「自己責任」の横断歩道

 これは首都圏だけのことかも知れないので、そのへんあらかじめお断りしておくのだが、最近、信号無視の歩行者が目につく。横断歩道を渡る時、赤信号でもクルマの流れが途切れていると、左右を見渡しスタスタスタ。時には横断歩道でない場所でも、まさに「自己責任」で車道を横切る御仁が結構いる。

 もうずいぶん昔、初めてアメリカに行った時、街なかで普通にそういう作法なのに驚いた。逆にクルマの方もていねいに歩行者の手前で止まっていたのも新鮮だったが、とにかく赤は止まれ、というルール大事で横並びにみんな律儀に待つわがニッポンの風景が当たり前でないことを思い知った。

 アメリカナイズされた、と嘆くつもりはない。と言って、称揚するつもりもない。まず危ないし、子供が真似したらどうする、といった懸念もある。ただ、渡れば渡れるのになあ、と思っても、これまでは自分ひとりルールを破ることへの敷居の高さみたいなものがあった。まわりの視線を意識もした。そういう歯止めが低くなってきたらしいことを、まず眼前の事実として素朴に感じる。

 そう言えば、駅や電車の中で抱き合うカップルや、平然と化粧を直す同胞が増えてきたのもすでに周知だ。しかし、その身振りがだらしない、みっともないと感じてしまうのは、単に感覚の違いだけでもないように思う。「自己責任」が本当にサマになる、身につくまでには、また別の条件が必要らしい。