「大学改革」の独走・文部官僚の強硬

 官僚の本音がうまく伝わってこないのはいつものことだが、こと最近の大学改革についての文部省および文部官僚たちの異様な強硬策は、大学関係者の間にじわじわと恐慌状態をもたらしているようだ。

 首都圏郊外に学園都市を構える某国立大学では、私立大学の非常勤講師を無届けでやっていた教官を処分したという。また、その他の研究機関でも、事務職と同じ八時三十分から五時までの定時勤務を研究職である教官にも徹底させるよう指示し、出勤簿の捺印が本人の手で行われているかどうか、いちいち確認するところまで現われているとか。

 大学の非常勤講師は正当な報酬を保証された仕事というよりは、むしろ同業者同士の助け合いみたいなもので、そのような事情がわかるからこそ公務員兼業届けに記載できる限度を超えてもなお水面下で協力しなければならなくもなるのだが、それらを全て四角四面に取り締まってゆけば日常の講義運営から即座に麻痺する大学が続出する。また、研究職に事務職並みの勤務状態を要求することについても、実験がつきものの理科系の研究室はどうする、とか、野外調査の場合はどうか、など、処理すべき具体的疑問は山積する。

 大枠として言えるのは、これまで「学者」や「研究者」という名の下に自明のものとして与えられていた権利に、文部省自らメスを入れ始めたということだろう。確かに、その権利に隠れてカネ儲けのために予備校で教えたり、あるいはロクな業績もない教官がのうのうと定年まで暮らせたり、といった弊害が日本の大学を腐らせてきたことを思えば、それは間違いなく必要な作業だ。だが、「このままではいけない」という焦躁感にのみ後押しされた性急な改革気分の独走は、他でもない文部省自身が研究職を信頼していないことを暴露し、ひいては学術研究そのものを軽んじる風潮にもつながらないだろうか。(翼)