座談会「女性がつくった男性商品」


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●深窓の令嬢から一転<ヌードグラビア担当!?
大月 本日の司会を務めます、大月です。まずはみなさんに簡単な自己紹介をしていただきましょうか。
江部 キリンビールの江部です。ビールと発泡酒の新商品を開発しています。最近では、夏季限定の発泡酒「常夏」と、冬季限定の「白麒麟」の商品開発を担当しております。
中居 帝人の中居です。帝人の素材を活かしたヘルスケア製品を開発、製品化していくグループにおります。今、私が担当しているのは「ウェルドライ」という軽失禁用のパンツ、ショーツです。
山形 徳間書店の山形です。「週刊アサヒ芸能」、「月刊アサヒ芸能」、「増刊アサヒ芸能」の編集をしています。
小野粼 マンダムの小野粼です。未参入の市場に対する新テーマの企画と、既存品をどう改良していこうかというリサーチを中心にやっています。例えば脂とりフィルムや、カラーリング商品のリサーチなどを担当しています。
大月 それではお一方づつ、もう少し詳しくお話を伺っていきましょうか。まずは一般の女性が手に取る機会はほとんどないと思われる「アサヒ芸能」の山形さん。山形さんは今、どのページを担当してらっしゃるんですか。
山形 ちょっと恥ずかしいんですが。
大月 これ、女性ばっかりのところで開けてもいいのかな(笑)。
山形 えーと、ここまでは開いても大丈夫ですね(笑)。
大月 担当されているのは、女の子を脱がすグラビアのページですか。
山形 そうですね。
大月 山形さんはそもそもどうして出版社に入ったんですか?
山形 実は私、門限が9時という、まるで深窓の令嬢のような育ち方をしていたんです(笑)。それが嫌で、「門限を遅くするには仕事で遅くなるしかない。となると、これはもうマスコミに就職するしかない」という不純な動機で入ったんです。
大月 それが何の因果かヌードページの担当になってしまった?
山形 何の因果かというよりも、私は面接の時から「『アサヒ芸能』をやりたい」と言っていたんです。
大月 深窓の令嬢が「アサヒ芸能」ですか(笑)。当時は女性社員はほとんどいなかったんじゃないですか。
山形 先輩が2人ほどいましたが、女性でヌード担当になったのは、私が最初かもしれないですね。
大月 今担当されている3誌は、コンビニ、駅の売店、書店、どこで一番売れるんですか。
山形 「アサヒ芸能」の場合は駅売りが結構多いのですが、それ以外はコンビニが多いですね。
大月 そうか。いまや書店自体が毎年、何百店、何千店単位でつぶれてるもんな。
山形 「アサヒ芸能」は、以前は「出張の友」と言われた雑誌で……。
大月 わかるわかる。みんなビールと一緒に買うんだよ(笑)。
山形 要するに、東京駅で買って読んで、大阪で捨ててという雑誌なんです。でも、作っている側としては非常に情報面などもしっかりしているので、おうちにぜひファイルしてほしいと思っています。
大月 でも、「アサヒ芸能」を定期購読してファイリングする家庭って、聞いたことがないな(笑)。
山形 残念ながら、私も聞いたことがありません(笑)。
大月 マンダムの小野粼さんは、もともと化粧品業界に進もうと思っていたんですか。
小野崎 はい。とは言っても、メークやコスメ寄りではなくて、スタイリングフォームなどの生活に密着した商品を扱いたかったんです。
大月 じゃあ、おおむね今は希望通りのお仕事をされているわけですね。江部さんはどうしてキリンビールを選んだんですか?
江部 父がすごくキリンビールを飲んでいたし、自分自身もキリンビールを飲んでいた。社内には結構そういう動機で入った人がいますよ。
大月 本当にみんな入社前からキリンビールだけですか(笑)? まあ、江部さんの場合、今日は広報の方がお目付け役で来ているから、迂闊なことは言えないか。
江部 そんなことはありません。本当です(笑)。

●女性向けと男性向けはどこがどう違うの?
大月 マンダムの脂とりフィルムは、よく京都なんかで売っている女性用の脂とり紙とは違うわけですか。
小野粼 違いますね。こちらはフィルムタイプで強力なんです。それから、使った後、脂が取れたのがはっきりわかるように、フィルムに青い色をつけています。
大月 そうか、オヤジには「あ、こんなにとれた!」というのをわざわざ見せないといけないわけか。
小野粼 男性用は、使用感、即効性が目に見える商品でないと、なかなかリピートに結びつかないんですよ。
大月 そういうことは日々のリサーチからわかってくることなんですね。
でも、ビールはどうなんだろう? 女の人が平気で酒を飲むようになったのは、ここ20年ぐらいの話だけど、もともとビールは男性をターゲットにしていた業界ですよね。
江部 そうですね。私もだいぶ前に、飛行機の中でビールを飲んでいたら、隣の外国人に「何で女なのにビール飲むんだ!」と言われました(笑)。カクテルやワインに比べると、ビールや発泡酒には、男性的なイメージがあるというのは事実ですね。
大月 じゃあ、性別による違いで男心をくすぐるってことはあるの?
江部 それがあまりないんです。飲む量でいうと圧倒的に男性の方が多いんですが、飲み方とか味の好みは、実は男性に聞いても女性に聞いてもほとんど一緒なんです。だからあまり「男性向けの商品だ」という意識では作っていないんです。
大月 なるほど、好きな人は男女に関係なく好きだということですね。
江部 ただ、逆におもしろいのは、ビールや発泡酒で過度に女性的なイメージの商品を作っても、実際には男性はもちろん、女性ですら魅力を感じられない商品になってしまったりすることですね。
大月 例えばの話、女性限定ビールなんて飲みたくない、と。
江部 女性の側も男性的なイメージをビールに求めているフシがあるんです。それともう一つ、商品開発で重要になってくるのは、発泡酒は奥様がスーパーで購入されるケースが多いということなんです。実は今、世の中には、「僕はビールが飲みたいんだけど、奥さんが発泡酒しか買ってくれないんだよ」と嘆く男性が増えている(笑)。そういう中で、女性が手にとりやすいという面と、男性であっても、女性であっても、飲みたいと思われるイメージとのバランスはいつも考えます。
大月 そうか、たばこだとメンソールみたいに、女性が好む銘柄がつくられるけれど、ビールの場合はなかなかそう一筋縄ではいかないわけか。
江部 一部ではそういう商品も出ていますが、完全な女性向け商品を自分が飲みたいかというと、あまり飲みたくないなと思っちゃいますね。
大月 ウェルドライは、最初、女性向きに出したんですよね。どうして男性用も出そうということになったんですか。
中居 他社さんではすでに出していたのですが、あまりにも「介護用品」のイメージが強すぎて、日常に履けるような物ではなかったんです。ところが男性にも軽い尿漏れはある。ぜひ男性用でいいものを作ってほしいという声が取引先からも出まして。
大月 どうでもいいことだけど、その「軽い尿漏れ」ってコピーは帝人のオリジナルなんですか? 言わんとするところはわかるんだけど、なんかドキッとするんだよね(笑)。
中居 そのコピーはウチのオリジナルではないですね。
大月 そうですか。で、その女性用と男性用の違いってなんですか。
中居 男性の場合は、失禁ではなく、どちらかというと残尿のある方を中心として考えています。
大月 なるほど、男性の場合、女性より尿道が長いですからねえ。
中居 ええ。それに今は、ご友人同士でゴルフに行かれたりとか、温泉に旅行されたりとか、いろいろ肌着になるシーンが多くなってきているんです。そういったときにでも、平気で履いていけるような商品を提供できればいいなと思っております。
大月 要するに、家でしか見せないものだったのが、そうじゃない局面が増えてきた、と。これはどのぐらいの世代をターゲットとして考えているんですか。
中居 今、前立腺の肥大が早い方では40代ぐらいから始まるということなので、60代、70代はもちろん、若い方でもはいていただけるように考えて作っています。
大月 苦労されたのはどこですか。
中居 見た目を普通のトランクスと変わらないようにすることですね。男性は、こういった物をはくと「オレはもう年寄りなんだ」と、ものすごく年をとってしまったように感じてしまうそうなんです。
大月 あ、気分的に老け込んじゃう。
中居 ええ。だからできるだけ自然に履ける、まだまだ老け込まなくても大丈夫ですよというメッセージをこめて作ったんです。
大月 この前開きは使えるんですか。
中居 見せかけですね。
大月 だったら、なぜつけた(笑)。
中居 「どんなパンツを履いているの?」と聞きまわった結果です(笑)。色はどうだとか、実際にパンツの前開きを使っているか、必要なのか不要なのかを聞いて回ったんです。
大月 業界的にも、そういう調査ってそれまでになかったんですね?
中居 ええ。実際は年配の方のほうが前の開きは使っていて、若い方になればなるほど使わないようです。ところがおしゃれ系のショーツには絶対使えそうもない場所についている開きや、細かいボタンがたくさん並んでついていて「いちいち開けないでしょ」なんて思うような開きが結構あるんですよ。
大月 いちいち閉めないのかもしれないけどね(笑)。でもまあ、この装飾機能をつけたほうが自然だということになったんですね。ちょっと商品を広げて見せてもらえますか。
中居 恥ずかしいな(笑)。
大月 あ、やっぱり恥ずかしいんだ。できればあまり、そういう物を扱っていると人には言いたくない?
中居 仕事では平気な顔をして営業に回ったりしますが、本当はちょっと嫌です(笑)。

●開発者の男性観。「男はかわいい」
大月 「アサヒ芸能」の山形さんは、これはもう恥ずかしいなんてことは言っていられない仕事ですね。
山形 仕事の上で恥ずかしいという言葉はもうほとんど死語ですね(笑)。編集部内の会話は、普通の人が聞いたら完全にセクシャルハラスメントだと思うでしょうね。
大月 わははは。それが山形さんにとっては、もう日常だ、と。
山形 ただ、外出先で携帯電話が鳴ったときは困る。やはり少しは人並みの羞恥心が残っているのかも(笑)。
大月 人ごみでは、あたりをはばかるような会話になるわけだ(笑)。
山形 だからその場では、「ふんふん」と相手の話を聞くだけにして、後で周りに人気のないところでかけ直したりしています。
大月 やっぱり女性の裸を載せるといまだに売れますか。「週刊ポスト」や「週刊現代」なんかはもうあまり変わらないという話を聞きますが。 山形 今、過渡期だと思うんです。「アサヒ芸能」のメインターゲットは35歳の男性なんですが、今の若い世代は「裸をどうぞ」と言われても逆に引いてしまうみたいですね。ただ、「アサヒ芸能」は1年間裸を封印した時期があったのですが、そのときは確実に部数が減ってしまいました(笑)。
大月 わかりやすいなあ(笑)。
山形 そういうこともあったので、やっぱり裸は載せますね。
大月 この仕事をしていて男性観が変わったと思いますか。
山形 男の人は、かわいい部分がいっぱいあるなという気はします。
大月 例えばどんなときに?
山形 撮影現場では、女性を美しく撮るための細かい技があるんです。なかには女性の体に触ったりする技もあるんですが、我々は女性同士だから平気で触れる。でも、逆にその場にいる男性編集者のほうが照れてしまうんですよ。
大月 周囲の人に、こういう仕事をしていることはうまく伝わりますか。
山形 男の子のお友達は風俗情報を聞けると喜びますし、女の子のお友達も、今は裸に対しての偏見がすごく少なくなっています。ただ、問題は親ですね。うちの母は電車で「アサヒ芸能」の中吊り広告を見つけても、娘がどんなことをやっているのかは知りたがらないから、見ないようにしていると言います。
大月 裸のグラビアが載っているほかの雑誌をみて、男がつくった誌面は違うと思いますか。
山形 裸に対しての優しさがない。例えば私はモデルさんの腰にパンツの跡があったりすると、私は編集作業できれいに消してあげる。でも男の人たちはそこまで神経が行かないみたいで、平気で載せてしまう。
大月 ああ、男はむしろ「今脱いだばっかりっていう感じがいい」なんて言ったりするんだよね。
山形 そう言う人はいますね。だから、たまには出して差し上げるんですけど(笑)。
大月 もう、完全に男の心理は読まれているな(笑)。小野粼さんは男性をどんな目で見ていますか。
小野粼 男性と女性って本当に違うんですよね。例えば、これは顔と体に使うクリームですが、女性はしっとり、こってり系のクリームを好む傾向があるのに対して、男性は本当にべたつきを嫌がるんです。
大月 逆なんだ。
小野粼 ええ。ですから男性用には「ウォータークリーム」という、手にとるとすぐ水状に変わるクリームを開発したんです。
大月 ほかにマーケットを見ていて男女の差を痛感したという経験はありますか。
小野粼 山形さんが「男はかわいい」とおっしゃいましたけど、私もそう思いますね。当社の製品と他社製品との違いを見てもらうために男子高校生や大学生にリサーチをする機会があるんです。そこで脂とりフィルムを「実際に使ってみてください」と言うと、「ちょっとトイレに行っていいですか」と言うんですよ。
大月 そうか、人前でできないわけか。隠れて使うんだ(笑)。
小野粼 それで、「どうだった、見せてごらん」と言うと、見せてくれない(笑)。そういったちょっとかわいらしい部分もあるんだなと。
大月 健康診断の検尿だね、そりゃ。
小野粼 そんな恥ずかしいものじゃないと思うんですけどね。あと、年配の方は、グループインタビューでもしゃべってくれないんですよ。
中居 それは私も感じますね。年配の方のモニターは難しい。ウェルドライを製品化するときも、本当は社内の50代ぐらいの男性に履いていただいて、使用感などを聞きたかったんですよ。ところが商品の説明に「失禁」と書いてあることに抵抗があったみたいで、皆さん、本当に断られました。逆に若い男性のほうが積極的にはいてくれましたね。当時の課長と工場の常務が、大変、積極的に協力してくださった。そういう人がいないとやはりこういった物はつくれませんね。
大月 年配の方は仕事の場で、女性にはっきり見られるという経験を案外してこなかったから、どういうふうにコントロールしていいかわからないんでしょうね。特にそういう下半身絡みのこと、あるいは、まさに見てくれのことなんかを言われると、「え、そんなの、気にしてこなかったよ」という話になっちゃうのかな。
その点、ビールは楽でしょう。「ちょっとトイレ、行っていいですか」って飲む奴はいないし(笑)。でも、正直言って、メーカーごと、商品ごとにそんなに味に違いはありますか。
江部 実は気分や体調でも感じる味は違ってきてしまう。確かに違いはありますが、それほど大きな違いではない。微妙です。でも、お好きな方は目隠しをして幾つかの商品を飲んでもらっても、「これは『一番絞り』だ」とハッキリ当てる方もいらっしゃる。意外とわかっていないようでわかっているんですよね。
大月 「アサヒ芸能」はモニター調査のようなことはやるんですか?
山形 一応、読者アンケートが毎週上がって来ます。
大月 生で聞くことはあるんですか、「これでグッと来た」みたいな(笑)。
山形 手紙やアンケートには書いてきてくれますが、なかなかこういう商品は自分の顔が見えるところでは、みなさん格好をつけてお話しするんで、全然参考になりませんね。
小野粼 最近の子は、もう女の子みたいにペラペラしゃべりますね。女性化とまではいかなくても、だんだんそうなってきているのかもしれないですね。
大月 確かに今の若い男の子は、見られるという意識が女の子と同じレベルで持てるようになってきているよね。そういえばある野球評論家が、「最近のプロ野球選手はたかだか風呂に入るのに、いっぱい化粧品とかシャンプーとか持って入ってくる」って、頭を抱えてたな(笑)。小野粼さん自身は、男性にはどの程度の身だしなみを求めたいと思いますか?
小野粼 化粧品メーカーでこういう商品を売っていますが、私は基本的に清潔であればいいと思っています。脂とりフィルムも、自分のダンナがせっせとやっている姿は正直言ってあまり見たくないですね(笑)。清潔であることのほうが大事で、別に髪は染めなくてもいいと思う。
大月 でも、こういう男向けに髪の毛を染める商品も、今はものすごく売れているんじゃないですか?
小野粼 そうですね。この男性用の商品を作った当初は、これまで仕方なく女性用を使っていた方からの購入を想定していたのですが、実際には、これまでカラーリングの購買層ではなかった新規の男性客が増えました。つまりカラーリング市場自体がドンと伸びたんです。
大月 でも、50代の部長が茶髪だったらちょっと嫌な気はしませんか?
小野粼 50代はいないですけど、40代ならいますね。うちの会社は茶髪が多いんですよ。
大月 今、アメリカ人は「アジア系の顔で髪を染めている女性は間違いなく日本人だ」と言うけど、そのうち日本人男性もそういう基準で見られるのかもしれないなあ。

●男は「幻想」を大切にする生き物
大月 今度は山形さんの苦労話をお聞きしましょうか。
山形 お手紙をいただいた素人の方にインタビューしてヌード写真を撮るという「隣の美人妻」という人気ページがあるんです。実はここに書いてあることは、あえて聞いたお話の30%ぐらいに抑えているんです。なぜかというと、100%本当のことを書くと、読者から「嘘だろう」というお叱りの声がくるんですよ。
大月 へえ、本当のことを書くと、逆に「嘘だろう」と言われるんだ?
山形 あまりにも露骨すぎて、「そんなの嘘に違いない、そんな人が普通の素人でいるわけがない」とくる。だから、真実をオブラートにくるんで、男性読者が受けとりやすいようにしているんですよ。
大月 刺激のないようにね。
山形 要するに、男性はいつまでも女性に対して「神秘なものでいてほしい」という願望があるんですね。
大月 願望というより、幻想というか、勘違いというかね。
山形 その一方で、他人の妻のを見るのはいいけど、うちの妻に限ってそんなことは絶対にあり得ないと思ってるんですよ。でも現実にはどんどん手紙が来ちゃうんです(笑)。
大月 手紙、出さないでね、これをご縁になんて言って(笑)。
山形 信じられないと思うんですけど、今の女性は怖いぐらい。だんな様に相談する方は2割ぐらいで、あとの8割の方は黙ってらっしゃる。こちらとしては夫婦関係に溝ができてはいけないと思うので、事前に「出ても大丈夫なんですか」と説明するのですが、みなさん「絶対にバレません」と言います。
大月 その自信もすごいよな。30万部近く売れている雑誌に出るのにね。
山形 「もしそれで何かあったら」と言っても「何かあったら、離婚しちゃいます」と平気で言っちゃうんです。もし男性の担当編集がやったら女性不信に陥ると思う(笑)。
これまでに200人以上の方にご登場いただいて、2回だけ問題になったことがあるのですが、ご主人にバレても本人はいたってサバサバしている。ご主人が半泣きで、「写真を返してください」と電話をかけてきても、ご本人は全然平気で「それじゃあ写真の返却をよろしく〜」なんて言うんですよ。その後、その夫婦がどうなったかは知りませんが…。
大月 逆に、同性のあんまり見たくないところを見ちゃうわけだ。
山形 そうですね。
大月 かえって男性に優しくなりませんか? 哀れみも含めてですが。
山形 昔から男性が裸の雑誌を見たり、風俗に行ったりすることに関しては、気にならなかったんですが、これをやるようになったら、「もう、どうぞどうぞ」という感じですね。

●男の商品を買うのは意外にも女性である。
大月 ウェルドライのような商品は、これは実際に買いにくるのは奥さんなのかな。どうなんだろう?
中居 通販でも販売しているので、ご本人なのか奥様なのか、どちらが多いのかはよくわかりません。ただ、展示会などでは男性は皆さん、「ああ、なるほど、いいよね」とはおっしゃっても、その場で「買いたい」とおっしゃる方はあまりいらっしゃらないんです。でも、女性は「買って帰りたい」とおっしゃる。
大月 女性は、いい物だったらその場ですぐ欲しい、と。
中居 主人に履かせたいとおっしゃられることは多いですよね。
大月 まあ、未だに世の男性たちは、大体、自分の奥さんに下着を買わせているんだよなあ。
中居 やっぱり奥様も毎日お洗濯をされていれば、ご主人のそういう状況を把握されていると思うんですね。さきほど山形さんのお話にもありましたけれども、裸にしても下半身のことにしても、女性のほうが、結構オープンになってきていると思うんです。女性はもう女性同士で来て、「あなたも買えば、私も買うわ」というふうに買って帰る。
大月 生理用品のテレビコマーシャルなんて、僕の目から見ると、どんどん露骨になってるようにしか見えない。そこまで「見せんといてくれ」って思うんですよ。あ、これも男特有の女性に対する幻想なのかな(笑)。
 化粧品はどうですか? 男の人が自分で買うんですか。
小野粼 トニックやリキッドといった、年配層向けのものは奥様が購入されるケースが多いですね。
大月 ここでも自分で選ばないんだ。
小野粼 シェービングフォームなどは、「いつもお風呂場にあるやつを買っといて」という状況だと思います。ただ、若い男の子は女の子と一緒に選んでいる子が多い。男の子が「これにしよう」と手にとると、「え、それ、変だよ」と、結構女の子の意見が採用されちゃったりするんです。
大月 それはあるな。今の男の子は、女の子の視線があって初めて自分があるんだよね。恐らく、化粧品を彼女と買いに行くなんていうことは、ちょっと前はなかったでしょう。
小野粼 ないと思います。
大月 実は、世のオヤジたちは買い物して自分で市場に接触するということを、まだちゃんとやってないんだな。さっきも少し話が出たけど、ビールよりも税金が安い発泡酒は、経済観念のしっかりした奥さんがまとめて買っていくし(笑)。
江部 その一方で、「まとめ買いすると飲みすぎるから、コンビニエンスストアで自分の分を毎日買っていく」という男性もいらっしゃいます。ただ、実際に飲んでいる率を考えると、まだまだ女性が買っている率は高い商品だと思います。
大月 この文脈とは全然関係ないけど、ビール開発には「おつまみ」の要素も含まれるんですか。
江部 非常に意識して開発する場合と、しない場合とあります。というのも、今はビールや発泡酒は、水がわりに飲む方もかなり増えているので、必ずしも食卓で食べながら飲む場面を想定した商品ばかりではないんです。ただ、「秋味」や「一番絞り」などでは秋のサンマと一緒にとか、つまみとの関係を非常に大切に考えて作っていますね。

●男にはなれない。女の視点でいい。
大月 昔はビールの味なんかあまり考えなかったと思うんだけど、いつごろから季節限定というような差別化をするようになったんですか。
江部 季節限定の「秋味」は91年に発売していますが、その前に初めて季節限定が出たのは、88年のサッポロ「冬物語」。それまでは1メーカー1ブランドみたいな時代でした。
大月 昔はビールって、ブランドがあってないような物でしたよね。「ビール、持ってこい」と言ったら銘柄は何でもよかったわけで。
江部 今は割と、お店のほうでも、「何と何があります」と聞いてくださるところが多いですよね。
大月 それって、海外でも多ブランドになっているんですか。
江部 これは、日本の特徴だと思います。海外はあまりブランドを増やしませんね。むしろ日本を追いかけてライトやドライが出たぐらいです。
大月 「料亭は小瓶、スナックは中瓶、大衆酒場は大瓶」みたいな使い分けがあるのも日本だけなの?
江部 瓶のサイズは必要に応じてできたものなので、海外でも数種類はサイズがありますね。
大月 でも、今は瓶の比率は減って、缶が増えていませんか?
江部 瓶は非常に減っていますね。ただ、缶よりも瓶で飲むほうがビールはおいしいと思っている方はまだまだたくさんいるんです。いくら私どもが「中身は同じですよ」と言っても、「いやいや瓶のほうがおいしい。本当は瓶ビールが飲みたいんだよ」という方は結構いますね。
大月 ビール業界は広告にものすごくお金を使っていると思うんですけど、あれだけ膨大な広告費をかけないと売れないものなんですか?
江部 競争上の理論はあるかと思うんですが、コマーシャルをしていれば売れるという時代じゃないなという感じはします。
大月 製品の中に占める一番のコストは何なんですか? 広告をしなくなったら安くなりますか?
江部 一番大きいのは税金ですね。
大月 税金が安くなったら、もっと安くなる?
江部 税金が安くなれば(笑)。
大月 ガソリンと同じ構図か。でも、発泡酒が売れれば売れるほど、税率を上げようとする連中がいるから、きっと下がんないんだろうなあ(笑)。
それでは最後に、今後の皆さんの展開予定について聞いてみましょうか。中居さん、いかがですか。
中居 転倒時の大腿骨の骨折を予防する「セーフヒップ」という商品を発売する予定になっています。実は今、大腿骨の骨折が原因で寝たきりになるような方が多いんですよ。
大月 介護はこれから伸びる分野だとは思いますが、本当に帝人って「そこまでやるの?」っていうぐらいなんでもやる会社ですねえ。感心しました(笑)。
小野粼さんは、今後、男の好奇心をどうやってくすぐってやろうと思っていますか。
小野粼 私は、男性か女性かは関係なくなってくると思うんです。実際、女性用の制汗剤を使っている男の子もいるし、逆に、強力だからと男性用の制汗剤を使う女の子もいる。
大月 男性化粧品、女性化粧品という差別化は必要なくなってくるかもしれないということですね。じゃあ、「マンダム」っていう会社名は変えないとやってられないね(笑)。
小野粼 今、マンダムは「ヒューマン・アンド・フリーダム」の略です。
大月 え、いつからそうなったの?
小野粼 確かに最初は「マン・ドメイン」、男の領域という意味でマンダムだったんですが、いつからか変更されていました(笑)。
大月 知らなかった。「アサヒ芸能」は、やはりエロティック路線ですか。
山形 確かにエロティックな部分が前面に出ていますが、それ以外の部分でも「男性のためのエンターテインメント」に徹していこうと思っています。うちの場合は、どう頑張っても女性読者は無理だろうなという気はしますので(笑)。
大月 まあ、「アサヒ芸能」はビールや化粧品みたいにモノセックスにはならないでしょうね。
山形 どんなに頑張っても、女は男にはなれない。だから時には「それは男の感性とは違う」と言われて悔しい思いもしますが、男の人たちとは違う感性で、男の心を掴む商品を提供できたらいいなと思っています。
大月 ありがとうございました。

*1:http://d.hatena.ne.jp/king-biscuit/20011105/p1の録音起こしを元にした決定稿。小見出しなどは編集部でつけている。編集部および担当編集者とこちとらとの共同作業でこういうカタチに整えられて掲載される、という過程も共に味わっていただければ、ということで。