競馬「改革」正念場の一年

新しい年が明けました。このところいささかお手玉気味だった懸案の競馬法改正も、ようやく第二次改正法案提出の日程が具体的になってきたようで、いずれにせよ今年は、前々から言っているように、ニッポン競馬にとってはこれまでの「戦後」の枠組みを根こそぎひっくり返さざるを得ない節目の年になることでしょう。地方競馬の抜本的な再編、馬券発売システムの統一も含めた中央と地方の格差の解消、そして生産地の未来を見据えた「国際化」の総決算、などなど、取り組まねばならない案件は多岐にわたりますが、いま、ここでできるだけの改革をしておかないことには、ようやくここまでやってきたこのニッポン競馬の繁栄もそう長くない。そういう覚悟で今年は競馬、とりわけ地方競馬とその周辺はしっかりと見つめておかねばならないと決意しています。
とは言え、年明けでもありますし、少しは明るい話題から。
年末年始は競馬に限らず競輪、競艇公営競技のかき入れ時というのは昔からのことですが、年々売り上げ低下にあえぐ中、どうもこの年末年始は多くの地方競馬場で意外に売り上げが伸びたようです。まず、今年度の赤字分を何とか埋めて少しばかり黒字まで出た、と報道された笠松を始め、名古屋、福山など、暮れから正月にかけて開催した競馬場の多くが予定をうわまわる売り上げ。ずっと低空飛行が続いて、ハルウララ効果でこさえた虎の子の蓄えも昨夏以来切り崩し、このままでは年度末を無事に乗り切れるかどうかという緊急事態にまで追い込まれていた高知でも、大晦日はなんと前年比プラス、というそれこそハルウララ騒動以来の結果を出していたりします。まあ、当日は阪神タイガースの藤川投手が冠競走に協賛して来場、という格好のイベントがありましたし、また地元では天敵の競輪が年末開催をやらなかったという事情もあるにせよ、このご時世に少しでも売り上げが伸びるのはとにかくいいことです。
もっとも、数字をよくよく眺めると喜んでばかりもいられない。たとえば、一年期間限定での存続中という笠松の場合も、暮れから導入した三連単の効果もあって確かにこの年末年始で黒字は出たのですが、全体の売り上げはというと、去年に比べてまだ下がっています。なのに、それでも利益が出たということは、それだけ経費が削減できる余地がまだあったわけで、しかも同じ東海地区での名古屋との開催調整もうまくゆかずじまいの中での結果ですから、このへんもっとお互いに売りあっていればさらに儲けは出たはず、という声も現場では出ていました。「笠松、黒字へ」と、あたかも主催者の努力によって売り上げが伸びたかのような新聞報道も出ましたが、他場にしても現実は似たり寄ったりのところがあるはずで、とにかく数字の向こう側の事情というのは、まだそうそう安心できたものでもありません。
僕はというと、年末年始は例によって東奔西走、高知の高知県知事賞、福山の福山大賞典、とニッポンで最も小さな、その意味では忘れられたと言ってもいい競馬場の、年に一度の大勝負をぜいたくにハシゴしてきました。共に小回り馬場での2400㍍と2600㍍戦。いずれ地元のオープン馬たちが賞金150万円、500万円をねらって一発勝負。なんだそれっぽっち、と言わないでください。ほとんどのクラスで一着十万の競馬でしのいでいる高知にとっちゃ150万の賞金は、それこそ有馬記念の一億五千万くらいの重みがあるってもんです。福山でも同様、もう全国的にほぼ使えるところのなくなったアラブの競馬に大枚500万の大盤振る舞いは、厩舎関係者にとってはしびれるような金額です。
高知県知事賞は、シンボリオレゴンストロングボスというオープン二枚看板が共に飛び、勝ったのは三歳の伸び盛りシルバークロス。芦毛トウカイテイオー産駒という珍しい馬体で、昨秋にJRAから転戦後は全連対。新たなスターの誕生にスタンドはわきました。三着には「はだしの帝王」(ずっと跣蹄で出走中)ノボエンペラーも突っ込んできて花を添えました。福山大賞典も、断然人気を集めたスイグンが伸びず、昨年三歳世代の頂点に立った快速馬ユノフォーティーンも沈み、長丁場得意の古豪ユキノホマレが若手の三村騎手を擁して快勝。新年を期して砂を足したこともあってきびしい馬場で、大賞典には珍しい差し−差しの競馬になってこれまた手に汗握る競馬になりました。
ノリヤクたちの駆け引きや道中の出入りなども含めて、そうだよなあ、競馬ってこういうおもしろさってあったんだよなあ、と、ふだんから地方競馬を見慣れているはずのあたしでさえも、改めて考えてしまいました。思えば、大井の東京大賞典も2000㍍になって久しいわけで、まあ、並みいる中央馬を尻目に船橋アジュディミツオーが逃げ切ったのは愉快でしたが、それでも、昔みたいな2800㍍戦の大一番というのをまた見てみたいと思います。ちなみに、中央でも春の天皇賞なんかもう一度2マイル戦にならないかなあ、とひそかにずっと願ってるんですが。
JRAの競馬、芝のきらびやかな「スピード」競馬に地方競馬のほとんどが目くらましされ、考えなしに右へならえをしてきたここ十数年というのがあります。自分たちの競馬の積み重ねてきたものの意義もわからず、ただ中央をひな形に未来を夢想してきた――それはそれで一定の果実をもたらしたとは思いますが、けれども、馬の素質まかせにスピード重視の番組でしのぎを削る中央とはまた別に、限られた馬資源を有効につかいまわすための小回りダートの地方競馬、という存在意義もあります。その意味でもっと距離体系のバリエーションをつけることだけでなく、そもそもJRAの競馬とは違うものさしを自前で持とうとすることが、いまのような追いつめられた状況だからこそ、地方競馬に必要なのではないでしょうか。