JDD、オリオンザサンクスの逃げ切り劇

 「腕がパンパンになっちゃいました」

 レース後、テレビのインタヴューに応えてこう言ったのは早田の秀ちゃん。いかにも鼻っ柱の強そうな、アナウンサーの無味乾燥な問いかけにせっかちに応じる姿が、いまどきの中央の若いノリヤクにはあまり見られなくなったむき出しの「勝負師」の感じで、なんともふさわしい。「かったるいこといちいち聞いてんじゃねえよ、この」とはさすがに言わないけれども、とにかく「勝った」というそのことに全身青光りするようなたたずまいにはしびれました。

 オリオンザサンクス。今年から新設された交流GⅠジャパンダートダービー10ハロンを豪快に逃げ切ってのひと幕です。

 もともと南関東の四歳クラシック(と言っていいのかどうか)路線というのは、羽田盃東京ダービー東京王冠賞の三つ。それぞれがまあ、なんとなく皐月賞、ダービー、菊花賞に対応してると考えてもらっていいようなもんでした。それが、ここ数年でやたらめったら番組が変えられちまって、なんとまあ、菊花賞にあたる東京王冠賞までを春先にかためてやっちまった後、さらに中央も含めた全国の四歳馬でダート競馬の日本一を競おう、という趣旨でこのジャパンダートダービーが設けられるようになったという次第。いや、総論は大賛成です。高いレベルのダート競馬が拝めるのはほんとにありがたい。

 中央勢では、ダービーでは惨敗したものの、いかにもダートを走らせたら唸って飛んで来そうだったユキノローズの仔ブルーコマンダーが登録していたので楽しみにしていたんですが、あらら、なぜか補欠に回されちまってがっかり。そりゃあ、アドマイヤベガだのナリタトップロードだの、芝のクラシック路線でガンガン走るような馬はわざわざ来ないけれども、でもこれから先、賞金だって気合い入れて高めにしていることだし、地方の他地区はもちろん、中央にだって適性見越した使い方をしてくる馬主や調教師だってもっと出てくるはず。それに、南関東はマル外の制限ないもんね。これだけ外国産馬が多くなってるんだから、その中からアメリカ血統の馬力型でもぶつけてくれば面白いんじゃないかなあ。実際、大井あたりにもマル外はちらほら走っているわけだし。

 とは言うものの、今年の第一回はひとまず完全に二冠馬オリオンザサンクスの独壇場でした。中央の馬や他地区の遠征馬には慣れないナイター競馬というハンデがあったにしても、そのまさに自分の庭という走りっぷりの前には全くお手上げ状態。何の迷いもなくハナ切って逃げて、向こう正面ではなんと十数馬身も後続をちぎってしまうありさまです。ほとんどサイレンススズカ並みであります。大井にしては信じられないほどたくさんつめかけていたおそらくふだんは中央通いのろくでなしたち(本誌中村氏も「おまえらふだんは来ないくせに」と嫌味言ってましたが)は、みんな口をあんぐりあけて眺めてました。「暴走じゃないの、あれ」「あんな逃げ方してもつのかよ」いやいや、大井のナイター競馬って得てしてこういう競馬になるんですよ。まあ、スタンド前の慣れない歓声にびっくりしたのか、一コーナーあたりからひっかかって三コーナー手前くらいまで鞍上秀ちゃんはおさえるのに苦労していた、それが冒頭の「腕がパンパン」のコメントになったのだけれど、四コーナー回ってもその勢いは衰えず、最後の直線でようやくそれまで離された二番手に食いついていた石崎のオペラハットが猛然と差を詰めてきたものの、それでも差し切られるまではバテずにめでたくゴール。「ひっかかったし、時計的にも不満だし」と秀ちゃんは完璧な「勝ち」じゃなかったのがいささか気に入らなかったようですが、でも、前走東京ダービーと全く同じ、まずは見事な逃げ切りではありました。金沢からの遠征馬ハイテンションパルの走りっぷりも楽しみにしていたのですが、やはりいきなりのナイター、初コースは不利だったようです。


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 宝塚記念の方は、うーん、やっぱり一騎討ちでしたねえ。グラスワンダー、今度は本物の走りを見せてくれました。夏負けだなんだをはねとばしての勝利には脱帽です。スペシャルウィーク武豊は、ただ「勝つ」だけじゃなく、横綱相撲で勝ちたかったんでしょうねえ。あの乗り方でも勝てると踏んだ、自分の馬の「強さ」への信頼がひしひしと感じられましたもの。負けっぷりもいかにも武豊、という印象でした。

 ステイゴールドはまたも三着。でも、前の二頭からは七馬身も離されてのものですから、これはもうどうしようもありませんな。キングヘイローはおそらくあれがベストという競馬をしての力負け。というか、やはり本質的に千八くらいまでの馬ということを改めて確認しました。さあ、来週からは夏競馬、いよいよ本番です。