「講座」商法の古色蒼然

 百科事典や全集などの大きな出版企画はもう売れない、と言われるようになって久しい。なるほど、ちょっと気のきいた辞書ならばいきなりCD-ROMになるご時世。中身以前に書物というメディアの形式そのものが書棚に並べておくだけのご威光さえも失いつつある現状では、それもまたひとつの時流だろう。

 なのに、出版界では未だに大きな講座ものがいくつも企画されている。耳にするところでは、岩波で作っている『講座社会学』はなんと二十数巻にわたる大風呂敷。その他、文化人類学や文学などについても続々と大きな企画が立てられ、制作が進行していると聞く。

 大学ではタテ割りの講座制の解体が促進され、概論から各論、特殊研究、演習などと細分化しながら専門化してゆくこれまでの「○○学」講座でなく、初めから横並びでそれもくだけた「○○論」といった講義題目が今や主流。そのことの是非はまた別に問われねばならないが、少なくとも大学がそういう現状なのに出版界だけがなお「講座」という形式にしがみつくのは奇妙な光景だ。教科書として以外に図書館などの需要を見込んでいるのかも知れないが、それもかなりおめでたい話。ともあれ、「学問」という共通の価値に対する信心までがほぼ解体されてしまったかのような現在、いきなり「講座」などという古色蒼然たる大看板を振り回すご乱心の末路だけは、きっちり見届けておきたいと思う。