「懲戒解雇」の顛末――でぶ太郎、野に放たれる

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 勤めていた大学から、「懲戒解雇」を申し渡されました。北海道は札幌にある札幌国際大学という、今年で創立51年目になる小さな私大です。地元の人たちには、静修短期大学という名前の方が今でも通りがいいかも知れません。

 こういう地方の私大のご多分にもれず近年は定員割れが続き、藁をもすがる起死回生の策ということだったのでしょうか、昨年春の2019年度入学生から外国人留学生を大量に入れるようになった。ところが、その入れ方がずさんで、大学で学べるだけの日本語の能力の目安とされて留学生受け入れの条件になっている「N2」という日本語能力試験の基準をクリアしていない学生をたくさん入れてしまい、なおかつ、留学生を抱えた大学に課されている在学中の在籍管理――勉学面のみならず、一定時間以上のバイトをしていないか、とか生活面についてもあれこれ面倒を見なきゃいけない義務の履行もいろいろあやしげなまま、といった難儀な実態が昨年春の新学期早々から発覚、これを何とか是正しようとあれこれ学内で当時の城後豊学長以下、同僚有志たちと対策を講じて頑張っていたのですが、経営側がそれを察知して学長を解任しようと画策、暮れには議事録も明らかにしない選考過程を強行して新しい学長を一方的に決定までするようになり、もうこれ以上内部での事態改善が求められないと判断した学長が、今年に入ってから入管や文科省など外部の関係諸機関に実情を知らせ、同時に報道機関などにも協力を求めた結果、3月末に事態がいよいよ表沙汰になったという経緯が背景の舞台装置。

札幌国際大学(札幌市清田区)で、定員充足のため、2019年4月に留学生を急増させた経営側の対応に対し、一部の教員が「日本語能力が大学に入学させる基準に達していない学生が多く、安易な受け入れだ」と反発。入国管理局や文部科学省に調査するよう求めるなど、学内が混乱している。学生確保に苦しむ地方大学が活路を見いだす留学生の増加に、日本語能力を向上させる環境整備が追いついていない現状が背景にある。」(『毎日新聞』2020年3月31日付)

 この学長が任期満了という形で事実上解任される最後の3月31日に北海道庁で行った記者会見の場に同席していた、というのが「懲戒解雇」の理由のひとつ。その他、都合4点の理由がもっともらしくあげられ「本学の関係者全体の名誉、組織運営の健全性を損なう行為」だから、と理由づけされていましたが、要は「おまえ、前学長と一緒になって留学生を入れようとする経営側のやり方に楯突いて邪魔していただろう、けしからん」というだけのこと。「懲戒解雇」にあたるまっとうな理由も理屈も何も見あたらない代物でした、というお粗末。

 とは言え、お粗末であれ何であれ、売られた喧嘩は買わなきゃ損、という性格ゆえ、もちろん即刻喧嘩支度にかかり、地位保全の仮処分などできる限りの法的措置を講じて全力で交戦中、というところです。

 どうしてこういうワヤなことになったのか。それは今後の法廷で明らかにされてゆくでしょうし、またその都度、できる限り世間の皆様の眼に触れるような機会を作ってゆくつもりですが、紙幅の限られたこの場では、その「どうして」を解いてゆく際の大事なカギになるだろう、以下のいくつかの事実だけ。

・ この4月からこの大学の理事会に、嶋貫和男という名前が新たに加わっていること。


・ この御仁はこれ以前、2018年度から経営戦略委員会という名前の組織にも名を連ねていて、外国人留学生を入れる際の「アドバイス」を理事会などでしていたこと。


・ そして何より、この島貫和男氏というのはあの前川喜平氏の文部科学省時代の「天下り利権」の番頭格、言わば前川の片腕として以前から斯界で有名だった人物であること。

 現場からは、ひとまず以上です。北海道、今年の夏は肌寒いです。 

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*1:Newsweek日本版の依頼原稿、の草稿。200714掲載分の。

*2:「暴力でぶ太郎」の通り名を、ひさびさに使われる機会になったことはちと面映ゆくもなつかしい。

*3:掲載原稿はこちら。微妙に手入れられているあたり、ご賞味いただければ幸い ⇒ www.newsweekjapan.jp