とにかく、新書ラッシュであります。このオーバーヒートは近い将来、ミソもクソも一緒くたの新書市場大崩壊を招くでありましょう。具体的には、目先の関心を拾ってゆくような、言わば雑誌の特集記事の水増し解説版として読み捨てられるばかりで、書物という鈍重なメディアの蓄積に寄与できないまま表層を忘れ去られてゆく、と。これ、ひとまずあたしの予言ね。ただ、敢えてネガティヴな点だけでなくポジティヴなところも言っておけば、甲殻類のような知的言語の文体がぐっとくだけた話し言葉に近くなってきたこと。早い話、誰もに読みやすい文章でないとインテリもやってられなくなったってことで、それはひとまず慶賀すべきことだと思う。
で、橋爪大三郎の出番となる、と。社会学者の肩書なれど政策的提言と身のこなしは古典的な大学人(今や「バカ」の異名だが)よりもむしろ、官僚ブレインなどに近い。語り口も穏健で冷静、かつ常識的。ここでは草の根民主主義こそが民主主義の基本、と今どきなお恥ずかしげもなくアジりまくる。と言って、このシトだからありがちなバカ市民主義には堕さないのね。「いい大人が大勢集まって、治安のこと、教育のこと、道路や水道や電気のこと、雇用や産業のこと、軍事や外交のことを、まじめに議論しあう。そして実際に、政府や社会制度をつくりあげてしまう」ことを生真面目に考え、具体的な方法まで丁寧に示唆するのであります。
大文字のもの言いの役立たずさがいまどきの文科系不信の根源だとしたら、その大文字に実践という背骨を叩き込もうとするシトなのは間違いない。これをこのままテキストにして選挙に出馬するのが出てくるのもあたし的にはいやん、だが、でも、読みようによっちゃこれ、プロレタリアート……じゃなかった「公衆」独裁論にもつながるフシもあるから、そのヤバさに免じて眼をつぶろう。そう、ヤバいのよ、橋爪センセって。だって他でもない、あの小室直樹の愛弟子、だったんだもんねえ。
加瀬邦彦『ビートルズのおかげです――ザ・ワイルドワンズ風雲録』(エイ出版社)
ワイルドワンズったって、いまどきピンとくるのは四十代後半以上だろうが、かつてのグループサウンズブームを、その渦中にいたひとり加瀬邦彦がゆったりと回想する一冊。
なにせ幼稚舎からの慶応ボーイ、学生バンドからスパイダースに、そして寺内タケシとブルージーンズへと移籍したが、「ビートルズを客席から見たい」という理由で脱退、ビートルズを意識して結成した新しいバンドがワイルドワンズだった。ギターでコード主体という我流の作曲ぶりに、音大で正規の音楽教育を受けてきた当時売れっ子の作曲家宮川泰が眼をむいたこと、弦にライトゲージのあることが理解できずにチョーキングのために指の筋トレまでやった話、……とにかく「洋楽」に触れることが、まだひとにぎりのサブカルエリートたちの特権だった頃の「いい話」が満載。組み立てはいささかゆるいけれども、高度経済成長期の情報環境を地道に考える際の、貴重な民俗資料になるはずだ。