宗石 大 高知競馬調教師

 三日ほど寝込んでたんですわ。その間、あんまにも三日行って、まあ、十日ほどして何とかなおったんですけど、またそしたら取材が来るでしょ。ちょうどウララのレースがいつもずっと98戦くらいまでは8頭も9頭も使うめぐりあわせになってて、時間に遅れたら大変やし、鞍も置かないかん、馬もかまわないかん。

 10月ごろ思ったんですわ。なんでこんなに取材がくるんやろ、と。おかしいな、と。これは断らないかん、と。ひとつの取材については一日だから、テレビはラクなんですよ。朝はテレビで、午後から雑誌とか新聞とかの取材が入ると、終わるともう四時になって、それから自分は5頭の馬の世話せんといかんでしょ。午後にする仕事を午前中にすませとかないかん、草刈りに行ったりチップ取りに行ったりボロ棄てに行ったりね、どうしても身体に無理がくる。

 僕らの仕事は朝の3時からやってて、調教師の仕事やってベットウの仕事もやってる。失言もありましてね。問題になって。他の厩舎から馬道にカメラすえて馬が驚いて何とかならんか、というような苦情も何件もきたしね。朝のはよから取材されるのは悪いというんで九時過ぎにしたんですけど。

 一度は吉田さん*1に断ったんですけど、実は吉田さんは競馬場の方から各メディアにリリースした、と。取材してもらいたい、と。こっちはそんなこと知らんからね。なんでこんなにどんどんどんどん押し寄せるんかなあ、と思ってた。吉田さんがそう言うんで三日ばあ考えたんですよ。どうしようかって。まあ、この際やから、百戦までは何とかしんぼうしようと思ったんですよ。

 これは万人にひとりのことやし、こんなことは二度とないことやし。このハルウララ高知競馬場の売り上げにも少しでも貢献できればええことやし、百戦まではこれはまあ一生に一度の大仕事じゃ、と思ってやろか、と。

 最初は僕もうっとうしいわ、というんでいやな顔もしたと思うけど、こちらから取材を持ちかけたんがわかったんで、こら愛想ようせないかんな、と。おカネももらえんけどしゃあないわ、と。取材こられた人はどう思われたか知らんけど、僕は僕なりに精一杯に取材の方には愛想ようしてきたつもりなんです。

 あれを見て僕も初めて気がついたわけで、ああいう形で記事が出なかったら百戦とかも意識せんかったでしょうね。僕にとったらただの通過点であってね。

 八月になってテレビ局が来るようになって、最初は、あら、テレビが来たわ、と興味もあって引き受けたわけですけど、ちょうどそのレースの日は、僕はヘルニア持ちなんであまり素早く動けないんですけど、九頭も出走してたら身体を動かさざるを得ないでしょ。で、水オケを厩舎にかけてそこにバケツで水をくんでゆくところが、時間がないんで忙しいもんでクッと抱えたん。そしたらぶりっといって、厩舎の中から這うて出てきたんですよ。

 ウララのレースはなんとかやったんですが、そのあとは細川調教師に委託して僕は三日ほど寝込んでたんですよ。その間、あんまにも三日行って、馬主さんの関係で指圧の上手な人にも三日行って、十日ほどしてなおったんですが。

 そしたらまた取材がこられる、と。ちょうどウララのレースの時はまた使う馬が多いめぐりあわせになるんですよ。
 
 でもまあ、その間にね、僕に限らず貯金もはたいて生命保険も解約してしまって、なんにもないんですよ。そんな中での取材なんですよ。もう、この三年間ず〜っと兵糧攻めにおうてきて、カットカットで鼻血も出ない状態ですよ。馬主さんにもね、七月に半分の人に処分してくれ、と言われたもんで、まあ、十月まで待ってくれ、と。十月まで待ってもろたら何とか馬主経済もやってけるようになるかも知れんので、と言うて待ってもらったんですよ。そんな中で取材受けてきた。カネはない、馬主さんには馬処分しろと言われる、厩務員さんは雇えへん、雇っても十月にほとんどの人が競馬は廃止と思ってたんですからまたクビにせんならん。馬は全部出してくれ言われるし。

 もうね、ほんとに苦しかったですよ。支払いにおわれて。

 取材が波の様に押し寄せてくるでしょ。もう自分のことはなんもでけんようになるんですよ。預託料の計算して馬主さんに請求書書かないと支払いもできないわけですけど、それができないんです。朝は九時から十二字頃までテレビ局でしょ。それが三軒も四軒も並んで待ってるでしょ。昼からコメントでしょ。それから自分が五頭の馬見て、風呂入れば今度は電話の取材ですわ。ほんで、まあ、預託料の計算もでけんからお金も入って来ない、支払いができない、おわれる、もうほんっとね……どうしたもんやと思てね。

 連勝で来てる馬が人気になるんやったらともかく、日本一走らん馬でしょ(苦笑)これはもうねえ、僕も、困ったことになった、と思ってね。

 (生産者の)信田さんはまあ、無事是名馬で、丈夫な馬が信田牧場から出たと思えばええよ、宗石クン、言うてくれてね(笑) 苦しいところやと思いますよ、信田さんも。僕も思うけど、今年も一頭も売れんかった、と言うし、やっぱりウララの関係やないかな、と思ってね……

 なんか電話かかってたんですわ、なんか三石町(正しくは浦河町……註)の町長らしいんで、その人から電話があって、ウララを町全体で見たいんで北海道に戻して欲しい、と言われたんですがね。僕は八月に安西さんにさしあげる、ということを決めてるんでね。安西さんに相談してみてくれ、というたんですけどね。僕としては牧場に返すのがベストと思ってるんですがね。あの馬はどう見ても乗馬には向かんでしょうしね。乗馬にでけん場合は見世もんとしてという約束なんですがね。そこはまた今度相談してみようと思ってるんですがね。

 七月に馬出してくれと言われた時、出そうかな、と思ってる時に取材がバーッときたんです。それで出せなくなって八月に安西さんがきたんですよ。それはもううどうぞどうぞ、と、出さなきゃいけなくなってるんですぐ連れてってください、と(笑)そしたら取材がどんどんくるでしょ、出せなくなったなあ、と。

 オリンピックに出場してる選手がやってくれるというんでできんことはないと思うけど、まあ、馬体的に酷ですわね。案外乗馬っていうのはもたんですわね、毎日毎日同じことさせるし、競馬と逆のことさせるわけで収縮姿勢というのは馬に一番負担なんですわ。馬の本来走らせる形とは違うもんですからね。

 馬主の横山さんというのは、今も馬置いてくれてますよ。コガネニシキとサッチーと……もう引退した方ですがね。ノリヤクになった時からのおつきあいさせていただいてますけどね。

 昨日の速いレースとか見てたらね、ウララがカワイソウや……カイバはよう食うけどねえ……僕が心配するのはね、何かウララに事故が起きないうちに引退させたいんですよ。今度は僕が非難浴びるやろしね。

 どうしてもね、その馬の能力以上に走らせようとして先行させると、フォームがバラバラになるんですよ。そうなると今度は脚をぶつけたりね、いろいろと問題が起きてくる。

――ユタカやアンカツ乗せたらそんなもん、もちませんよねえ

 そうそう、競馬よく知ってる方はそういうことよくわかるんやけどね。

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