いまどきなお方言ブーム、について

 方言がにわかにブーム、なんだそうです。特に若い世代に。テレビ番組でも、芸能人がお国なまり(このもの言いももうなんだか古くさくてしっくりきませんが)をぶつけあうコーナーが人気ですし、ラップなどに方言を敢えて前面に押し出した楽曲もちらほらと。中には、紀州弁のラップなんかあって、先日、ラジオで流れているのを聞いて思わずのけぞってしまいました。

 方言が方言として、人々に広く意識されるようになってきたきっかけは、ラジオの普及が大きかったというのが定説です。昭和初年、当時人気抜群だった漫才のミスワカナなどは、方言をお笑いのネタにして人気を博しています。題して「万国婦人会議」。*1 残された録音を聞いても、内地はもとより、琉球から満州、朝鮮まで含めた、まさに大東亜共栄圏スケールでの方言ネタです。

 
www.youtube.com

 もっとも、いまの方言ブームは、標準語と敢えて言わずとも、ノーマルの日本語のスキルは十分に持っていて、その上でなお方言を対象化している、そういう位相でのブームです。大阪弁、関西弁はすでに第二日本語のようになってますし、九州弁などももともと隠そうとしない「優性方言」。逆に東北弁などは「恥ずかしいもの」として隠そうとしてきた経緯がありますが、しかし、いまのこの方言ブームにはそういう優劣の感覚ももう薄いものになっているようです。

 近年の若い世代を軸にしたナショナリズム気分の隆盛の次の段階として、そういう土地に根ざしたアイデンティティの回復はある種、必然でしょう。見知らぬ外国語を耳にするような感覚で、自分の生まれ育った土地の方言を改めて認識してゆく。先のラッパーたちなどがことさら方言を意識しているのも、改めて自分たちは何ものか、を確かめようとする心の動きが背景にあってのこと、のはずです。

*1:「全国婦人大会」だった、訂正訂正。