パソコン通信シスオペ 阿見寛さん(仮名) 後編

前回に引き続き、パソコン通信のサブ・シスオペをやっている阿見寛さん(仮名)にお話をうかがっております。

 フォーラムの場でのもの言いの作法をよくわからない、ただ質問ばかりして実はかまって欲しいだけといった対話不能の人間の参入に対してどのように場をコントロールするのかという話になって、村八分にする、というそれはそれで実に明確なお答え。でも、そうするとそこから逃げ出してよそのフォーラムに行く、というあたりから、はい、続きをどうぞ。

――ただ、人間の常として、そういう村八分みたいな目にあった人はよそのフォーラムに行って悪口言ったりしません?

阿見 します(笑)。たとえば僕のことをブチ殺したいと思ってる人はいるでしょうね。もちろん普通は、何か疑問があればそうやってただ質問するだけじゃなく自分で調べるのも大切ですよ、とかちゃんと言ってあげることからやるんですけど、でも、それだけで怒っちゃう人もいるんです。「あなたは私のことをバカにしてんじゃないですか」とか。

――あああ、いそうだ(笑)。

阿見 でしょ?(笑)。一日フォーラムを回ったらそういう人は五人や六人見つかるはずですよ。自分が好き勝手にしゃべっているその楽しい思いを妨げられたくない。でも、かまって欲しい、と。

――なんかそれって純粋消費者だなあ。

阿見 現状はそういう人の方が多いと思いますよ。また、敢えて言えばそういう人までがパソコンを使うようになってるってことなんです。たとえば、コンピューター関係のフォーラムで話をするのにはある程度の知識量が必要なわけで、98とDOS/Vの違いもわからない人がプログラマーに説教できるわけないんですよ。やっちゃう人もいますけど(笑)。ただ、そういう技能の違いが如実に出ない分野――たとえばマンガ、小説なんかは誰でも何かひとこと言えますよね。

――それは全くその通りで、まさにその「誰でも何か言える」ある種の公共領域の誕生こそが「おたく」や「トンデモ」の培養基だったりするわけですよ。しかし、敢えて言えばそれって、たとえば単に専門の学会とそこらの井戸端会議の違いだったりするんじゃないんですか?

阿見 でも、学者が奥さんに近所の井戸端会議に連れてかれたとしても、その場の雰囲気をいきなり壊すような発言は普通しないですよね。

――まあ、そんなとこで怒ったって始まらないもんね。

阿見 ですよね。相手が気分を害することを承知で傷つけるようなことを普通は言ったりしないけど、パソコン通信ではパーソナルなデータは隠されてますし、イヤだったらやめてしまえばいい、と気楽にやってしまう面は間違いなくあります。なにしろキーボードは人を殴りませんから(笑)。一度メチャクチャにしたフォーラムにもまた別のIDで入り直したらわからない、とか思うんでしょうね。でも、それってたいていバレますけど。

――どうして?

阿見 (断言)そういう人は必ずまた同じことをやるからです。

――あ、手口が同じなんだ。でも、隠そうとしないんですか。

阿見 隠せるぐらいの人ならば最初からそんな場の壊し方をしない(笑)。

――あ、そうか(笑)。自覚がないのね。

阿見 だから、フォーラムを完全にコントロールなんて無理なんです。メンバー次第でどんどん場が変わる。全体の規模がデカくなると仕方がない面もあります。――そういう具合に規模が大きくなってきた弊害が出るようになったのは、阿見さんの印象としてはいつ頃からですか。

阿見 ここ二年くらいですかね。実際、インターネットは難しそうだからニフティにしとこう、という人も増えてて、パソコン通信全体の顧客の増加はハンパじゃない。ニフティ自身、このまま増えたらパンクするってんで加入者数を誇る方向から完全に方向転換してしまってますもの。だから、そろそろ「パソコンは楽しいだけでない」ということをメディアが言ってくれないと困りますね。古くからの会員はパスワードを持たないと入れないパティオとかHPとかに移行し始めてますし。メディアには必ずお上がいるわけで、でも、そんなお上はなるべく口を出させないようにしておく方が絶対いいわけですから。

――自分たちの場を運営するためのルールをどう作りどう守るか、ってことですよね。理想的にはどれくらいの人数でのフォーラムが快適と思います?

阿見 運営という意味ではゼロが理想ですね。つまり、企画出しから運営まで会員相互で全てやってくれる状態。それが満たされれば何人でもいいですね。

――このような大衆化状況でもこの先、パソコン通信には関わりますか?

阿見 関わるでしょうね。今まで楽しんできたものは大き過ぎますから。これまでに読んできた発言も書かせてもらってきたコメントも、みんな僕にとっては大切な財産ですからね。

 問いに対して答えるまでに微妙な間がある。発することばに対する神経の使い方がちと過敏に思えるほど鋭敏なのだ。でも、話がかみあい出すと気持ち良いくらいに的確に問答のツボを叩いてきてくれる。テニスか何かでのラッシュの応酬みたいだ。こういう気持ち良さがパソコン通信の画面上でも行われるのかなあ。だったら、遅ればせながらちと試してみても……いや、いかんいかん。