後藤田正晴=リベラリスト、の位相

 後藤田正晴氏が逝った。ひとまずご冥福をお祈りする。と同時に、晩年の氏のメディアでの扱われ方に違和感があった者のひとりとして、少し言わせていただきたい。

 後藤田氏はここ数年、警察官僚から政界へ転じた元副総理の自民党幹部でありながら、実は改憲靖国参拝、国連安保理常任理事国入りに反対するハト派反戦論者、といったキャラクターで、朝日新聞以下、これまでのマスコミのある潮流を形成してきたいわゆるサヨク/リベラル系業界でもてはやされてきた。実際、逝去後の報道でもそのような祭り上げの手口は目に余るものがあった。かつてはタカ派の典型みたいに言われていた時期もあったはずだが、それが「リベラリスト」として惜しまれようになるとは、いやはや、変われば変わるものではある。

 とは言え、こういうキャラクターはメディアの舞台ではすでに定番らしく、氏以外でも、かの野中弘務などでさえも最近はそういう扱われ方をされ、またご本人もそれを甘受しているように見える。政治思想史の分野は門外漢だが、そんな民俗学者の眼からも、田中角栄から経世会に至る自民党人脈のある部分には、本質的に経済偏重とその裏返しの「反戦」原理、漠然とした心情としての親「アジア」=中韓、といった属性が共有されているらしいことは見てとれる。その「伝承」は派閥や、時に政党をも超えて浸透していったものらしく、今後は河野洋平宮沢喜一羽田孜海部俊樹、おそらくはかの田中真紀子などまでも、現役引退の後は同様のキャラクターのハト派反戦論者として、一部メディアにはめでたく消費されるのだろうと思ったりする。

 それにしても、そんな無節操で無理やりなつぎはぎをしてまでも、なお守りたい一部メディアの「リベラリズム」とは、さて、一体何なのか。キミはリベラリストだから、というありがたい理由を頂戴して某組織を放り出された経験のあるあたしとしては、いささかフクザツな心境ではあります。