JRA標準でない、小さな競馬を

 猛暑が続いています。地方の小さな競馬場もそれぞれ、夏場の生き残り策に必死になっています。たとえば、薄暮開催の広がりなどは今年の特徴。JRAも昨年から函館で始めていましたが、ただ、平日開催が中心の地方競馬の場合、薄暮だけでいきなり売り上げが伸びるわけでもなく、むしろこれまでのファン層と夕方以降の新しい客筋とが入れ替わるために、売り上げ的にも興行的にもむしろ中途半端になったりする面もあるようです。とは言え、オープンテラスのビヤガーデンとして、夕涼みがてらでもいいからとにかく競馬場に来てもらう、という意味では今、とりあえずやれることのひとつなのは確かですし、馬券だけではない競馬場、のあり方を模索するいい機会でもあります。

 何より、ここまで賞金が軒並み下がると馬主が減り、それに伴い在籍頭数も少なくなっているのはどこの競馬場も同じ、さらにこの猛暑で出走頭数の確保もままならなくなり始めているところもあるようで、中には五頭立ての競馬にせざるを得なくなっているところも出始めています。ただ、その分距離を短縮したり、二走使いの馬への対応を配慮したり、と、番組面での手当てをこれまでより柔軟にする動きが目立ち始めているのは、敢えて言えば不幸中の幸い、そこまで追い詰められて初めて動く「お役所競馬」という側面もあります。あまり知られていないことのようですが、すでに跣蹄馬(つまり、はだしです)も事実上出走可能にしている競馬場もありますし、とにかく今は競馬を続けることが最優先、「お役所」主催者の身動きのとれなさは同じでも、経費を削減して預託料をさげ、調教師自ら寝藁をあげ、馬をさわり、厩舎も馬主も共に頑張って競馬を支えよう、という姿勢に何とかなっている競馬場ほど、まだ希望がある。逆に、昔ながらのうまや気質のまま、主催者に文句を言うばかりで自分たちからは動かず、まとまらず、あげく、どうせつぶれる競馬場なら早めにつぶしてカネもらって、などという空気が強くなっているところは、たとえ主催者が外ヅラの数字をいくら粉飾してその場しのぎを続けようが同じこと。薄暮競馬も含めてそのへん、逆境にある現場のなけなしの努力が競馬場同士、互いにまだうまく伝わっていない、智恵を出し合う形になっていないのが、歯がゆいところではあります。

 そんな中、先日、笠松競馬が来年からナイターを実施する、という決意表明をしました。ナイター競馬と言えば、トゥインクル開催を定着させた大井や川崎の南関東、さらに夏場の旭川ホッカイドウ競馬が知られていますが、それ以外の競馬場でのナイター開催はこれまで話には出ても、まず予算の問題、そしてお定まりの周辺住民の説得など厄介な課題が出てきて頓挫、とても実現させるまでは行かないのがお約束でした。

 ナイター設備に投資するだけの余裕がない、というのもさることながら、仮に見積もりを取っても、これまでは十億だの二十億だのというとんでもない金額が出てくるのが普通で、とてもじゃないけど……と、しり込みするのが関の山でした。しかし、それもまた公共工事と同じ、どうせ相手は公営ギャンブル、儲かってるんだから水増ししちまえ、という「親方日の丸」な出入り業者の体質と、それをチェックしない、できない「お役所競馬」の弊害という側面がどうやら大きかったようで、手づるをたどって複数の業者にホンネのところで見積もりをとらせてみたら、少ないところで三千万から四千万、設備だけならどんなに高くても一億もあればできる、という線が出てきたとか。考えたら、高校などでも野球やサッカ-のナイター練習設備を持ったところは今どき珍しくないわけですし、何よりほとんどの競馬場は早朝から調教するための最低限の照明施設はすでに持っている。「ナイター競馬は設備投資が高くてムリ」というこれまでの主催者発表がそのまままかり通ってきたのも、ほんとにそうか? ともう一歩踏み込んで考えてみる動きが現場からなかったから、という面はあるようです。

 もちろん、経費がネックでなくなっても、周辺環境への配慮などナイター実現にはまだまだ課題は山積しています。競馬場のロケーションによっては、どうしても無理、というところも少なくないでしょう。ただ、ナイターに限らず場外発売施設などもそうですが、なにもWINSのような立派な施設ばかりが場外じゃない、地方競馬には地方競馬の手にあった売り方、ファンの楽しませ方があるはずで、JRAと同じ土俵で勝負したらそんなもの、勝ち目があるわけない。逆に言えば、JRAの競馬だけを競馬のお手本だと主催者自ら、いや、厩舎関係者自身があらかじめ思い込んでしまっているところがあるのではないでしょうか。JRA標準ではない競馬、という選択肢も、地方競馬のこれからにはきっと重要だと、僕などは思っています。