ホッカイドウ競馬から始まる「改革」

 「大本営発表」という古くさいもの言いを思い出しました。いや、こと競馬のまわりに関して言えば、これは別に今に始まったことでもないんですが、それにしても今回の地方共同法人への「移行」にまつわる「報道」は、ほんとに笑ってしまうくらいに「大本営発表」、つまり農水省競馬監督課のプレスリリースそのまま、という代物ばかり。我が国マスコミ、ジャーナリズムの「記者クラブ」制度に代表されるこのような体質は夙に指摘されてきていますが、政治や経済といった硬派の分野よりも、むしろスポーツや芸能、娯楽といった軟派系の方にむしろそのような「統制」「不自由」はがんじがらめになっているに思えます。

 そんな中、少しでも前向きなニュースもないではない。たとえば、馬産地ホッカイドウ競馬が新たな経営形態へと移行する、その枠組みがこのたび、ようやく形になってきたようです。これは非常に喜ばしいことで、全力で応援したいと思います。

 なにせ、累積赤字の額は全国ダントツ横綱格の岩手に次ぐ、まさに大関格。馬産地競馬を標榜しながら、地元馬産地では未だに「地方競馬なんか…」と軽侮する風潮が拭いきれず、何より軽種馬農協など、本来それらの風潮を糺してゆくべき立場のエラいさんたちからして、まるでそこらの評論家並みの他人事ばかり。認定競走百レース以上、日本一早い二歳新馬戦を売り物にし、馬主の半分以上が牧場関係。スタリオンシリーズやサポーターズなど全国に先駈けた企画も試みてきていますが、経営状態に大きな改善が見られぬまま推移してきました。そもそも北海道庁がかんでいる限り抜本的な改革ができないのは、他の競馬場同様、今の地方競馬の構造的欠陥。前々から言われていたその弊害に対する改革が、やっと一歩前へ、になってきました。

 人件費以下、開催経費の抜本的な圧縮はまず急務。次に、JRA頼りではない、馬産地も馬主も厩舎関係者も本当に共にテーブルについて知恵を出し合い、共に汗をかく「自分たちの手づくり」の競馬を目指すことです。他では絶対に見ることのできない、ホッカイドウ競馬ならではの番組で馬をやる。「えっ、ここまでやるの?」と道庁以下、これまでの「お役所競馬」体質にどっぷり漬かった面々が眼をむくくらいの「非常識」をとにかくバンバンやってゆく。それくらいの「無茶」をやらないことにはこの先、もうどうしようもないことくらいは、当の主催者周辺は百もご存じのはずで、何より、現役のトップクラスの騎手でさえ周辺の育成牧場にさらに流出しかねないような現状は、「馬産地ホッカイドウ競馬でさえも……」と他の競馬場の士気を低下させてゆく大きな悪影響を与えています。

 何より、声を大にして言いたいのは、このホッカイドウ競馬の「改革」(事実上の「民営化」路線)は、その他の競馬場にとっても、今後の新体制下の手本になるべきものだ、ということです。この種の「改革」はばんえい競馬が先駆けて少しやってきているものの、やはり平地の競馬の主催者連にとっては「あれは別だから…」と傍観気分がほとんど。それが証拠に、まだ問題は山積とは言え、「民営化」一年目から赤字をほぼ解消したばんえい十勝は帯広の現場に、全国の他の主催者が視察や勉強に訪れたといった話は、なぜか聞こえてきていません。それほどまでに、地方競馬の主催者というのは、互いに何をやっているのか、何をどう工夫して仕事しているのかについて無関心なまま、ただ「お上」のご意向だけを伺う性癖ばかりが身についている。これでは、どんなに頑張ったところで自分の足もとを支えるのがせいいっぱい、ニッポン競馬の現状を大所高所から俯瞰しつつ、向こう数十年の目算を立ててゆく、といった器量の大きさは、薬にしたくとも現場からは出てこない。いきおい、農水省以下、東京の競馬エスタブリッシュメントに思うがまま情報操作され、あれもできない、これもだめ、とあらかじめあきられきっているばかり。JRAの競馬とて、本当に魅力あるものになっているかどうかははなはだあやしい現在、「最も遅れた部分が最も先行できる」という心意気で「改革」に邁進することが、単にホッカイドウ競馬のみならず、全国の地方競馬のためにも必要だということを肝に銘じておいていただきたい。

 折から、先日の小倉大賞典では十歳セン馬のアサカディフィートがトップハンデを背負いながら優勝、以下もクビクビクビなど僅差の入線と、ひさしぶりに世界に冠たるJRAハンデキャッパーのウデを見せつけてもらったなかなか見応えのあるレースでしたが、以前に比べてJRAでもこれら高齢馬の活躍が当たり前になってきた昨今、環境は異なれど、地方競馬でもこれら高齢馬も含めた馬資源の活用について、自分たちのノウハウをもっとアピールしていいのではないでしょうか。競馬場によっては戦歴200戦を越えた現役馬も珍しくない。野球のマスターズシリーズのように、それら高齢馬資源を活用する番組の工夫などについても、各主催者間で情報交換するなど、まだまだやるべきことはたくさんあると思います。