余はいかにして【サイバッチ!】の蛆虫になりしか

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 この三月から、メールマガジンサイバッチ!】インデプスの編集長、ということになりました。購読者約80,000人。「政財界から芸能界、アングラまで、裏の裏を鋭く抉り、テレビ、新聞を出し抜く速報の嵐。インターネット史上最凶最悪、疫病神のメールマガジン」(宣伝文句より)を自称してきた、あの【サイバッチ!】の兄弟紙、です。

 とは言え、編集長といったって、紙媒体の雑誌のそれとはまるで違って、手足になって働いてくれる編集部員がいるわけじゃなし、何より一銭にもならない。要は、それまであった【サイバッチ!】の看板を使って何かやってくれ、って話で、その際、「大月隆寛」という名前を前面に出してくれ、ってことだけが条件でした。

 考えてみりゃこれ、あまりにムシのいいハナシであります。だって、個人名を出して引き受けるメリットってのはほとんどないかわり、逆に「蛆虫」を自認する【サイバッチ!】の名前と同一化されてしまうデメリットというのは、こりゃもう際限なくデカい。紙媒体でたとえていえば、名誉棄損目的、煽り専門のゴシップ系外道雑誌をこさえるから、全部責任持ってその編集長になってくれ、ただし、フォローもしなけりゃカネも払わん、てなもんです。そんなもの、多少面識があったりで親身になってくれそうなシトなら、悪いこと言わんからやめとけ、と意見されるのが関の山。そりゃあおもしろい、大いにやってください、なんて言われたことはこれまで皆無であります。

 なのになぜ……というあたりを話して欲しい、ってのが当編集部のご注文。なるほど、この件が表沙汰になってこのかた、大月はそこまで落ちぶれたのか、とか、仕事がなくて相手にされないからヤケクソだろう、とか、なんか好き放題言われてるようですから、そのへん含めて釈明せい、ってことなのでしょう。

 そんなもの、オモシロそうだからに決まってるだろ、タコ!……で片づけちまえばそれまでですが、それじゃあんまりなので少しはもっともらしい能書きを。

 まず、わがニッポンは明治このかたこさえてきた近代モデルの情報環境の大変動期にある、という認識が、あたしにはあります。これは何もありがちな「IT革命」的もの言いじゃなく、もう少し歴史的な文脈での、民俗学者としての認識です。

 マスに働きかけるメディアとしての紙媒体の活字の舞台はこの先、これまでよりもずっと窮屈なものになってゆき、そしてその流れはもう不可逆でしょう。なぜなら、ネットも含めた新たなメディアの浸透によって、情報消費者たるべき読者の側がうっかりとひとり勝手にメディア・リテラシーをあげてしまい、そのことで活字のメディアはこれまでのように「ひとり正義」でお目こぼししてもらえなくなっているから、です。つまり、これまでの活字の「エラい」を保証してきた環境がどんどん崩れてゆき、読者の側から縦横にツッコミを入れられているのに、当の活字のメディアの現場はそのことに驚くほど鈍感なまま。こりゃあ、もの書きでござい、知識人であります、とおさまっていてはこの先、世のため人のために役に立つ、責任あることばの生産なんぞとてもできなくなるぞ、という危機感は、あたし個人としても一層、つのってきていました。

 実際、法環境などを眺めてみても、「個人情報保護法案」(この名称に注目)その他が成立しそうになり、名誉棄損がらみの損害賠償訴訟の賠償額などはどんどん高額になっている。当然、こういう流れはネットでの「報道」や「言論」にも波及するでしょうが、しかしです。、本質的にこのネット空間というやつ、法律による「規制」になじみにくいものだとあたしゃ思っていますし、特にニッポンのバヤイ、それが顕著だなあ、と。となると、相対的にネットでの「報道」や「言論」にある種の信頼性が高まってくるのは、これらの流れの必然ではないかいな、と。

 もちろん、ネットが活字とは別の世界、ある種パラレルワールドみたいなカタチで発展してきたおかげで、ネット出自のもの書きと称する手合いには信じられないようなブツがかなりの比率で混じります。それは活字の間尺で「自分」を制御し、責任の所在を明らかにする作法の欠落したゴミってことなんですが、わがインデプスが今、全力をあげて糾弾、追い込みをかけている田口ランディなんてのは、まさにその典型。このテのブツを批判するには、お行儀のよいこれまでの活字の作法でやっていたんじゃテキの思うツボで、それが証拠にこれだけ悪行がバレバレなのにも関わらず、未だに活字の舞台できっちりこやつを批判したメディアはほとんどないじゃないですか。これはまさに構造的な問題なわけで、そういう情報環境の大変動期特有の落とし穴を自覚しながら、活字の間尺では届かない現実にも果敢に言及するための身のこなしや意識の制御を学ぶために、あたしゃ敢えて蛆虫になることを選択したのであります。

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*1:【サイバッチ!】の片棒を担ぐようになったことについて、結構いろいろな方面から意見された。今でもされる。「編集長」の肩書きもらったインデプスは田口ランディ@盗作猿の追い込みで大車輪の働きをした後、いまはちとお休みしているけれども、【サイバッチ!】本隊の方は今も健在。なんであんなのに……と言われながらも、個人的にはある目算と共に積極的に片棒担いでいるつもりであります。このへんについては改めて、また。

*2:今ではブログも稼働しています。大本営周辺入り乱れての書きなぐりですが。「蛆虫日誌」http://cybazzi.livedoor.biz/