『とてつもない日本』騒動について

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Q:このようにネットを介してベストセラーをつくるとか、モノの売り上げを上げるといった動きはこれまでもあったのか?

 ネットを媒介にしていろんなモノを売ったり、ランキングあげようといったことは、2005年頃からちらほら目立ってきたんですが、ただ、今回の場合は、ネットの中でも2ちゃんねるなど掲示板系のものを中心に、個人のブログやSNSなどを介して不特定多数の普通の人たちがどんどん加わっていってゲリラ的に広がっていったのが、大きかったですね。

Q:仕掛けた人にはどのような意図があったのか?

 当初、ちょっと麻生さん応援しようや、と言い出して始めた人たちは、意図というか、広い意味でのファン意識みたいなものはあったと思いますが、ここまで広がりを持つとは思ってなかったと思いますよ。いい意味でのオモシロ半分を十分に含んでこうなってると思いますけど。

Q:どういう人たちがこういう運動に参加しているのか?

 それは千差万別でしょうけども、ひとつあるのはよく、麻生支持者こんなものか、とか、自民党好きなやつはこんなに多いのか、的な解釈をされる人が評論家などでよくいるじゃないですか。でも、それは非常に誤った解釈だと思いますよ。たとえばこれ、結果として、小沢さんの本でだって可能性としてはあり得たと思うんですよ。ただ、前提にあるのは何かというと、今のマスコミ報道に対する不信感というか、違和感は根深く共有されていて、それが触媒となってここまで広がった部分はあると思いますね。。これまでいろいろ麻生さんマスコミ中心に批判されてますよね、でも、それってちょっとフェアじゃないんじゃないの?、という感覚は想像以上に薄く広く共有されていたんだと思いますね。

Q:これはこれまでにない、よっぽどのことが起こっているということか。全部の人が自分で代金を払って買っているというのはちょっと信じられない。

 みんな実際におカネ払って自分で動いているわけですよ。ネットだとクリックするだけですけど、でも、それだけじゃなくて実際に書店に足運んで買ってる人もたくさんいるわけですよね。そういう雪崩現象が起こっているのは、やっぱりそりゃあ「よっぽどのこと」でしょうね。

Q:どういう欲望が背景にあるのか? どうしてここまで騒ぎになったのか?

 なんでそうなったのか、というと、自分も何かそういう意思表示をしたい、まあ、今回は政治がひとつのアイテムになってるわけですけど、以前は、プロ野球の人気投票である選手に人気を煽ろうや、とか、アニメのテーマソングのランキングあげようや、といったところにとどまっていたんですよ。でも、それが今回、いよいよ政治の局面にまできたか、という感じはありますね。


 ネット環境の変化ってのはほんとに早くて、ブロードバンド環境が普及してからはさらにそれが加速していったわけで、初期のパソコン通信や二十世紀末のネットの状況とはほんとに変わってしまってます。そんな中で、なんというかな、「マス」というか「みんな」ですね、「みんな」を作り出す仕掛けがほんとに良くも悪くも変わってきていると思うんですよ。


 でも、その「みんな」の一部がこのオレたちだぞ、という感覚が、これまでのマスコミ報道じゃ持てない、持てなかったがゆえに、むしろネットなんかを介したこっちの方がオレたちのホントの気分だよ、と、まあ、そんな感覚がすでにあるんだと思いますよ。


 参加しているひとりひとりの人にとっては、政治や思想やそんな難しい話じゃないですよ。でも、なんかしっくりこねえよなあ、という感覚、テレビや新聞は寄ってたかって麻生さん叩いてるけど、でもそれってホントなの? みたいな気分ですね、それがほんとに想像以上に広がりを持ってた。だから、自分たちの気分を表現する手段として今回、これだけの人たちが集中したってところはあるんじゃないですかね。

Q:どういう集団が仕掛けているのか?

 だから、結果として集団として見えるだけで、別に一枚岩じゃないですよ。自然発生的なデモみたいなもので、それこそかつての新宿地下広場のフォークゲリラとか、もっと古い話だったら日露戦争の後の日比谷の焼き討ちとか、米騒動なんかとも大きく言えば同じだと思いますよ。


 でも、普通はなかなかみんな実際に腰上げないわけですよ。いままでネットを介してこういうことをやっても、結果は、なんだこんな程度の動員しかかけられないのか、みたいなことがほとんどだったんですけど、でも、今回、ここまで予想以上の広がりを持ってしまったというのは、いわゆるマスコミに象徴されるこれまでの情報環境によって作られる「国民」とか「庶民」、「みんな」意識に対して、なんかそれってズレてるよなあ、という違和感が相当あったのがまず前提でしょうね。それがたまたま今回、麻生さんの本という形で、自分も参加できて、自分の意思表明、態度表明になることをみんな喜んでいたわけですよ。だから、本を買ったレシートを本と一緒に写真に撮って貼りつけてゆくアップローダーなんかも盛り上がってるわけじゃないですか。ああいうこともまた楽しいわけですよ。ネットを介した新たな情報環境におけるこれまでとちょっと違った個人の意思表示の仕方として、こういう現象も出てきたんだと思いますけどね。

*1: CX(フジテレビ)の番組からコメント依頼の電話インタビューが。制作会社経由でなく報道部のアナ直々だったと記憶。オンエア時は例によって切り取られて文脈ほぼ無視、webであげつらわれたりしたけれども(*^^*)