1995-06-01から1ヶ月間の記事一覧

漫画研究、この難儀な現在

研究であれ批評であれ、この国の漫画について内側からつぶさに言葉にしようとする意志にとって、少なくともここ二十年足らずの経緯を考えた場合、いやでも認識せざる得ない大きな転換がある。それは、現実に流通する漫画の「量」が個人で網羅し、読み尽くせ…

書評・井上章一『狂気と王権』(紀伊國屋書店)

まず著者に一言。もっとしっかり胸張りなって。 「本文中に引用した文献類でも、私自身が発掘したものは、そんなに多くない。たいていの資料は、すでに誰かが先に紹介してしまっている。私の本は、セコハンのデータをかきあつめた、やや概説的なしあがりとな…

週刊読書人

徳川夢声

*1 「ムセイ老」と呼ばれていた。まだ若い頃からだ。 「老」と呼ばれてしまうようなタチの奴が、たとえば学校の同級生といった広がりに、必ずひとりいる。ジジむさい、というわけでもないのだけれども、何か達観したような、その程度にはもののわかったよう…

花森安治

*1 神戸にはどうやら、奇妙なたおやめぶりの伝統がある。 稲垣足穂、今東光に淀川長治。少し下って手塚治虫に野坂昭如、さらに筒井康隆。世代は異なるとは言え、みんなどこかでおのが身にまつわるジェンダーを越境してゆくような表現の資質を持ってやしない…

中沢新一への手紙

前略、中沢新一様。 ごぶさたしています。その後いかがお過ごしでしょうか。 ある編集者を介して会いたいと言われて、湯島の何やら由緒ありげなすきやき屋でお会いして以来ですから、もう三年くらいたちますか。 あの時僕は、連れてゆかれたその店の、大層な…

その後の本間茂騎手

*1 もう六年前のことになる。スポーツ紙の一面はもちろん、一般紙の社会面にまで「地方競馬で八百長疑惑!」という見出しが躍った。当時川崎競馬に所属していた騎手が「八百長」の疑いで警察に逮捕されたというものだった。 しかし「八百長」だったと報道さ…

「ムラによって違う」の底力――赤松啓介vs.上野千鶴子『猥談』刊行に寄せて

「そらあんた、ムラによっていろいろ違いがありますわぁ」 こちらのつたない問いかけに対して、実に人のいい顔をしてにっこり笑いながらつるりと頭をなでる、そのしぐさがいつも眼の底に深く焼きついた。 「呵々大笑」というもの言いにそのまま実体を与えた…

西日本新聞

解説・赤松啓介×上野千鶴子『猥談』

猥談―近代日本の下半身作者:啓介, 赤松,千鶴子, 上野現代書館Amazon● いやあ、長かった。 やろう、ということになってからなんと五年。別にサボっていたわけではないことは、 版元である現代書館と担当編集者の村井三夫氏の名誉のために言っておきたい。結構…

赤松啓介×上野千鶴子『猥談』解説