もっともっと騎手の交流を

 年が明けました。今年は懸案の競馬法改正を控えて、ニッポン競馬の次なる半世紀を見通すべき正念場。表のメディア、日々開催を追いかけるのに忙しい競馬ジャーナリズムの眼の届かない現場を重点的に、歩く速度と身の丈の眼の高さでできる限り書きとめ続けたいと思いますので、どうか旧年同様、よろしくおつきあいのほど、お願いいたします。

 年末年始、JRAの日程表だと有馬記念から金杯までの休催期間が、帰省客や正月気分のファンを大事にする地方競馬にとっては、例年かき入れ時。今年も、北はばんえい帯広から、水沢、川崎、金沢、笠松、名古屋、園田、福山、高知、佐賀、荒尾、と、正月三が日に都合十一場が開催、いずれ低迷を続ける売り上げを少しでも何とかしようと頑張っていました。

 暮れに、来年度四月以降開催を続けるためには売り上げが750万円足らない、という報道が全国に大きく流れてしまった高知も、、「そりゃあ、買いに行ったらんといけんわ」という地元のファンの義侠心を刺激した面もあるのか、高知にしてはそこそこの賑わいを見せて何とか不足分を埋めて黒字を確保。件の記事も、実は主催者が流したのではなく、県の競馬対策室が通信社にリリースしてしまったところ、全国配信で大々的に、というのが真相のようで、主催者側は記事を見てびっくりしたとか。まあ、結果オーライ、逆宣伝のようになって言わばケガの功名、という次第。とは言え、わずか750万円足らないだけで存廃が取り沙汰されるような四半期ごとのサドンデスの「高知方式」をもう何年も続けているので、現場の厩舎関係者、特に厩務員さんたちの辛抱はもうほんとに限界で、主催者としては赤字を出さない限り競馬をつぶすことはない、と言っているものの、年度末までまだ予断を許さない状況なのは間違いありません。

 年度末名物の黒船賞も今のところまだ未定。賞金9万円の競馬場で3000万円の一発勝負、それもJRAの馬に馬場を貸すだけという不条理かつ屈辱を承知で敢えて開催してきたのも、交流重賞の分、全国で売ってもらえて売り上げがあがるかも、という期待からだったわけですが、始めた当初はともかく、近年は多少売り上げはあっても経費その他がかかりすぎて実質やるだけ損、というのが正直なところ。ならば、たとえば賞金を1000万くらいに下げても地方他地区の馬を招待する形にして互いに売り合った方が、採算としてはよっぽどリーズナブルなはず。何より、興行としてもファンの興味を引くでしょう。賞金はもちろん、輸送費その他も含めて、諸経費をJRAのものさしでやらねばならない不自由が改善されない限り、交流重賞はもうその本来の「交流」の意味などなくなっています。思えば、中央のスターホース、スタージョッキーを、言い方は悪いですが“客寄せパンダ”に使うという発想は、同時に「一発逆転」狙いばかりになって、各競馬場の地道な自助努力を忘れさせる弊害もありました。こういう状況ですからなおのこと、地方競馬の主催者にはこのへん、もっと考え直していただければ、と強く思います。

 みんな経営が苦しいんだから競馬場同士もっと連携しろ、ブロック化をめざして競馬資源の共有と効率化をめざせ、というかけ声は、農水省以下、競馬エスタブリッシュメント方面から以前からかかっているのですが、とにかくそのへんの動きが鈍いのはかねがねこの欄でも苦言を呈しているところ。実際、同じ地区の隣同士の競馬場が年末年始に開催をぶつけてみたり、といった共食い状況は、今年もまだまだ改善されていません。と共に、場間場外発売システムの整備も進んでいない。主催者同士がまずテーブルについて生き残りを賭けた連携計画を練ることすら、互いに顔見合わせて様子をうかがっているようなところがほとんどです。

 多少なりとも頑張っているかな、と思うのは騎手の交流。馬資源の共有は輸送費の問題がネックでなかなか進みませんが、とりあえず騎手ならば、というわけで、特に西日本の小さな競馬場同士でささやかながら試みが広がっています。一昨年、サラブレッド導入を機に福山と高知が定期的に馬だけでなく、騎手の交流を行い、互いに売り合って売り上げに貢献をしています。これに荒尾や佐賀の九州地区も加わったりで、ゆるやかながらなじみもでき始めている。レース自体も、違う騎手が乗ることで同じ馬の違う側面が引き出されたり、調教師や馬主さんたちの間でも意外な発見があるようですし、何より、そうやって行き来をしてきた騎手たちの表情が明るくなっているのがいいことです。また昨年秋、大井から笠松に自ら志願して期間限定騎乗をした本村騎手に続いて、いまは川本騎手が来ていますし、宇都宮から北海道に移籍、去年大暴れした山口(竜)騎手もこの時期は福山で乗っています。もちろん、こういう騎手交流の前例を自ら身体を張って切り開いてきた、内田(利)騎手の功績は言うまでもありません。

 この流れ、地方だけじゃもったいない。どうですか、JRAの騎手のみなさん、特にレースになかなか乗る機会のない若手ジョッキーの諸君の中に、じゃあオレもちょっと地方で武者修行、というサムライはいませんか?

 「ああ、競馬ってこんなに楽しかったのか、と思い出しました」――これは笠松を去る時、ファンの前で地元の騎手たちに胴上げまでしてもらった本村騎手の言。勝負服を着て、お客さんの前でゲートから出て勝負する、その楽しさを取り戻したいというのなら、大歓迎してくれる競馬場は地方にはいくらでもあるはずです。