内閣より官邸、だろうが!

 安倍内閣が発足したようです。

 あ、いや、しょせん蛆虫の分際で政治がどうのと能書き言うつもりはありませぬ。巷間言われているような床屋政談、いまやネットも含めた隣近所でああだこうだと取り沙汰される永田町だの霞ヶ関だの、いずれ遠い世界のあれやこれやなどは、新聞雑誌に週刊誌、ワイドショーに討論エンタの類を介して拡散、歪曲、増幅、簡略化さえされた情報ってやつのモザイク状で、日夜こちとらが好き勝手言うネタのひとつになっている、まあ、そんなもの、なわけであります。

 政治は芸能である――これは民俗学者として(笑)かねがね譲れないところだったりするんですが、今やその芸能としての側面がこれまでにないくらいにはっきりくっきりとわれら「その他おおぜい」の目の前に立ち現れてきた。小泉以前と以降の間に横たわっている違いがいくつかあるとしたら、その中でもこの点は結構大きいと思っています。

 ポピュリズムだの大衆迎合だのとぬかす手合いもいますが、しゃらくせえ、それこそがデモクラシー、いまどきの情報環境における民主主義の実現ってやつじゃないんですかね、とまぜっかえしてやればいいだけのこと。その程度にあたしゃ、小泉支持、いや、正確に言えば小泉がうっかり引きずり出してしまった政治と世間の関係をめぐるこのところの〈リアル〉の側に立つことを選ぶ者、ではありました。

 で、安倍であります。

 正直、どうかなあ、というところは、あります。小泉みたいに「変人」度が高いわけでもないし、去年の郵政民営化騒動の時のように、それこそ着流し着てダンビラさげたようなオヤジ譲りの喧嘩腰ができるわけでもない。同じ二世、三世と言っても、しょせん安倍晋太郎のボンボンなわけで、そのへんは横須賀の地廻りみたいな家で育って慶応ボーイ、政治家なんてなる気もなくてそれこそ今のスーフリみたいに遊び回ってた小泉とは、やっぱり出自も器も違うってもの。バッジつけての年期も小泉の半分以下、比べちゃ気の毒ってもんではありますよ。なのに、メディアはもとより、世間の大方は何となく期待してる、というか、安心しているところがある。それがあたしにゃちみっとコワい。

 字ヅラの政策スタンス、思想信条の構え方は、そりゃあ小泉以来の路線なのは間違いないにせよ、それを支える生身の部分、個人の肉体という意味よりもなんというかなあ、そう、総理大臣を中心とした「権力」の、その身体性みたいな部分が、どうもいまひとつまだよく見えてこない、そのへんの「どうかなあ」なのであります。

 芸能、もっと言えば見世物ないしはエンターテインメントとしての側面がはっきりあらわになった政治の現状からすれば、この「権力」の身体性の部分ってのは結構バカにならない。キャラとか芸とか、コクとか味とか、何にせよそういうあやしげなもの言いでしか表現しようのない部分、それが今の情報環境では案外うっかりと増幅され、そしてまた受容するこちとらの側でも知らず知らずの間にくっきりと受信しちまってるところがあったりする。

 お約束の組閣の儀式と呼び込みなどが行われているのをテレビで流しているのを眺めながら、ああ、高市が入閣しやがったなあ、あら、冬柴がちゃっかり内閣に、なんてことを思いながら、マスコミ連中、少し前に安倍が「官邸主導の政権にする」みたいなことを言ってたのを忘れてんのかな? と、ふと訝りました。どの派閥の誰がどの大臣、どのポストにつくのか、というお約束の文法にだけ忠実で、そんなことより肝心の首相官邸の陣容はどうよ、というあたりが、あたしでも気になったりしたんですが、どうなんでしょうか。

 大臣なんざ、未だ派閥にしがみついてる連中のアタマなでとく意味で、論功行賞、派閥均衡でもいい、それより自分のまわり、官邸周辺にきっちりそんな派閥の思惑や、その思惑しか見えていない旧タイプの官僚たちの鼻面引き回せるメンツを揃えておけば、というのは、安倍タンのハラの中についてのあたしの勝手な憶測、または妄想、なんですが。いかがでしょうか、こんな面々なんですがねえ。

 

http://www.kantei.go.jp/jp/abedaijin/060926/index.html

内閣官房副長官 下村 博文 (しもむら はくぶん) 衆院       

内閣官房副長官 鈴木 政二 (すずき せいじ) 参院  

内閣官房副長官 的場 順三 (まとば じゅんぞう)    

内閣法制局長官 宮 礼壹 (みやざき れいいち)    

内閣総理大臣補佐官

(国家安全保障問題担当) 小池 百合子 (こいけ ゆりこ) 衆院       

内閣総理大臣補佐官

(経済財政担当) 根本 匠 (ねもと たくみ) 衆院  

内閣総理大臣補佐官

拉致問題担当) 中山 恭子 (なかやま きょうこ)    

内閣総理大臣補佐官

教育再生担当) 山谷 えり子 (やまたに えりこ) 参院  

内閣総理大臣補佐官

(広報担当) 世耕 弘成 (せこう ひろしげ) 参院  

●編集後記

 「朝鮮日報」の方が敏感なんでしょうか。安倍内閣についての論評では、あちらのタームを援用した「386世代」(盧武鉉政権を支えた、と言われる60年代生まれ)の内閣というくくり方で、世耕などを取り上げて叩き始めてるようです。「日本のゲッベルス」ですと(笑)。えらくまた買いかぶられたもんですが、でも、眼のつけどころは案外悪くないかも。

http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/09/26/20060926000027.html

 

 そう言えば、この夏、仕事部屋整理していたら、NTT時代の世耕の名刺が出てきました。どこかで行きあってたってことでしょうけど……記憶にないなあ。先日、某記者会見場で見かけた時は、ほんとにいや~な権力系水饅頭型でぶになってましたが。