笠松、存続へ

 笠松、何とか土俵際で踏みとどまりました。四月からひとまず競馬が続けられます。

 3日、岐阜県競馬組合の構成団体三者岐阜県笠松町岐南町)の協議が行われ、梶原岐阜県知事が、赤字は出さないという条件で一年間の“お試し”的な存続、を表明。今年度バタバタと「廃止」の相次ぐ地方競馬で、宇都宮、高崎と続いてきたドミノ倒しの流れを、ここで少しでもくい止められれば、です。

 とは言え、これは言わば「執行猶予」。一年間「廃止」の決定が延びただけのことで、決して安心してはいられません。再来年度以降の開催については、四月からの来年度の実績をもとに暮れあたりをメドに再度検討が必要とのことで、うかうかしていては来年の今頃、本当に待ったなしの「廃止」が宣言されていることでしょう。

 今回、改選による任期切れ直前まで「存廃」判断を留保して引っ張った梶原県知事は記者会見で、県は一応組合に残るものの、もう県主体ではなくて地元の町と現場とで実質経営したらいい、とまで明確に意思表示。現状では競馬開催の洗いざらしの骨組みだけとも言える「高知方式」も参考にしながらの、想定単年度赤字分の七億円ほど圧縮した緊縮予算、が最後の切り札でした。これを受けて、笠松町岐南町中心に民間資本も入れた主催者組織を再編成して、将来の公益法人化までもにらんだ実質「民営化」の競馬運営形態を早急につくりあげることへ向けて、現場は動き始めました。これから先の地方競馬、国やJRAの「援助」なしでも何とかやってゆけるような、言わば「独立地方競馬」のモデルケースになるような思い切った施策が期待されるところです。さらに、この8月スタートをメドに構築が始まっているライブドアの馬券ネット販売&中継システムに、すでに協議が進行中の高知と共に相乗りする計画や、また、遊んでいる旧型券売機を活用した移動式ミニ場外の実現、などなど、何とか売り上げを伸ばして再来年度以降の存続に全力を傾ける態勢が、遅ればせながらようやく見えてきました。そう、要は主催者側のやる気、です。

 もうダメ、と見られていた笠松がギリギリで存続を決められたのは、地元笠松町岐南町の町長ふたりが現場の厩舎関係者の熱心な働きかけに誠実に耳傾け、これまでの「お役所競馬」がどれだけ何もしてこなかったのか、について正しく理解して自ら腰を上げて動いたこと、ひとまずそれに尽きます。「執行猶予」の予算案には、県から派遣されている職員の引き上げも盛り込まれるなど、これまでほぼ手つかずだった主催者側もここは競馬存続のために「血を流す」姿勢を見せたものになっていて、ここは素直に評価したいところです。

 とは言うものの、同時に賞金その他もなおカット、と現場厩舎関係者にとってはさらに厳しい状況になっているのも事実。存廃に関わらず年度末で廃業予定の厩舎も複数あるようですし、騎手の一部にも、先行きを考えれば……という不安と悩みはあります。何より、昨秋来の「廃止」報道の余波で馬が入っていない。明け二歳馬などは五十頭ほどでこのままでは認定競走も組めない状況。ここはまず馬を集めないと、と、調教師以下、「執行猶予」内の再生に賭ける厩舎関係者はさっそく新年度の競馬に向けて動き始めました。これまでの「廃止」報道でおっかなびっくりだった馬主のみなさん、どうぞ笠松に馬を、です。

 それにつけても、もう昨年来、ハラワタ煮えくり返ってるので言わせてもらいますが、あの地方競馬全国協会っていったいなんなんでしょうか? 赤字でヒイヒイ言ってる地方競馬主催者からあがりをかすめとって成り立っている組織でいながら、幹部の理事連のほとんどは天下りで「存廃」沙汰も突き詰めれば他人事。笠松の存廃検討委員会にも某理事がひとり入っていましたが、議事録を見ても事実上何のつっかえ棒にもならず、この間、厩舎関係者以下、地元の人たちが必死の働きかけをしている間も前向きな支援をしてこなかった。まあ、これまで「廃止」の憂き目に会ってきたどこの競馬場に対しても同様の対応でしたから、いまさら嘆くにもあたらないですが、それにしても、です。競馬で行きようとまなじり決した現場の厩舎関係者の前で、彼らは恥ずかしくないのでしょうか。

 その一方、今度は大井が、預託料を一律10万円さげて欲しい、賞金も四月から減額する、と主催者が言い出していて、厩舎側は右往左往しています。また、周知の通り、福山も昨年来水面下でくすぶっていたアラブ補助馬をめぐる「不正」疑惑がこのタイミングでついに表に出て、さらに主催者の福山市が四月から賞金も大幅減を表明、これまた厩舎側が混乱しています。未だアラブ番組100%のおかげで、このところニッポン競馬を語る時にもまずなかったことにされている福山ですが、サラ導入、認定競走導入から外厩制までにらんだ再生のプランもありますし、福山市(思えば、もはや荒尾と並ぶ最後の「市営競馬」です)も向こう二年ほどは死に物狂いで再生を模索する、と言っているのですが、ここも現場の厩舎側のモティベーションの低下がやはり気がかりです。

 とは言え、そのような中、すでに契約締結に向けて動いている高知競馬と共に、笠松競馬もライブドアの新しいネット経由の馬券販売&中継その他のシステムに相乗りする方向が見えてきました。けれども、これ以上ライブドアの参入許すまじ、が本音の農水省競馬監督課周辺のエラい人たちは、「NRSを買いたい、あの使い勝手最悪でシェアもほとんどないに等しいD−NETを、何とか一緒に使えるようなものにしましょう、と提案したライブドアをほぼ門前払いのような形で追い払い、あまつさえ、年末には各競馬場の主催者にあてて、ライブドアの提案がきているかどうか調査書みたいなものまで回して情報収集する卑劣さは、ほんとにもうアホ丸出しです。地全協も地全協で、どうせウチは来年にはつぶされる組織ですから、とふてくされたような言い訳と共に、事実上何もしない、動かない、腰を上げない。

 地全協のホームページでのこの笠松「存続決定」報道の書き方、こんなんでしたが。あんたら人ごとでしょ、これ。

 「昨今の経済事情などから経営不振に陥り、競馬開催の存廃が取りざたされていた笠松競馬について、梶原拓岐阜知事と同競馬の副管理者でもある岐南笠松の両町長の3者が今後の方針について協議。赤字が発生しても税金を投入しないことなどを条件に05年度の事業を“存続”させることを発表した。」

 地方競馬にはまだやるべきこと、打つべき手が確実にある――そのことにもう一度、各主催者はもちろん、厩舎関係者もいまこんな状況だからこそ、思い至って欲しいと切実に思います。