南関東“じゃんけん”事件?

中央と地方の垣根も高いけど、地方競馬同士の垣根の方がもっと問題だ――全国の地方競馬場を期間限定で騎乗してまわっている、「ピンクの勝負師」内田利雄騎手の言である。同じ地方競馬の騎手免許でありながら、おいそれと他場での騎乗や移籍はしにくいのが現状。地元騎手会の抵抗が強いのだ。どこも賞金が下がり、縄張りを荒らされたくないという事情はあるにせよ、腕に覚えのある騎手ならより大きな舞台で勝負してみたいと思うのは人情。そして、誰しも賞金の高い南関東をめざしたいのだが、その門戸はこれまで固く閉ざされていた。
それでも、去年の秋に何とか基準ができた。通算2500勝以上の騎手で、南関東の競馬場ひとつについて一年間に一名、しかも二ヶ月限り。地方競馬の開催日数が減っている現在、2500勝騎手など全国で数えるほどしかいないのだが、それでも門戸がほんの少し開いたのは事実。さっそく、先の内田利やアンカツの兄、安藤光彰などが、すでに期間限定で騎乗している。
この参戦枠の平成18年度、つまりこの四月からの四人が決定した。去年に続いて安藤光、内田利に加えて、新たに岩手の小林俊彦が決定。そしてさらにもうひとり、福山の岡崎準騎手の名前があった。
この最後の枠ひとつをめぐって熾烈な争いがあったとささやかれている。「岡崎騎手と、佐賀の鮫島騎手がかちあったんですよ。結局、抽選で決めたんですが」(南関東の関係者)
鮫島騎手と言えば、全国リーディングジョッキーシリーズにも騎乗、名前も全国区と言っていいが、それに比べて岡崎騎手は福山所属ということもあって、正直ネームバリューは薄い。「えっ、どこの騎手?」という声もあったというが、しかし、もとは益田で乗っていた福山最年長のベテラン。なにより通算2600勝以上という戦績はダテではない。
この抽選、実はじゃんけんだった、という噂も流れていた。地方ジョッキーにとって夢とも言える南関東での騎乗権を賭けたじゃんけん、さぞ熾烈なものだったのでは、と思って関係者に尋ねてみると、「いやあ、さすがにそれはないですよ」と、一笑に付された。真相は、所属予定厩舎の調教師同士でくじを引いたのだとか。まあ、そりゃそうか。
当の岡崎騎手は、「大井で乗るのは始めてですし、ひと鞍でも多く乗ってファンにアピールしたいですね。ナイターも楽しみです」と、意気軒昂。昨年暮れにサラブレッドを導入したとは言え、長年アラブ専門だった福山のジョッキーは、残念ながら全国には名前を知られていない。隠れた名手もいれば、ここ数年はJRAの騎手免許試験にも何人も挑戦しているのだが。その意味でも、この四月から二ヶ月限りの、岡崎騎手の南関東での騎乗ぶりに注目したい。