再度、「懲戒解雇」のその後

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 「懲戒解雇に処す」

 そう言い渡す顔は、気持ちゆるんで、軽くせせら笑っているように見えました。札幌国際大学理事長であり、弁護士でもある上野八郎氏、西暦2020年令和2年は6月29日の午前10時過ぎ、学内法人会議室でのたたずまいであります。

 不肖大月、北海道は札幌市清田区にある小さな私立大学、札幌国際大学人文学部で教員として、縁あって2007年春以来足かけ13年にわたって勤めてきたのですが、ここにきていきなり「懲戒解雇」という処分を受けることになりました。

 普通「懲戒解雇」というと、いわゆる法に触れるような何かをやらかした、それも軽微なものではなくよっぽどのこと、たとえばカネを使い込んだとか、オンナ絡みの破廉恥罪とか、交通事故で人身事故やらかしたとか、いずれ新聞沙汰になるような「悪いこと」をやった、その結果としての処分、といった理解が、まあ、一般的なところでしょう。実際、自分もその程度の認識でした。自分ごととして降りかかってくるまでは。

 大学側からの「懲戒解雇告知書」に記載されていた「懲戒の事由となる事実」は以下の4点。処分の決定理由として主にあげられていたのは下記①と③で、「本学の関係者全体の名誉を損なう」「本学の組織運営の健全性を損なう性質の違法行為」とのことでした。

 ① 令和2年3月31日、城後豊前学長が実施した記者会見に同行したこと。


 ② Twitterにおいて、複数回にわたって本学の内部情報を漏洩したこと及び誹謗中傷の書き込みをしたこと。


 ③ 教授会の決議や権限に基づき作成されていない「教授会一同」名の文書や教授全員の総意に基づかない「教授会教員一同」名の文書について、これら文書がその権限や総意に基づかない文書であることを認識しながら、城後豊前学長がこれら文書を外部理事に手交する行為に同調しその手交の場に立ち会ったこと。


 ④ 平成27年4月1日~令和2年3月31日までの期間において65回開催された教授会に、8回しか出席しておらず、他の教授と比してその出席状況が著しく不芳であり、その状況につき正当な理由がないこと。

 昨年度から新たに導入した外国人留学生をめぐる入試のあり方や在籍管理等、制度の運用にさまざまなコンプライアンス違反、ガバナンスの不適切な状況が学内で生じていて、それを当時の城後学長以下、学内の教員有志らと共に何とか是正しようと努力していたのですが、それが大学法人側の経営陣によってことごとく阻害され、学長は手続きも不透明なまま事実上の解任に等しい仕打ちをされるまでになっていた。なので、致し方なく外部の関係諸機関にそれら内情を訴え、報道機関などにも協力を求めて世間の眼から公正に判断してもらおうとしていた、単にそれだけのことだったはずなのですが、それら一連の行動が前述のような理由で「懲戒解雇」にあたる、という判断を、法人側お手盛りで立ち上げた賞罰委員会による強引で一方的な答申に従うという形で、上野理事長自らこちらに申し渡してきた次第。

 当然、いずれも「懲戒解雇」の前提となる事実として不当なものであり、外国人留学生の不適切な入試や在籍管理などをめぐる問題に関連した報復的な処分なので、解雇権の濫用、内部告発者と目した者に対する見せしめ的な恫喝、威圧でありハラスメントであると考えざるを得ず、地位保全等を求める仮処分の申し立てと共に、民事での訴訟も札幌地裁に提起させていただきました。仮処分の申し立ては地裁では却下、現在高裁へ抗告中で、一方、本訴の民事訴訟は先日10月末に冒頭陳述をさせていただき、審理が始まったところです。


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 少子化に伴う経営難で、国内の大学はいずこも大きな荒波に巻き込まれています。定員割れを補い、各種公的な助成金を穴埋めするためのあの手この手の一環で、外国人留学生を受け入れて何とかしようとする施策もここ10年ほどの間、政府の「留学生30万人計画」に後押しされて全国の大学、殊に苦境がより深刻な地方の私大では積極的に行われてきていました。それにつけ込んだ業者の類も跋扈、いわゆる留学生ブローカー的な人がたがそれらの需要を満たす構造も作り上げられてゆき、「留学生」というたてつけでの実質労働力が国内にあふれることになった。

 そのような中、昨年、東京都内の東京福祉大学の留学生が大量に行方不明になっていることが発覚、これら留学生をめぐる制度の運用のずさんさが露わになり、文科省出入国管理庁が協力して指導を行う事態になったことなどもあり、達成年度にあたっていた「留学生30万人計画」の事実上の「見直し」が文科省から発表されたのが今年の秋。加えて、安全保障面からそれら留学生も含めた在留外国人に関する政策の大きな方針転換が国策レベルでも打ち出され、いずれにせよ今世紀に入ってこのかた、わが国の大学や専門学校を中心に拡大してきた留学生ビジネスのあり方を洗い直し、健全化する動きが加速化されているのは確かです。

 なのに、ご当地北海道では、これまでもすでに中国・瀋陽に提携する日本語学校を設立、留学生ビジネスで大きく業績を伸ばしていた京都育英館という日本語学校が、苫小牧駒澤大学稚内北星大学を事実上買収、その他高校にも手を出して、いずれも中国人留学生の受け皿としての意味あいを強めた再編を始めていますし、また、これも関西を地盤とした滋慶学園という専門学校を中心とした学校法人が、札幌学院大学と協力して市内新札幌の再開発事業と連携、新たなキャンパスを作ってそこに相乗りのような形で進出の橋頭堡を作り始めています。さらには、同じく札幌郊外にある北海道文教大学も、既存の外国語学部を国際学部に改編したりと、どこも背に腹は代えられないということなのでしょうか、相変わらず外国人留学生を織り込んだ生き残り策をあれこれ講じているようです。

 そんな中、留学生を送り込むに際してブローカー的な動きをした国内外の人がたと共に、どうやら霞ヶ関界隈の影までもちらほらしているのは、この札幌国際大学の理事会のメンバーに、かの文科省天下り問題で物議を醸した前川喜平元文部次官の片腕だったとされる嶋貫和男氏の名前があることなどからも、期せずして明るみに出始めていますし、また、政権与党の二階幹事長周辺につながる公明党なども含めた中央政界のからみなども陰に陽に見え隠れしている。たかだか地方の小さな私大の内紛に等しいような騒動であるはずのできごとが、そこに端を発して、これらが北海道に対する外国勢力からの「浸透」政策の一環でもあるような可能性までも、どうやら考えねばならなくなってきているようにも思えます。

 単に自分の懲戒解雇の件に関してならば、法廷で公正な判断をしてさえもらえればしかるべき結果になるだろう、それくらい理不尽で論外な処分だと思っていますし、その意味で割と呑気に構えているつもりなのですが、ただ、はっきり言っておきたいのは、公益法人である大学という機関がこのような異常とも言える処分をくだすにいたった、その背景の詳細とその是非について、法と正義に基づいたまっとうな判断を下してもらいたいこと、そしてその過程で、いまどきの大学の中がどうなっているのか、そこでどれだけ無理無体なことがうっかりと日々起こり得るようになっているのかについて、世間の方々にも広く知っていただきたいと思っています。

 と同時に、自分が受け持っていた講義科目や演習の学生たちに著しい不利益が生じていることも、忘れずに言い添えておきます。今年に入ってからのコロナ禍でいわゆる遠隔授業が実施されていたことで、4月に入学したものの大学に顔を出すことも禁じられ、同級生やクラスメートとも顔をちゃんと合わせたこともないままだった1年生も含めて、あるいは他方、就職活動を行ない、卒業論文の執筆にもとりかかっていた4年生に至るまで、何の予告もそのための準備もないまま前期半ばでいきなり放り出されてしまった。その後もそれら学生たちに誠実な対応をしないままの大学側の態度と、それによって生じてしまった学生たちの不利益についてもまた、この場で明らかなることを、彼ら彼女らの名誉のためにも強く希望します。

 「大学」という場所が本来どのようなものであるべきか、そのイメージ自体がもう、監督官庁である文部科学省はもとより、当の大学の現場からもどうやら失われつつあるらしい。それは経営側と共に、日々学生に接し、彼ら彼女らと共に「大学」を更新し続けるべき教員や職員、教学側もまた同じく、それら理想の大学をもう見つめることができなくなっている。そのことを改めて自分ごととして思い知ることでもありました。

 まして、冒頭触れたように、上野理事長は弁護士でもあります。法と正義を司る法曹の仕事に就く者です。その弁護士が理事長職を務める公益法人の私立大学において、いかに経営状態を改善するためとは言いながら、定められた法や規則を公然と踏みにじり、教職員の間との、そしてそれらを介して最も尊重されるべき学生たちとの信頼を毀損して恥じることなく、思うままに教職員を解雇することが現実に起こっている。国立大学から転じてきた教員には「私立は国立とは違うんだ」と言い放ち、恫喝するのが口癖だったとも聞きますが、私立であれ国立であれ、「大学」という場所に求められるものが、そのような恣意や放埒であっていいはずはない。それは、最近問題になった日本学術会議の件でも期せずして露わになった、「戦後」のわが国の学術研究とそれを支える「場」のありようが、「学問の自由」などの大文字のもの言いの運用に当事者たちが日々、善意の当事者としての最低限の注意を払えなくなっているうちに想定外な蝕まれ方をするようになってしまっていたことと、おそらく同じ根を持つあらわれなのだと感じています。

 大学の規定でフルタイム雇用の定年は63歳。自分はいま61歳ですから、あと2年で自分は「時間切れ」。裁判の結果が出る頃には、自分は大学に戻れなくなっているかも知れません。今いる学生たちとももう大学で会えなくなっているかも知れない。そういう意味で今の自分に残されている時間はもう少なくなっています。なので、縁あって大学で出会って共に学ぶことになった、今の学生たちとの関係をまずできるだけ早く取り戻したいと考えていますし、そのために公正な判断をできるだけ早くいただきたい。そしてそれは、学生たちのため、という一点において、大学本来の目的ともきっと合致しているはずです。

*1:「弁護士ドットコム」というサイトからの依頼原稿の草稿。例の裁判に関して書いて欲しい、とのことだったので、これまでこの件に関してあれこれあちこちに書かせてもらってきたことと重複するところもあるけれども、まあ、媒体が違えば初見の人も多くなるだろうということで。 www.bengo4.com