ドイツの「言葉狩り」、裏返しのファシズム

 一四日付の本紙朝刊の一面に、実にいやな記事が載っていた。

 冒頭の部分を引用しよう。「ドイツ連邦政府は一三日、第二次大戦中にヒトラー・ドイツが犯したユダヤ人の虐殺を歴史的事実として認めない発言があれば、その発言だけで懲役三年以下の犯罪になる――とした法改正案を来週の連邦議会に提出することを明らかにした。」

 記事によれば、ネオナチのリーダーたちが最近、大戦中のユダヤ人虐殺は連合軍やソ連軍、ユダヤ人などによるでっち上げとの発言を繰り返している状況が背景にあり、議会で承認される可能性が高いとのことだったが、ドイツの国内事情の本当のところをよく知らない身にしてみれば、できれば他紙も含めた複数の視点からの報道が欲しいところだ。

 とは言え、素直に読む限り、なんともいやな時代になってきたものだ、とため息が出る。歴史的事実を歪曲して公的に語る、そのことの責任は社会的立場に応じて負わねばならないが、それを犯罪として裁断することの是非はまた別である。この論法でゆけば、先に辞任した永野元法相などは立派な犯罪者。彼の「南京大虐殺でっち上げ」発言が閣僚としての立場をわきまえない稚拙なものだったことは論じるまでもないが、だからといって、そのように思う個人の内面を制御する良識の育成に努力せずいきなり法律という枠組みで処理する暴挙は、それこそ裏返しのファシズムに他ならない。ドイツはここまでやっている、それに比べて我が国は――という良識ぶった「言葉狩り」がまた助長されねばいいのだが。

 なお、四月二一日付本欄の記事中、「古めかしい正義漢(ママ)」と記して『噂の真相』誌「編集長日誌」欄の「誤植」とした個所は、当方の思い違いでした。おわびして訂正いたします。(鳳)