性に向けて腰を上げて動いた、ということはありませんでした。第一、そんな夢みたいな話にとりあうよりもまずは目先の売り上げ、日々の開催をどうしのいで年度内の帳尻を合わせてゆくか、だけでいっぱいいっぱい、来年のこともわからないような状況が続く今の地方競馬では、何も高知だけでなく、どこもそんな将来を見越した動きはできないままでした。

 なのに、ここにきて一気にナイターが具体化してきた。話を耳にした人は誰もが、えっ、何があったの? 高知はいよいよ気でも狂ったの? と目を丸くします。あたしとて同じこと。耳を疑いましたもの。

 どこの競馬場も、これまでナイターを考えた時、照明その他の建設費用で頓挫してきました。出入りの業者に見積りをとらせたら十億だの二十億だのという数字が出てきた、そんなカネがどこにあるんだ、というわけで、ほとんどこの段階で話は立ち消え。本当にその金額が妥当なものかどうか、もっと安くできる手立てがあるんじゃないのか、といった考えも出ない、出せないままなのが、多くの地方競馬の主催者でしたし、また業者の方も「競馬場だからこれくらいは当たり前」といった感覚で見積りを出してくる。いまどきちょっとした高校でも夜間練習できるような施設は、野球やサッカ-の強いところならば作っているし、何より、競馬場は朝から調教をやっているわけで、最低限の照明施設はたいてい持っている。何も大井のような派手なナイターでなくても何とか工夫して、といった構えがないところでは、しょせん公共工事と同じこと、ああ、、こうやって競馬というのは「ゼニのなる木」としていいようにされてきたんだなあ、といつも歯がゆく思っていました。

 今回、ナイターに関する予算はざっと一億数千万くらいとか。ほらみろ、いままでのバカみたいな見積りは何だったんだ、ということになりますが、それはひとまず措いておきます。そのうち半分ほどは地全協経由の補助があるらしく、これについては新生地全協、ここにきてようやく本来の仕事らしいことに手をつけ始めたのかな、と素直に評価しておきましょう。また、福山との「連携」についても、馬の輸送費にも支援をする準備があるようで、何にせよ、新たな地方競馬の環境づくりの下支えをするのが業務のはずの地全協、何年も前からそのために競馬法改正の過程で確保されていた「改革」のための資金を実際に投入し始めたのは、遅まきながら大きな変化。あとはこの「改革」の兆しをもっと加速化し、効率よく動かしてゆくよう関係各方面、全力を挙げていただきたいものです。

 あとは、何度も強調しておきたいのですが、ナイターをやれば何とかなる、というのでは全くない、ナイター競馬、という最後の切り札キラーコンテンツを手にした以上、それをあらゆる手段を介して全国で売ってもらうように手配してゆく、これが絶対に不可欠です。たとえ一レースだけでもいい、それぞれの地元開催のすきまに割り込ませてもらって、ひとレース何十万、何百万程度の売り上げでもいいから、1日1日積み上げてゆける、そんな目算をなりふり構わず立てることです。もちろん、南関東の販売網は最優先、それ以外でも新たにナイターを始めるホッカイドウ競馬と連携したり、独自のネットワークを持つ岩手や兵庫などにも働きかけたり、もちろんネットや携帯を介してのシステムは言わずもがな、とにかくいまの制度で馬券を売れる場所ならばどこででも、高知のナイターを買えますよ、という状態にすることが必要です。

 そして、高知でできるならば、うちでもできるんじゃないの? と他の主催者も思い始めること、これも重要。そう、できるところはナイターを、そしてそれを全国で互いに売りあうこと、思えばそれがあの競馬法改正の重要な柱のひとつ、でした。紆余曲折ありましたが、ああ、ようやくひとつ、具体的に「あたらしい地方競馬」の姿がほんのちょっぴり見えてきたかな、と思える話が、高知から飛び込んできた。景気をめぐる状況はまだ厳しいですが、ちいさな競馬にとってはこれまでにない、新しい未来を垣間見せてくれるいい新年度にしたい、そう思います。