書籍流通の変貌

 最近、取り次ぎを介して配本したはずの本が二週間足らずで戻ってくることが多い、という話をあちこちで耳にする。しかも、梱包が解かれた形跡さえない、明らかに中身を確認もしないでそのまま送り返してくるのだ、と出版社の人間たちは苦い顔で言う。

 出版社の営業とは書店の棚の争奪である。限られたスペースにどれだけ自分の会社の本を置いてもらえるか。書店の側にしても、自分の店の客筋や好みなどを考慮しながら仕入れをするのが本来だけれども、コンピューターによる商品管理を徹底して行なう大手の取り次ぎが圧倒的な力を持ってしまっている出版流通の現状では、独自の仕入れをして店の個性を出そうとする書店の努力は逆に自分の首を締めることになりかねない。それに、これは地方都市の老舗と言われる書店ほど顕著なのだが、仕入れに対するそんな独自のこだわり自体がすでにひとりよがりと化していて、今どきの出版市場に宿る健康な市場原理すら反映できないよどんだものになっていたりする現実もある。

 それほどまでに、出版をめぐる状況は激変し始めている。地方の「良心的」と言われる書店に元気がなくなり、雑誌とマンガと文庫本にファミコンとCDを加えたような郊外型の大店舗に勝てなくなっているのにも、それなりの理由はあるのだ。これを一律に「出版文化の衰退」と嘆くだけでは、眼の前の読者から新たな価値を作り出す活力は出ない。