とっとと政治家にでも

 何もあの山本モナ細野豪志の一件に限ったことでもなく、政治家、ってのはほんっとにカッコ悪い。少なくとも今のニッポンに関して言えば、政治家ってのは間違ってもなりたくない職業のひとつである、と言ってもいいでしょう。

 今は亡きナンシー関が、いいこと言ってたのを思い出しました。今みたいな犬猫海外旅行エステに化粧品三昧のバカまんこたらし専門広告提灯雑誌に変貌しちまう前、「女性にもニュースを、時事ネタを」(笑)てな心意気で頑張っていた頃の『クレア』での名物連載対談の席上、例によって寸鉄人を斬るあの批評眼大炸裂のあと、ぽつり、とひとこと。

「まあ、アレっすね、こういうのはとっとと政治家にでもなってくれたらいいんですよ」

 その「こういうの」がはて、誰のことだったか、は、今すぐ思い出せなかったりするんですが、とにかくその「政治家にでもなってくれたらいいんですよ」という、軽侮軽蔑見下し同情、ついでに憐憫さえも含み込んだもの言いのたたずまいは、いまどき敢えて「政治家」にうっかりとなってしまいそうな内面を抱えてやがる奴、についてのまっとうな批評性をはらんでいたなあ、と改めて思ったりします。

 で、今こういう「とっとと政治家にでもなってくれたらいいんですよ」というもの言いがぴったりくるのが、まず中田英寿、でしょうか。あたしゃこいつがどうにも気にくわなくて、それはかつてまだ若手のひとりとしてフランスワールドカップに出場して、メディアに露出し始めた頃からぬぐいがたい違和感、ってやつがつきまとってる。

 それはあたし的にはどこかでイチローなんかにも通底するものだったりするんですが、とにかくフィジカルエリートとしての立ち位置と自分の内面との均衡が、何か邪悪な力がどこかで働いていることもあって、気の毒なくらいに狂っちまってる、言ってしまえばまあ、そういう感じなのでありました。

 先のドイツワールドカップを最後にあっさり引退、その身の処し方についてもいろいろ取り沙汰されてましたが、その後もニューヨークにコンドミニアムを購入して、ビジネスを勉強したいだの、それまではゆっくり旅でもしたいだの、いやもう、いちいちカンにさわる言動のてんこもり。おまえ体育会だろ、カラダひとつで世界をあいてに張り合ってきたんだろ、どうしてそんなことに首突っ込もうとするんだ、いや、突っ込んでもいいんだけれども、その突っ込んでる自分ってやつがおまえ、実はものすごく大好きだったりするだろ、そうだろ、はっきり認めろよこのホモヅラ色黒ガチムチ野郎が、と、あられもない罵倒が口をついて出てきたり。

 てなこと思い返してたら、またやってくれましたよ、こいつが。ええ、マニラの貧民街をサプライズでご訪問されて、土人の貧乏人のガキどもを喜ばせてくれました、とさ。報じたのは現地の英字紙らしいですが、どうせまたこいつのキンタマをかけがえのないカネづるとばかりに握って離さないサニーサイドアップのあのバカまんこ社長がちょこざいにも仕掛けやがったに違いないわけで。ああ、ハラが立つ。

 中田英寿、アタマの中のどこかが沢木耕太郎深夜特急で一瞬の夏、なんでしょうなあ。旅するボク、これまで知らなかったセカイに眼を開いてゆく自由人のナカタ、ああ、生きてるってなんてスバラシイ……てか?

 もうね、こういうのはとっとと政治家にでもなってくれたらいいんですよ、という、ナンシー関由来のもの言い、まさに今の中田英寿に謹んで奉りたいと思います。セカイを放浪して旅してまわって、ビジネスのお勉強などをしたあげくに、今度はその体験を生かして政治の世界に、なんてことも、この先、ひとつ間違えたら全くないとは言えないかも知れない。もちろん野党、民主党……あ、いや、その頃までミンスが無事に党の態をなしているとは思えないから具体的には何でもいいけど、少なくとも与党自民党じゃないだろう、と。

 中田英寿が選挙に出る日、その時わがニッポンの政治ってのは、果たして今のこの状況から何がどう変わってるんでしょうか。

●編集後記

 選挙と言えば、藤原紀香が来年の参院選自民党から立候補か、というハナシが一部で、すでにまことしやかに流れています。まあ、煮詰まった芸能人の身過ぎ世過ぎとして政治家ってのはあり得るわけで、とりわけ藤原紀香、このところ何を勘違いさせられてるのか国連関係の仕事なんかやたら入れてみたり、ボランティアがどうの、と能書き垂れたり、にわかアグネスチャンまがいの行状でしたから、あり得るかも、と。

 

 でも、藤原紀香には中田のように「こういうのはとっとと政治家に…」と言い垂れてやる気分には、いまひとつならないんですよねえ。どうしてか、自分なりに考えてみたんですけど、ひとつ言えるのは、内面の問題かな、と。そう、藤原紀香自身が自分の野望として政治家になろうと本当に本心から思っているとは、ちょっと思えない。これが山本モナだったらそりゃもう、全力で街宣右翼の拡声器ボリューム全開で「とっとと政治家になりやがれ」と言いたくなるんですがねえ。このへんの違い、実は微妙ですけど結構本質的、だったりすると思います。