福山、サラ導入へ

 「世に遠いひとつの競馬場」――先日、『競馬最強の法則』に掲載させてもらった福山競馬についての拙稿の、冒頭の部分の一節です。未だ全番組アラブで組んでいることで、「ニッポン競馬」はもちろん、「地方競馬」を語る時でさえもなかったことにされ、まるで忘れられたようになっている現状について、あたしなりに表現してみたつもりです。

 

 その福山競馬が、どうやらいよいよサラブレッド導入に向けて水面下で動き始めたようです。アラブの生産頭数の激減は言わずもがな、先日の9月せりでも上場馬31頭で当日欠場馬が10頭、落札された馬は表面上わずか一頭、という惨状で、購買者席にもほとんど人がいない世にも珍しいせりを目の当たりにすることになりましたし、今年春に生まれた頭数がもう40頭そこそこ。戦後のニッポン競馬を底辺で支えてきたアラブ競馬がいよいよ、本当に最期の時を迎えようとしているのは、もはや誰の眼にも明らかです。市議会で「アラブの灯は消さない」とまで明言していた前市長の方針を遵守して、多くの地方競馬がJRAに追随して軒並みアラブ番組を廃止、新規入厩も中止してきた中で、最後までアラブだけで番組を組んできた福山は、本紙を読んでいただいている関係者のみなさんならば誰もが知るように、「ババを引いた」と陰口を叩かれている競馬場です。

 

 売り上げ的には現状、なんとわずかながら黒字を出している健闘ぶりですが、この欄でも何度か触れたように、この春先から「不祥事」が立て続けに発覚、これを潮にいっそ廃止も考えては、という声さえ議会筋からちらほら出る逆風ぶり。それでも、主催者の福山市は「来年度も競馬を開催する」という態度表明を他の競馬場よりも早くから出していて、とすれば、アラブ競走馬資源の枯渇する今の状況からすれば、競馬の存続イコールサラブレッド導入、と見るのが自然でした。けれども、お役人の通例でこれまでの答弁の流れから素直に「サラ導入」と言えない事情もあったようで、さらに、これは園田が先例となって全国の地方競馬主催者間に半ば都市伝説のように流布されている「サラを導入して認定競走を入れるには、今の小さな馬場の改修が不可欠」という縛りも勝手にかかっていたりと、すでに少し前から、競馬存続のための選択肢は「サラ導入」という事実上ひとつしかなくなっていたにも関わらず、具体的な態度表明ができかねる自縄自縛の状態がここ何年も続いている、というのが正直なところでした。

 

 確かに、サラはアラブよりスピードがあるから小さな馬場だと能力が発揮できない、だから馬場の改修を、というのが「定説」になっているようです。けれども、実際それがどれくらい妥当性があるのか、よくわかっていない。園田の例でも数十メートル馬場を広げた結果、さて、どれくらい実際にその「スピード競馬」になってファンサービスになったのか、などについて、その後具体的に検証した話は寡聞にして聞きません。サラは一周千メートルだとダメで千百メートルだったらOKという根拠も同じく。むしろコーナーのアールや馬場の砂の質、走路の構造などの方が重要では、とか、あたしなどは思います。実は今回、全国の地方競馬場の馬場形態を改めて詳しく調べてみたところ、日本一小回りの競馬場と自他ともに許していた地元の福山よりも、なんと川崎競馬場の方がコーナーがキツいことがわかった、という笑えない話もあります。何より、福山もある時期まで半分くらいサラブレッドが走っていたという事実さえも、地元の人たちにもすでに忘れられていたりします。

 

 少し前、福山の主催者がちょっとした用向きでJRAに出向いた時に、理事のひとりに「福山さん、あなたのところはうちから一番遠い競馬場なんですよ」と真顔で皮肉られたそうです。その「遠い」というのは「関係ない」「縁もゆかりも持ちようがない」といったニュアンスなのでしょうが、しかし、その「遠い」競馬場でも競馬を仕事にしている人たちは今もいる。

 

 アラブに固執していたのが最後まで追い詰められてとうとうサラブレッドを入れるようになった、という具合にはしたくない。第一、今やどこの競馬場でも馬房があいて、馬主もいなくなりつつある現状で、今の賞金水準でおいそれとサラを入れてくれる馬主がそうそういるわけもない。市としては今後も競馬を続けていくという方針があるのだから、単にその場しのぎではない中長期的な戦略をもって、その中でのサラ導入を考えたい。そのためにはどういう方策があり得るのか早急に意見を集約してまとめたい――主催者以下、地元の関係者の声はおおむねそんな感じです。

 

 もうひとつ、忘れられた競馬、と言えるのが、ばんえい競馬です。例によっての売り上げ減少に苦しんでいるのは他の平地の競馬場と同じですが、同じ地方競馬の枠組みにありながら、いつも「例外」として扱われているようなところがあるのは、なにか不憫な感じがずっとしています。

 

 これも前々から思っているのですが、このばんえい競馬を冬場、雪の降らない競馬場、たとえば西日本の暖かい地方の競馬場に出張させる、というのは、さて、どんなもんでしょう。また荒唐無稽な、と言われるかもしれませんが、でも実はこのアイデア、かつての大分は中津競馬で具体的なプランを策定して実現寸前だったのが、あのメチャクチャな「廃止」騒動で頓挫した、という経緯があったりします。馬場といっても直線200メートル、二十頭くらい持ってゆけば少ない頭数でも一日ひと鞍かふた鞍程度はレースが組めるでしょうし、施設などの問題はあるにしても、馬房のあいた厩舎が当たり前になりつつある昨今、敷地に余裕のある地方の競馬場ならそんなに難しいことでもないのではないでしょうか。ばんえいの現場の側でも、冬を越させる馬たちの体調維持代わりに、といったら語弊があるかもしれませんが、シーズンが始まる前に身体がしあげやすくなるという面もあるように思います。少し前、他の競馬場でばんえいの馬券だけを場外発売で売った時も、案外売り上げはよかったと聞いています。最初は興味本位にせよ、あれはあれで実際に眼にしたらおもしろいものですし、西日本の競馬ファンなどは気質からしても案外ハマってくれるのでは、と思っています。このばんえい冬季移住計画、ひとつ前向きに検討していただけないでしょうか、通年開催のできる競馬場の関係者の方。