対談 vs. 西原理恵子「明日船を出したら」

西原理恵子という“漁師”の目線。

あるいは、オヤジの皮かぶったキンタマオンナ、のこと



*1■ 二二年目の舵

――**さんは、九三年の年末のNHK『BSブックレビュー』で、その年のベストワンに『怒濤の虫』(毎日新聞社)を挙げてらっしゃっいましたね。その他に挙げた二冊は民俗学の本だったので、強く印象に残っていました。「とにかくすごい人が現れたんだ」と西原さんを評されてました。

● それ、悪いけど記憶になんだよなあ。あの番組、思いっきり偏向しやがってて相性最悪だったし。

○ 評論家の人はそうやってスカすんですよ。二番、三番は難しい本を挙げて、一番に柔らかい本を持ってくる。それで「僕はこんなにマニアな本だって読んでるんだよ?」って、自分の柔軟さをアピールする。あたしはよくその位置に入れられるんです。

● いきなりそういう挨拶かい(笑) だから、なんであんたはそういう立ち位置になっちゃってるのか、またそれをどううまく利用して世渡りしてやがるのか、っていうあたりを、今日はせっかくだから一度ゆっくり問い詰めたいんだけどさ。

○ **さんみたいな評論家は、難しい本しか読まないって姿勢は恥ずかしいんですよ。だから「こんな〈はずし〉もありますよ」ってことでしょ。そのための重宝なアイテムがあ・た・し。

● まあ、「こんな外道なものもわかるボク」ってのを示すための、一番便利なアイテムとして使われてしまう、というのはその通りかもな。マンガでも映画でも音楽でも何でもいいけど、だいたいサブカルチュアってのは、インテリ/知識人の側からのそういう使い回しのされ方がデフォだった歴史があるわけで、それって優等生が「ボクだってタバコ吸ってるもん」って必死に言い張るようなもんでさ。

 でも、好むと好まざるとに関わらずそんなキャラになっちまってるから、あんた、いまどきこんな『ユリイカ』なんかにうっかり引っ張り出されちまうんだっての。あんたのことだから、それ自体がすでにこっぱずかしい、ってこともきっと自覚してるんだろうけどな。

○ まあ、いま自分の座っているのがどの席かっていうのは、よくわかってるんです。それから、将来座るであろう末席も。その一つしかない末席を、近いうちしりあがり寿と奪い合うことになりそうで、気に障る(笑)。

● あんた、しりあがり寿ってのはあれで相当にワルい奴だぞ。なにせあれ、元・広告代理店勤務なんだから。

○そうか、あの「のっぴょ~ん」とした感じは、天然じゃなかったんだ。そう言えば、広告代理店の奴が本当のことをしゃべるわけがない(笑)。

● だろ? 天然のわきゃない。だから、あんなふざけた絵描いときながら、しれっと『朝日新聞』の四コマなんかゲットしてやがるわけでさ。ありゃ、糸井重里級の悪人だっての。

○ 上手くいけば、さくらももこの席にも座れるんじゃないかっていうのが、最近のあたしの野望でね。みなさんに善人のイメージを植え付けて、広く浅く。

● そりゃまた壮大な野望だなあ。でも、マジレスすると、時間も手間もかかるだろうけど、結構あり得るんでないかと思うぞ、それ。

○ そうですかね。もう、小さい末席の取り合いはもういい、と。竹島は放っておいて、もう一度ドーンとでっかく大東亜共栄圏狙っちゃえ、ってなってるから(笑)。

● 結局、一発五尺玉打ち上げたいわけだな。ちなみに、『BSマンガ夜話』史上、約130回ほどの中で、取り上げた当のマンガ家本人からナマ放送中にファックス送って仁義切ってきたってのは、あんたとさくらももこだけだったんだけどな。

○ お、さくらももこも、結構商売やってますねえ。いよいよ負けてらんない。

● あんたも自分のキャラ土下座した絵描いてきて「ありがとうございます、もう好きに言ってやってください」とかなんとか、相当だったけどな。しかし、なんでまた、さくらももこをことさら意識するかなあ。

○ 内容は、全然意識してないですよ。欲しいのはあの「位置」なんですって。でも、さくらももこがどいてくれない限り、あの席は空かないから。あの人、大麻とか賭博とかで手が後ろに行くようなことがないかしら……って、それはあたしが先か、どう考えても(笑)。

● とにかくあの椅子に座っちまえば勝ち、というのは、世渡りの認識としてひとまず正しいよな。過程はどうあれ、いったん座っちまえばあとは何描こうが何やろうがオッケーになってやりたい放題、で、とりあえず儲かるぞ、と。それって別の言い方すれば、何と言われようと林真理子になっちゃえばいい、ってことでもあるんだが。でも、なりたいか、林真理子に。あんた自身、今そういう位置にいちゃってるのか、どう考えてる? 何より、そもそもマンガ家としてそういう世渡りをほんとに目指してるのかどうか、を聞きたいんだけどさ。

○ マンガ家として二二年目ですけど、一度くらいは大ブレイクしたいですね。

● 大ブレイク、って、いったいどれくらい売れたら大ブレイクになるんだよ。

○ 初刷り一〇〇万部。

● いま初刷り一〇〇万部っていうと……『NARUTO』『ONE PIECE』クラスか。

○ あと、浦沢直樹さんとか。

● ど厚かましいなあ(笑) それだと、かなり大きく舵をきらないとキツいだろ。

○ だから今、一生懸命舵切ってるじゃないすか。『毎日かあさん』(毎日新聞社)があたしの善人部分のMAXなんすよ。ボリュームつまみをガーッと、もう全開状態です。

● それって、かなり無理をしてんでないの?

○ 無理はしてないですね。「迷ったら描かない」っていうのは、昔っから守ってたし。どんなきわどいネタやいいネタも、「どうしよう」と迷ったら描かないっていうのは、教えられたもん。たとえば、役人を告発するちっこいネタで、描くかどうか迷うんだったら、いっそでっかく官僚機構そのものを告発で、って。

● だから、税務署ともガチでやり合うしな。

○ でもねえ、ひと山あてようとすると、最終段階でいっつも落ちるんすよ。ヨゴレならヨゴレでいいから、どうしてパチンコ台のキャラクターに選ばれないのか、悔しくてしょうがない。「『北斗の拳』はパチスロ台で一五億円も入ってきたのに?。あたしなんか、もっと前からパチンコ業界と癒着してきたのに?」、って。

● まさに煩悩全開だな。でもさ、パチンコ台のキャラクター仕事なんて、結構ありそうだと思うんだけど。

○ そうなんすよ。ギャンブルに限らず、このところの善人イメージでも広告やアニメ化のプレゼンは、イヤってほど来る。で、どれも最終選考まで残るんだけど、なぜだか最後に落ちる。それがあたしの仕事みたい。「ふたつ残ったけど、こっちはどうも毒がありそうだから落とそう」、みたいな感じなのかなあ。

● そりゃ、そんな広告代理店の側からしたら、いくら善人ぶってても本質的にこいつはヤバい、ってのは匂いで感じてるだろ。要は、咬ませ犬なんだな。亀田興毅と対戦させられるために連れてこられたタイ人みたいな。

○ そうそう、あの手合い(笑)。なんだかこのポジションにも最近、慣れてきたけど。

● 慣れるなよ(苦笑)。じゃあ、ひとつ後学のために聞いとくけど、そのあんたが代理店系のコンペで競合して負ける相手っていうのは、具体的にどのへんになるわけ?

○ あたしが断った仕事はくらたま倉田真由美)とか(中村)うさぎさんのとこに行ってますね。それって、あたしに来る前には、さくらさんとこに行ってたのかな。

● わっかりやすいなあ(笑) でもさ、世の中ってしょせん、その程度なんだよな。くらたま程度のゆるいもので大方の需要は満たされてる。っていうか、くらたま、うさぎ程度で世の中OKなんだし、また、その程度の方が安心する。でもさ、それって広告代理店の側から見ると、あんたもやっぱりあいつらと同じ箱に入れられてる、ってことでもあるよな。

○ それは自覚しています。同時に、彼女たちが、あたしにはないスキルを持っていることも。

● でもそれって、ムカつかない? しょせん同じ箱に放り込まれてるのに、かませ犬、ってキャラ。あたしなんざ、絶対に向こうから寄ってこないからそんな箱に入れられようもないんだけど。それとも、カネになるんだったら、くらたまになってもいい、とか。

○ 額によりますね。金額でいくらでも転ぶ。

● よく言った。じゃあ、一千万で転ぶか?

○ 一千万じゃきかない(笑)。なにしろこの間、一億六千万円の借金しちゃったから、三五年ローンで。

● そのへんがまず、ケタが違うんだよなあ。なんだその額は。先物にはまったオッサンかよ。このご時世に、なんでそんな無茶するんだ。

○ あたしの家の隣が売り地になって、そこが角地だったんすよ。ちっちゃい時からオセロで遊んできた世代じゃないすか。だから「角とったなりぃ~!」と条件反射で、ばしっと。

● それ、ハンコつく前に、誰かに相談しろ(泣笑)。一億六千万あったら、北海道で牧場が買えるぞ、五十町歩くらいのが従業員もウマも全部居抜きで。

○ そうなんだ……でも、博打で五千万も六千万も負けちゃってるから、使ってなくなったお金のことは、全然気にならないっす。



■ 高度八千メートルで

――**さんは、ご出身はどこですか?

● そもそも生まれたのは東京の吉祥寺で、すぐに西荻窪に引っ越して、幼稚園までそこにいて、親父の転勤で神戸に引っ越して、高校出るまで西宮にいた。だから、東京生まれの関西育ちなんだわ。**の家自体はもともと岡山らしくて墓もそっちにあるんだけど、いろいろ訳ありで父方の親戚とは付き合いがまるでなくて。母方は九州の八幡で、その前は大分の蒲江。もとは漁師だな。だから親戚も九州オンナというか、西南日本系のが多い。

○ あ、九州オンナ、いいでしょ。

● (即座に)よくない! あれをいいとうっかり思ってしまいそうな自分がどこかにまだいそうなことからして、よくない。あのさ、はっきり言うけど、その九州オンナってのはあんた、実は日本近代史上未だ解明されていない大問題なんだぞ(苦笑)。

○ そうなんですか。でも、九州オトコと比べたら! 専業主婦の息子で一人っ子、それから九州男児。女の間では「これだけは貰っちゃいかん」というのが鉄則(笑)。アラブの男と結婚するくらいヤバいことなんだから。知り合いの女性の話なんだけど、九州にいるダンナの父親からの電話に「いま、お父さん(ダンナ)に子供をお風呂に入れてもらってます」って話したら、「なんだとぉ?!」と大激怒。「息子に子供の世話をさせるとは何事か!!」ということらしいんだけど。

● ありがちだけどシャレならんよな。九州男児問題ってのは、それと入れ子になってる九州オンナ問題と共に、まだ誰も正面から解明していない、ほんとに大問題なんだわ。東京のオンナのコがうっかり九州に嫁入りなんかしようもんなら、そりゃもうあんた、大変だぞ。

○ 一度都心に出た九州の女の子は二度と戻らないすからね。北朝鮮から韓国に亡命するのと一緒。「九州男児のいない世界とは、こういうものかー!」って。九州男児から離れて、やっと人権と選挙権が与えられるんだから。毎朝三つ指ついて起こしてもらって、毎日シーツが変えてある、それが家庭だと信じ込んでますからね、奴らは。恐ろしい……あれ? もしかしたら**さんって……

● はい、まさにその専業主婦の一人っ子(泣笑)

○ おおお、それはぜ~ったいに貰っちゃいかん(笑)。鴨ちゃん(カメラマンの鴨志田稔氏。西原氏の元夫)は次男坊なんだけど、お母さんは専業主婦で、あたしが妊娠してる時に「なんで働いてるの?」ってふっつーうに言われた。「しまった、このアラブ人をこれからどう教育しよう」って思ったもん。

● 高知なんか特にそうだけど、だいたい西南日本は「ぶらぶらしてても食える」って感じが昔っからあるからさ。どうしてもオトコが遊び人テイストになる。東日本、それも東北なんかだと生産性が低かったから、ムラからうっかり出ると死んじゃうしかなかったんだけど。

○ そうそう、だからモラルが違う。

● 「外に出りゃなんとかなるわ」っていうのがあるからなあ、それも根拠なく……ほら、何するわけでもなく、昼間っからぶらぶらしてるオトナ、って、よくいただろ?

○ そんなのだらけ!(笑) ほんと、『ぼくんち』の世界、そのまんまだから。

● でも、東の人間にはそのへんの感覚がわからないみたいなんだよ。昼間っから中学校のグランドに遊びに来てる大人なんか、平然といるんだから。しかも、中学生と同じレベルで(笑) で、そういうオトコばっかり見ていると、オンナも「オトコってこういうもんだ」と思ってくるし。

○ オトコのことになるとあたし、なんにも言えない……

● あ、意外と謙虚なんだ(笑) でも、そのへんのことになると自分も悪いって、思わない?

○ 思いますよ。選んだ自分が一番悪い。だって、「あんな男だと思わなかった」ってわけにはいかないでしょ、いまさらこの歳で。

● エラいッ。男前だなあ。でも、ダンナについては、うすうすそうじゃないか、とは思ってたんだろ?

○ うすうすそうだとは思ってたんだけど……舐めてたんですね、心の病気やアル中を。「私はこういう職業だから、理解ができる」って自惚れがあった。家族に対しても「愛情をもって接すれば、なんとかなる」って幻想があったし。離婚家庭に育っているくせに(笑)。

● そう思わせるっていうのは、でも、結果的にあんたの親が偉かったってことじゃないのかな。

○ というよりは、あんな風になっちゃいけないと思って、職業を持って、お金もある程度貯めて、完璧な状態で家庭作りに入ったんですが……

● とんだ落とし穴があった、と。

○ そう。ほんとにアル中を簡単に考えてましたね。で、いざフタを開けたらレクター博士がゲラゲラ笑ってた。「これなに?!?」って、慌ててフタを閉めたりして(笑)。「こんなの治るわけ、ないじゃん!」って、ようやくわかって。

● 実はあたしゃ大学二年から七年半ほど、精神科の看護士やってたことがあってさ。

○ うわあ、それは現場を見ましたね。

● 見た見た。そりゃもう、世界観がまるで変わった。だから、これでナマもののキチガイには案外耐性があるんだわ。これまでライター仲間でもおかしくなったの横抱えにして病院放り込んだり、そんな修羅場何回も経験してるし。みんなナマもののキチガイって扱い方わからなくて、まずオタオタするんだよな。で、そうこうしてる間にさらに事態が悪化する、と。ひょっとして、鴨ちゃんの入ってたのってH病院か? アルコール・薬物中毒では、あそこが一番いいって言われてる。

○ あ、まさにそこです、H病院入ってます。老舗ですね(笑)。最重篤の看護を受けてます。庭の散歩すらさせてもらえない、完璧な閉鎖病棟。でも、鴨ちゃんは四〇年かけてあの病気になったんで、治るのにも四〇年間かかるかな、と。

● アルコール依存ってのは、医者的に言うとヤク中と一緒だからなあ。

○ とにかく朝から晩まで、人を傷つけなければ済まなかった。それが二四時間×六年間。あれにはほんとに驚きましたね。人の心のなかの差別意識や悪魔的なものが、こんなにすごいものだとは知らなかったんで。でも、これって明らかに狂ってるんだから、そういう人を捨てるなんてしちゃいけない、家族として道義的責任があるんじゃないか、とか思ってたんですよ。

● ああ、やっぱりあんた、どこかで育ちがまっとうなんだわ。いや、そんなの捨てていいんだって。そこをヘタに頑張ろうとするから共倒れ、みんなまとめてダメになっちゃうんだから。

○ ええ。このままいくとぜーったい二次遭難するのが見えたんで、自分の下のザイルをきっぱり切った。高度八千メートルの山頂近くで人の道義を説くな、っちゅうことですかね。

● うん。最後はやっぱり命あっての物種だってば。キチガイはとっとと専門家に見せなきゃダメ。シロウトがヒューマニズムやらでどうにかしようとすると、絶対まわりまでおかしくなる。

○ そう。介護倒れと一緒。わかってたんですけどね……ウチの父なんかも、早く死んじゃえばいい人だったんで。母親が「これで借金が増えんで済む。あと一〇年早く死んでくれたら、もっと楽やったのに」って。これが女の本音ですよ。お父さんのことは好きだったけど、私もやっぱりそう思う。

● う~ん……少し前まで日本のほとんどでデフォだったのは、そういう貧しさだったからなあ。義理とか人情ってのも、実はそんな美しいハナシじゃなくて、貧乏だからしょうがなく人と人がそういうくっつき方しとくしかない、ってところもあったわけでさ。みんな豊かになっちまったら、そんな義理や人情も必要なくなる、ってのも、実はある意味真実だったりするんだよな。

○ でも、そうは言ってもなかなか家族って切り離せないでしょ。

 鴨ちゃんも早く死んだ方が……と思う時もあるんだけど。いま鴨ちゃんは、お母さんのところに転がり込んで、またお酒飲んでお母さんをいじめて。あたしはそんな夫を切り離したけど、母親は息子を切り離せない。子供は捨てられないんですよ。もしも、あたしの息子が同じようになっても、やっぱり捨てられないですもん。

● で、困ったことに、そういう目にあってるお母さんは結構、元気だったりするんだよな。

○ そう! 困ったことにかくしゃくとしてて。息子と喧嘩して家出しちゃったりして。いままで出会ったなかで、一番「昭和の女性」らしい女性ですね。「私さえ我慢してたら、すべて丸く収まる」っていう、自己犠牲の精神に貫かれた殉教者のような女性。だから、姑の面倒見て、夫にいびられて、息子にまたいびられて。そんなんであたしは最近、人間は性格が悪くないと生きていけないな、と思ってるところなんですよ。「善い人間になれ」なんて道徳教育は、嘘じゃないか、と。

● 嘘か嘘じゃないか、で言えば、そりゃ真っ赤な嘘だよな。でもさ、だからこそ、最大公約数というかタテマエとしてくらいは、「善い人間になれ」と教えていかないとダメだろ。タテマエうまくこなしてみせるのもまた、オトナなんだからさ。

○ ウチの息子は、優しすぎて呑気で、もう皇太子状態(笑)。ものは取られ放題、友だちにはボコられ放題なんで、極真習いに行かせてる。「とにかく固いものを手にとって、後ろから殴って逃げろ!」と。お母さんがぜーんぶ、責任とっちゃるから、謝りに行かなくていいようにしちゃるから、と。

● 『岸和田少年愚連隊』かよ。秋野暢子が演ってたチュンバのかあちゃんみたいなもんだな。でもさ、いざ喧嘩の時は自転車でもなんでもいいから、とにかくそこにあるモノを持て! で、あとはもう気合いだよ。絶対タダじゃやられねえぞ、って根性どれだけ見せられるか、だろ、勝負は。でも、そういう気合いの出し方って、いまの若い衆って教わりにくいらしいからなあ。オヤジもアテにならないとなると、そりゃ、かあちゃんがカラダ張って教えるしかないんかもな。



■ 貧乏の匂い

● 改めて思うんだけど、日本って、東と西でほんとに違うよね。未だに違う。

 たとえばさ、「稼ぎがない」のと「貧乏」とは違うじゃない? 東京の人間がわからないのはそこらへんみたいでさ。東京の貧乏って「稼ぎがない」なんだよ。知り合いで足立区の出身のやつがいて、そいつもたいがい貧乏とかろくでもない現実いっぱい見てきてるんだけど、でも、そいつでも『ぼくんち』の世界はいまいちわからない、と言ってた。そりゃ、いわゆる差別の問題なんかもからんでくるんだろうけど、でも、西の貧乏ってのは、たとえ稼ぎがあろうがなかろうが、もう徹底的にどうしようもない、っていう部分がどこかで絶対にまつわってくるんだよな。

○ 中世以来のカーストですからね。『営業ものがたり』にも描いたんですけど、東京の人はそこがわからないから平気で「『ぼくんち』は架空の世界ですよね」とくる。

● ああ、そうかもなあ。描き方とか絵柄でごまかされるところがあるのかも知れないけど、あれってメルヘンでも何でもなくて、ある意味、眼前の〈リアル〉なんだけどな。あんまり大きな声じゃ言えないけど、高知のちょっと町はずれとか山の中にある貧乏なんて、いまでもすごいし。

○ そう。また、いまそこへ中国マフィアの蛇頭がごってり入ってきてますからね。似非同和 vs. 蛇頭って、わけわからん戦いになってるし。「差別はいけない」とか、そういうレベルの問題じゃない。

● そりゃ差別はいけないんだけど、でもそれ言ってりゃどうなるってもんでもとっくにないからな。差別が利権にもなるし、逆に「差別はいけない」っていう考え方自体が逆に抑圧になったりもするし。

○ そうなると、もう「子供の命が惜しかったら、どんな私立でもいいから私立の学校に入れろ!」ってことになるんですよ。公立の中学出ちゃったら、みんな高校に進学なんてせずに「さるところ」に就職していくんですから。似非同和 vs. 蛇頭の抗争のまっただかに、誰が自分の子供を放り込むかっての。東京の「ブランド」私立学校とはわけが違う。

● まあ、そんなもんだよね。でも、そこらへんのリアリティが東京の人間にはなぜか伝わっていかない。

○ 高知には「サンカ」といって、山で暮らす人たちがいますね。山崎一夫さん(雀荘チェーン「たぬ」経営。西原作品では「銀玉親方」として有名)はサンカなんですよ。

● おいおい、まんま民俗学じゃないか(苦笑) まあ、サンカったって別に異人種じゃないし、それに地方によっていろいろ違ってるし、そもそも木地師とかタタラ師とか、山の中で暮らす稼業の連中がそういう風に呼ばれるようになったのも明治以降だったりするんだけど。確か、山崎さんって、生まれが檮原かどこかだっけ。

○ 土佐山田です。もっと山の中。ほんとにとんでもないとこなんですよ。山崎さん自身、異様にがっしりした体をしてて、足がでっかくて、しかも土踏まずがない。先祖代々重いものを担いできたから。

● 強力だよ、それじゃ。

○ そう、クーリーなんです。運動不足の現代っ子なんかじゃ絶対ないのに、扁平足。重い荷物で土踏まず擦り切れてなくなっちゃってるから。

● ほんとかよ(苦笑)。まあ、サンカってのはともかく、そういうなんというか「貧しさ」の風景が未だに具体的にそこにある、ってのは、高知に限らず、地方に行くとびっくりするところではあるな。

○ 自分の生い立ちに疑問を持ったことがないから、そんなもんだと思ってた(笑)。東京の人のことのほうがわからない。でも、土門拳の『筑豊のこどもたち』を見たときは、「こりゃ、負けたわ」って思ったけど。

● またあんた、いまどき土門拳の写真なんか見てるから……筑豊=ヤバいところ、ってのは最近また若い衆中心にいろいろ言われてるようだけど、あれも実は戦後に増幅されたところあるんだけどな。明治になって炭坑ができて流れ者の炭坑夫が集まってきて、でも景気は良かったわけでさ。気質的には漁師と同じで「宵越しのゼニは持たん」だからバンバンカネ使うし。そんなのがわずか十年、二十年で一気に隣の現実になったら、そりゃあ、まわりからは異様な眼で見られるよな。でも、かつてそのへんの〈リアル〉描いてた上野英信とか森崎和江とか、もう読まれなくなってるんだろうから、その分余計にそういう「筑豊伝説」も肥大するわけでさ。

 業田良家の『自虐の詩』ってマンガがあるだろ。知る人ぞ知る名作。業田自身も九州の人間みたいだけど、あそこに出てくる「熊本さん」なんか、キャラとしてもディテールとしてもかなりヤバい。さっきから出てくる高知や筑豊や、なんでもいいんだけど、そういう西南日本の土地がらみ、風土がらみの「貧しさ」とそれにまつわる歴史が凝縮されてるようなところがあって、なんかもう切ないんだよね。でも、そういう「感じ」がいろいろ理屈つけなくても、ピン、とわかるのは、やっぱり西の人間なんだよなあ。

○ あたしも山崎さんとは同じ高知出身だし、その空気が丸わかりだから、彼と話してて楽しいんですよ。山崎さんのお父さんはずっと何年も山から出てこなくて、それで兄弟を数えると九人か一〇人にもなる。で、お父さんが山を一個売る度に、その土地の女を引き入れて、三、四人子供作って、また次の商売に移動する。なんもうめちゃくちゃ。

● ああ、民俗学で言うところの世間師というか、いわゆる山師なんだな。遠くの山を見渡して「あそこから、あそこまで」って指さしながら売り飛ばしたり。

 あんた、『土佐源氏』って読んだことある? 民俗学者宮本常一って人が書いたんだけど、かつて、高知の山の中をずっとめぐっていた癩病の乞食の話。昔、土佐の乞食というか、癩病の人はみんな山を歩いてただろ、「カッタイ道」とか言って……

○ そうそうそう! 癩病は「山歩いてりゃ、治る」って言われてた。でもそれって、単に山に追いやってるだけなんだけど。

● まあ、態のいい追放だし、そんなもの明らかに差別なんだけど。でも、伝染病からムラを守るにはそうするしかなかったんだろうし。

○ そんなのが自分の身の回りに当たり前にあったから、あたし『砂の器』なんてどこが可哀想なのか、全然わからなかったもん。むしろ、主人公の犯人の側に立って「こりゃ、死んでももわらんと」なんて思ってた。だって、おじいちゃん、おばあちゃんから寝物語にそういうのよく聞かされましたもん。「手ぇの指のないの、足の先のないのがおるきぃ、山の上に行ったらいかんぜよ!」「感染るぜよ、風下に行ったら行かんぜよ!」って、そんなのを「シンデレラ」のお話と一緒に(笑)。

● ううううううう(泣笑) ほんと、生きながら民俗学だわ、それは。でも、そういう「耳から入った語りのリズム」っていうのかな、どうしようもなくオーラル(口承)なノリみたいなものが、あなたの描いたものには、どこかあるんだよね。個人的にはそのへんが肌が合うというか、好きなんだわ。

○ そうですね、自分がちょっと自慢できるのは、擬音や擬態語かな。

● ああ、やっぱりそういう自覚はあるんだ。それとあなた、匂いに敏感だよね。

○ おお、「放るもん」臭には、敏感ですよ(笑)。

● 別にホルモンじゃなくていいんだけどさ。「貧乏くさい」っていうのは、本当に、具体的に「臭い」んだよね。ああいう匂いってのは、体験のない人に対して、いったいどう表現したらいいんだろう。

○ 駅に降り立った途端に「失敗の匂い」みたいなのがするんですよね。潮っぽい、鉄錆びの匂いが。

● 湿気臭いというか、カビ臭いというか……なんかやっぱり海洋系なのかな。なんだろ、そういう西の「貧乏臭さ」ってのは。でも、カネを稼げばきれいに消えてなくなるようなもんでもないんだよね。仮に何かの間違いで大金を持ったら持ったで、またとんでもなくひどい遣い方をしたりするわけで。だからカネ持ちで貧乏臭い、ってのもいくらでもあって。

○ 角地、一億六千万……(笑)。

● だから(苦笑)……ほんとに、どうして誰にも相談しないかな、この人は。

○ まあ、どうしても「土佐の出」っていうのがあたしの底にありますね。高知県人は海洋民族なんで、出がけに必ず豪快なホラを吹くんですよ。そして最後には笑いに持っていく。ホラは大きければ大きいほどいい。「小泉首相に会ったよ」というよりは「ブッシュと話した」のほうがいい。

● だよね(笑) とにかくそういうのが喜ばれる。トールテール、ってやつ。で、そのうち自分で始末つけられなくなったりして。でも、悪気はないんだよね。嘘つき、というより、ホラ吹き。ここらへんの違いが微妙だけど重要なんだわ。

○ 黒鉄ヒロシさんだとか、はらたいらさんだとかも高知県人なんだけど、マンガの基本が画力じゃなくて「ホラ話の作成能力」だから、みんな絵がヘタ(笑)。それでも地元には貢献したいんで、地元のコンテストの審査員なんかをみんなでするんだけど、「これ、タイヤ、上手に描けちゅうで。いや~、僕らこんなのよう描かんきねえ。やったらこれ、挙げちょこか」って、なんかもうすっごく情けない(笑)。

● うははははは。メカを描ける描けないってレベルじゃないのね、初手から。高知は毎年、まんが甲子園、とかやってるけど大丈夫なんかな。

 あなたの描いたものは大体読んでるつもりなんだけど、インテリや評論家系の連中の誰もがほめたがる「ぼくんち」なんかよりも、むしろ小品っていうか、なんでもない短いのが案外印象深いものがあったりしてさ。ほら、「ちん坊」とか、あれはなんだったっけ、同級生のヤンキーの子の話、ああいうのが結構好きなのね。高知の大丸の屋上にあった遊園地の飛行機から飛び降りてそれが撤去されるきっかけ作って、地元のレディスのアタマで大げんかして、ヤクザの彼氏の子供何人もこさえてDVでボコボコにされて内臓破裂しても脳天気で……で、最後は「みーちゃんは丈夫でえらいなあと思った」ってやつ(笑)。

○ タイトルはまんま、「みーちゃん」ですね。

● そっか。でも、あなた自身は、絶対にああはなれないし、ああいう具合に生きられないよな。「丈夫でえらいなあと思った」って、あそこの距離感が絶妙なんだけど。

○ ああいう人たちを山ほど見てきて、自分はああならないでおこう、って、東京に出て頑張ったんだけど、でも、結局はフタを開けたら一緒でしたね。東京と高知でステージが違うだけで、やってることはしょせん一緒。

● アル中の男にはひっかかっちゃうし、ってか?

○ そうそう。でも、私と勢いで中出しして子供まで作ってくれる男なんて他にいなかったし、子供を二人授かったことに関しては、すごくよかったと思ってます。

● そういうこともしれっ、と言えるところがあんた、やっぱりワルなんだわ(笑)



トロちゃんのこと

● 高知は昔、海のそばの桟橋に競馬場があったでしょ。今は春野の方の長浜に移ってるけど。桟橋の頃は、それこそあなたの実家のすぐ近く。あの頃はもう何でもありの競馬で、地元のろくでなしがニセ馬券の印刷機まで使ってたっていう(笑)。もちろん、すぐ捕まったらしいけど。

○ うちの近所のおっさんたちが競馬、行ってましたよ。

● いま、高知の競馬は日本一安い賞金でやってるんだけどさ。一着賞金十万円。若いノリヤク(騎手)の給料なんか五、六万。どうやって食ってるか日本中が不思議がってるんだけど、何年も前からつぶれるつぶれると言われながら、それでもまだ何とか競馬やってる。このところ、地方競馬はどこもバタバタつぶれてるんだけど、高知の競馬がまだもってるのは、やっぱりあの高知って土地柄も絶対関係あると思ってるんだわ。馬も十歳十一歳がゴロゴロしてるし。

○ 高知の競馬場というと、あたし、トロちゃんが好きでねえ。

● ああ、トロちゃん! いいよねえ。いるんだよねえ、ああいう年寄り。

○ トロちゃん、競馬場でトロ箱をたくさん、いっつも持って来るの。それで「トロ箱下に敷いたら、ちょっと高こうなるから、よう見えるからね」って、ひとつ一〇円で貸してまわってるんだけど、実はそんなもんで見えやしないんだ(笑)。でも、トロちゃんが来るから、一〇〇円で馬券買ってるおっちゃんも、もうお賽銭みたいなもんで、トロちゃんに一〇円あげちゃう。

● もう、施しなんだよね。徳を積む、みたいな。

○ そう。それでレースが終いになると、トロ箱たくさん引きずってトロちゃんが帰っていく。それ見て「盗まれんようにせんと」ってみんな言うんだけど、そんなもん誰が盗むかっての。お前ごと廃品回収じゃ!って(笑)。

● ほんと、なんなんだろね、そういう施しの感覚。とりあえず小銭か残飯やっとけ、という「やさしさ」。貧乏がデフォの世界ならではのもの、なんだろうけどさ。

○ そのトロ箱……中央卸市場なんて結構遠いのに、どこからどうやって持ってきたのかなあって、不思議だった。あと、八幡様の境内で遊んでるとトロ箱の山があって、子供らが遊んでるとそれが崩れて、中でトロちゃんがグーッって寝てたり。「ああ、こんなとこ居はったわ。かぶと虫みたいやわ」って(笑)。

● ほんと、いいよねえ、トロちゃん。別にああなりたくはないけど(笑) でも、ああいう生もあたりまえに隣にある、っていうあたりが。だいたい、昔から無宿人が泊まるのは、神社の境内なんだよ。野良犬がお産するのもお宮の縁の下だったりするし。あの森の石松が殺されたのも、焔魔堂だったし。

○ あの『ぼくんち』のトロちゃんのモデルになった人は、もともとお婆ちゃん、女性なんですよ。

● ああ、そうなんだ。それはそれでなんかまたイメージが広がるなあ。

○ ああいう人がそれ以前にどういう人生を送ってきたかっていうと……最近平塚で「五遺体発見される」って事件があったじゃないですか、実はあんなんですよ。売春婦が一生を終えるのは、ああいうもん。よく年をとった売春婦が「お前ら全員、梅毒の、泥棒の、人殺しだ?!」って誰ともなく叫んでるけど、あれは実際そんなのがまわりにゴロゴロしてるからですよ。本当に、性病で盗癖があって、最後は結局のところ人殺しに行き着くんだから、ほんとにしょうがないよね。だから、売春婦をうっかり家に上げちゃうと、すんごい人が死ぬ。

● 言い方はすごいけど……いや、ほんとにそういうもん、だと思うよ。何もかわいそうとかそういう問題じゃなくて、とにかく具体的に困ったことになっちゃんうんだから。そういう世界に抵抗力がない人からもう、バタバタ死ぬ。死なないまでも、不幸が不幸を呼ぶ。人間って、普通はそうそうキャパ大きくないんだからさ。

○ ですよね。姑だとか、小さい子供だとか、どんどん死んでいく。あの事件を聞いたときは「あんなの、よくある売春婦の家の話でしょ、カーストの底辺の」ってくらいなもんで、だから、みんながなんで大騒ぎするのか、よくわかんなかった。日本でカーストが純然としてあることは、表立っては言えないことになってるけど。

● まあ、カーストじゃなくても、そういう背負っている現実の違い、生まれ育ちによるどうしようもない落差ってのは当たり前にあるってことだよね。最近だと「格差社会」なんて言い方でちょろまかされたりする方も悪いんだけどさ。それって実は単にカネ持ってるかどうか、年収がいくらか、なんてことじゃなくて、もっとどうしようもない部分も含んで、ってことがもう見えない。で、何より困ったことに、今はそんな売春婦の子が「レオパレス」に住んで、コスプレやってたりするし。

○ そう。それでわかりにくくなっちゃう。

● そういう意味じゃ、多くの事件やできごとも、しょせん「昔からある話」の範疇だったりするんだけどね。でも、それが街中で、いまどきのディテールがからんでて、になってくると眼くらまされて見えにくくなる。だから余計に厄介なわけでさ。



早起きして、前線へ

● 唐突だけど、林芙美子なんて、読んだりした?

○ 『放浪記』は、読みました。

● やっぱ読んでたんだ。いいな。あたしゃ前から、あなたに『放浪記』を描かせろ、って言ってたんだよ。あの昭和のはじめのカフェーの女給の描写なんか大好きで。通ってくる学生相手には適当にいいふりこいといて、でも、控え部屋でそっと着替えてるの見ると腹に妊娠線があったりして。で、横になってお互いの身の上話して「みんなカタツムリのように、丸くなって眠った」って。ああいう感じって、いまも昔も変わんないじゃないかって思うよ

○ ほーう。

● あ、なんかまたインテリをバカにする視線が(笑) 林芙美子ってのはオイチニの薬売り(明治時代に流行った流しの薬売り)の子で、私生児だったんだよな。で、そうやって母ちゃんとウロウロしている途中の尾道が最初の小説の舞台になって……って、そんなろくでなしで外道の林芙美子が文壇というか、当時のマスコミにもてはやされるようになった過程っていうのがあるんだよ。要はあんたと同じ、すんごくインテリに受けた。ああ、サイバラってのは林芙美子ともしかしたらおんなじことをやってるなあ、って。それがいいことなのかどうかは、よくわからんけど。

○ 言われてみれば、東京でのデビュー当時から、自分より年齢が二〇歳くらい上の編集者とか、インテリ層に妙に受けるな?、って感触は不思議とありましたね。

● だろうなあ。で、その理由ってのは自分じゃほんとにわからない?

○ わからない。自分が経験したことを素直に書いただけの作文が、なにか成し遂げた気になってる、老害と言われる全共闘世代に「これを書いたのは、君かねーっ!!」って……

● 勘違いされる(笑)。

○ 薄汚いプチブルに(笑)。でも、褒められてイヤってことはないですよ。

● そりゃまあそうだろうけど、でも、そういうインテリオヤジって、もうオモシロいくらいにコロンコロンひっかかってくるでしょ。

○ まあねえ。でも、そういうのも「わっかんないなー」と思いつつ、仕事が来るんでまあいいか、っと。「こんなもんでよければ、見てください」って、コート広げてどんどんもう、御開張状態(笑)。

● こらこら(笑) いくら減らないものだからって安売りするなって。

 吉屋信子って、林芙美子と同時代の作家がいたんだけど、こっちはもう蝶よ花よ、のお嬢さん育ちでさ。で、これに対してもちろん林芙美子はもんのすごい敵意を燃やす。

○ それは私がさくらももこを妬むのと一緒か?

● まあ、そんなもんだろ。さくらももこは静岡の八百屋の娘だけどな。

○ あの人がシンナー吸ってたら私と一緒だと思うんだけど。

● 吸わないだろうなあ。吸ってても絶対言わない。あなたは吸ってなくても吸ってるって言う。で、退学になったりする(笑) だから腹が立つんだよな、きっと。

 日中戦争が始まって、文学者はみんな「戦地ルポを書け」って戦地に駆り出されるんだ。当時は海軍がかっこよかったもんで吉屋信子は海軍へ。それで林芙美子は、久米正雄かなんかと一緒に陸軍へついて行った。そこで林芙美子がすごいのは、兵隊と一緒に早起きして、ひとり最前線について行く。で、最前線の戦闘の様子なんかを書いて、吉屋信子以下、他の連中の鼻をあかすんだけど……

○ ああ、それって絶対あたしがやりそうなことですね。一番危ないところに真っ先に行って、「弾が当たったらめっけもん」って、うろちょろして見せたり(笑)。「本日一番の、ホットな死体を見つけてやる」って、動き回る。現場に行くって、そのことに関しては、絶対負けたくないから。

● だろうなあ。林芙美子も自分の椅子を守るために、どうやってまわりを蹴落としてきたかっていうのが、当時から取り沙汰されていたし、弔辞で川端康成なんかもそのへんほのめかしたりしたくらいなんだけど……

○ 別に、蹴落とさなくたっていいんですよ。誰よりも早起きすりゃいいんですから。

● そっちの方が、直接蹴落とそうとするよりタチ悪いかもな。で、そのことによってどれだけの人が顔を潰されるか、なんてのは、もう眼中にないわけだよな。

○ そんなの考えたこともない。なんで? 怠け者はご飯が食べられないのは当たり前でしょ。

● 明快だな。まあ、その通りなんだわ。そんなのに躊躇するやつはしょせん、生きることに怠け者、って定義の側からすれば、ほんとにそう。

 実際さ、林芙美子と一緒に行った久米正雄が大恥かいてるんだよ。当時の文壇の大御所のひとりな。文士の報道部隊の隊長なのに何やってたんだ、って言われて。芙美子は落合に当時としてはとんでもないでっかい家を建てて、それが今、林芙美子記念館になって残ってるけどな。そんで最後は結局、戦後売れっ子になり過ぎて、心臓マヒで死んでる、婦人雑誌の取材ものだったかな、トンカツか何か食った帰りに(笑)。

○ 今日の帰り、気をつけなきゃ(笑) でも、豪邸は残んなくってもいいけど……生きてるうちにいいトンカツは食いたいかな、あたしは。



業は業のままで

● もうひとつ、、『下下戦記』(文春文庫)って知ってる? 吉田司っていう、あたしゃほんと大好きな書き手で実際、尊敬もしてるんだけど、その団塊オヤジが書いた本。

○ いや、知らない。どういう本?

● 水俣病の若い患者たちが結局、補償金を貰うようになって、いかにバラバラになっていくかっていうのをいいこと悪いこと含めて淡々と書いて、で、現場からは右からも左からもとにかく総スカンを食ったという話。大宅壮一ノンフィクション賞、ってその世界じゃ、まあ、芥川賞みたいな賞ももらったんだけど、でも、大宅賞史上ダントツに売れなかった、って、実にすばらしい本(笑)。

○ ああ、それはきっといい本ですね。国連の難民キャンプなんかにしても、難民食貰ってる人のほうが、それに頼らない人よりいい物食べてたりするんですよね。

● 人間、カネ貰っちまうとダメになる、ってのは確かにあって、でも、それはその程度のカネでダメになるようなやつだった、ってだけかも知れないんだけどさ。あいつはあんなやつじゃなかった、とか言われてね。難民キャンプの難民も、ほんとはそこに行きたくないから意地張ってやせ我慢して頑張る、ってやつも絶対いるはずで、それが「自立」の志、ってやつなんだと思うよ。

○ 国連のジレンマって、ほんとそれですよ。国連職員は「だから黒人はダメなんだ。一度神の手に委ねたほうがいいんじゃないか」って、口が裂けても言えないようなことを、腹のなかでくすぶらせてる。四〇数年難民食だけで生きてる部落っていうのがあって、そこで生まれてそこで死ぬ人なんかも、ざらに出てくる。アタック(救援物資を飛行機から落とすこと)の地点に棒とビニールのテントを張って、そこで家族一〇数人が暮らしてたりする。「もうこれ、放牧じゃん……」って。

● 日本でも、生活保護で食ってる地域なんか、レベルはともかく構造としては同じようなもんかも知れんけどな。逆差別とかなんとかのみっともなさも、実はそれもんだし。

○ 女の子は六歳くらいになると「通貨」として手っ取り早く売春に出されるし。金品を与えるってことが、いかに生きていくためのプライドを奪うかってことですよね。そんななかでも一人か二人、野を越えて峠を越えて、ヨハネスブルグくんだりに出て、字を覚えて商売を覚えて、成功する人がいるんですよ。

● そうそう、そういうとこでも、「オレはいつまでもこんなところにいちゃいかん」と思い立つやつって、必ず出てるんだよ。そこがまた、人間の面白いところでさ。

○ そういう人にインタビューした時は本当に感動しましたね。「自分は様々な苦労をしてきたけど、とにかく家族だけは守るんだ」って話してくれました。

● まっとうだな(泣) 教育がどれだけ大切か、ってことでもあるんだけど。

○ そうですよ。女性に教育を与えて、職業を持たせるってことが、貧困に対してどれだけ力を持つかってことですよ。男にカネを持たせても、ろくなことがない……。

● それこそ、西南日本の男にカネをやったらダメだ、と(笑)。

○ あたしは男の人を本当に信じてないから。でも、彼氏は欲しい(笑)。なんでだろ。

● 信じてないからこそ、だろ、きっと。彼氏ってのはやっぱり幻想の領域なんだろうし。その意味じゃ、オヤジがいつまでも恋愛したがるのと裏表もか知れない。それに、あんたそもそもバカな男、好きだろ?

○ 好きですね。採算度外視したバカが好き(笑)。

● わっかるなあ。あたしもオンナだったらきっとそうなってた。「定食屋のカミさんになって、大盛りのメシを盛ってあげたい」って、どこかで書いてたよな。あれも、かなり好きだったんだけど。

○ そう、体育大学前に店を構えれば、永遠に客が来るから。あとは油と塩でこってり味付けすればいいんですよ。

● それで、ジャージ着たガタイのいいバカがつるんでどんぶり飯食いに来る。「おばちゃーん、お腹減ったー」「よおし、食わしちゃる!」って。

○ 貧乏で身ひとつでのし上がって来たAV女優が、引退後に何になりたいかって「定食屋」。絶対に花屋なんかじゃない。あとクリーニング屋。「汚れる仕事は廃れんからね」って、ウチの婆ちゃんの口癖。インド人からすれば最低の仕事なんだけど。

● 山田まりやが、将来やりたいことは、って尋ねられて「ラブホテル!」って元気よく答えてたのに近いな。でもまあ、そこらへんがあなたの業なんだよね。若い時、歌舞伎町で水商売のバイトをしてたし。『上京ものがたり』に描いてただろ。

○ はい、この近くのビルの五階に昔あったミニスカ・パブね。学生時代は常に働いてましたよ。商い第一、学生なんかやってられっか、って。東京は生活費が高いから。それに働かない男を家に上げてたし。

● だから、それがそもそも業なんだっての。飼えない猫は拾っちゃダメ、いくら目が合っても。

○ 「もうあかんよ、口のついたもんは片口(注ぎ口のついた椀)でも、家に入れたらあかん」って、ウチのお母ちゃんも言ってた。

● ああ、それって西南日本のオンナが必ず言うセリフだな。でもさ、同じ水商売のオンナのコでも、キャバクラに向く子と向かない子っているよね。

○ そうそう、水商売だと「絶対にやらせないで、最後まで客をひっぱる子」と「根負けしてやらせちゃう子」って分け方ができるの。特に一〇代だと、女の子はまだセックスに快楽なんてないから「こんなんでよかったら、どうぞ」って股開いちゃう。プライドがない、っていうかなんというか。

● まあねえ、若い男にも相手に快楽を与えようなんて、そんな余裕は普通ないしね。ただもう入れて出したい、ひたすら突撃あるのみ、と。ただ、最近はそういうのも見えにくくなってるけど、でもオスの本質としてはそんなもん、ってのは未だに変わってないわけだし。見えにくくなってる分、鬱屈してややこしくなってたりするしなあ。

○ 「まあ、もったいぶることもないか。悪い人じゃないし、少ない給料で通って来てくれてるし」っていう女の子が、私のまわりでは過半数だったように思う。

● でも、それで不幸せかっていうと、必ずしもそうでもないし、と。

○ そう。だってさ、もうおじいちゃんなんかが、すっごく嬉しそうにあたしに触りにくるんだ。ほら、年配の人は基本的に「ぽっちゃり、色白好き」じゃないですか。だから、あたしはかなりモテましたよお。だもんで、「こんなんでよかったら、触って触って!」って、嬉しかった。ああいう寄ってこられ方を「キモい」とか「きしょい」とか言う女の子の気持ちが、なんかわからない。そういう意味で、私は看護婦に向いてるのかもしれない。

● そりゃあんた、まんま「かの子ねえちゃん」だよ(笑)。実際、風俗の子が、看護学校や介護の学校に通ってるケースって多いからなあ。仕事がそういうモチベーションを作っちゃうところもあるんだろうけど

○ しょぼしょぼのおじいちゃんが「へっぺしよう、へっぺしようなあ」って。

● うわあ、楢山節考だあ……

○ なんかねえ、そういう一〇代のトラウマのせいなのか、あたし、若くて顔のいい男っていうのが、本ッ当に嫌いなんですよ。奴らはほんっとうに「仕事」しない。

● 「仕事」、って……まあ、そういう男は自分勝手なことしかしないし。未だに日本のオトコの多くはちんちんと脳みそがうまくつながらないまんまトシ食ってまうもんだし。

○ だから、年下のオトコがいいってオンナの理屈がわからないんですよ。(岩井)志摩子ちゃんに説明してほしいわ。いま息子が八歳なんですけれども、テーブルマナーから、身なりから、挨拶まで教えてやって、飴を口に入れてやり、鼻かんでやりって……それを若い男とベッドでもせにゃいかんのか!? と。冗談じゃない、いますぐ「熟練工」を呼んでこい!、って話。

● ううううむ、あんたやっぱり、オンナの皮をかぶったオヤジで、でっかいキンタマ持ってるから、いまこれだけ売れてるんだよ。

○ だから二丁目では人気あるんです(笑)。

● まあ、そういうことなんだろうな。キンタマ持ってても性的な部分は棚上げしてられるわけだし、そりゃ二丁目方面にしたら一番ラクかも。オンナの人って自立したらやっぱりオヤジになるんだよ。日本ではまだ他の自立の仕方がないからさ。そりゃ、アメリカなんかはどうかわからないけど、日本できっちり自立しようとすると、行き着くところそういうモテ方になっちまうのは仕方ないよ。



いつも現場に

● なんかさ、評論家とか学者の世界だと、昔の女性は不自由だった、悲惨だったっていうのが定説みたいになってるけど、なんかそれって違うなあ、ってずっと思ってるんだわ。炊事・洗濯・子供育てと、あと夜の相手を適当にこなせば、そこから先は踏み込まれない。ハラで何を考えてようが自由だ、ってところだってあったはずだしさ。

○ 外に出る喜びを知らずにいれば、きっとそうですね。職業を持つと、女もまた違ってくる。バツイチ子持ちの友達なんか、再婚しようと言い寄ってきた男に「ふざけるな!」って。「子供の世話だってあるのに、なんで大の男の身の回りの面倒まで見なくちゃならんのだ」と。あたしも本当にそうだと思います。だから自分の子供、娘には特に、必ず職業を持つようにいまから言い聞かせてる。

● 娘にそう教える母親はこれまでもごってりいたんだよな。でも、そういう場合、オンナの職業には、せいぜい美容師か看護婦くらいしかなかった。戦後だったらヤクルトおばちゃんにゴルフのキャディーさん……

○ あと仲居さんと水商売。だから、温泉地は離婚率が高いって聞いたことがありますよ。女性が仲居さんっていう一生モンの仕事を持ってるから。

● ああ、北海道が離婚率が高いのも、それだよな。あそこは昔っから女性を働かせてるから。キャバレーで託児所つき、なんてのがどれだけ母子家庭を救ってきたことか。

○ 九州オンナもそうですね。ちゃんと働いてるから、離婚率が高い。

● でもな、さっきも言ったけど、九州男児がああなのは、九州オンナがそうしちゃってる、ってところはあるんだよ。そのへん、なんというか相互依存というか、共犯関係でさ。

○ ああ、わかるわかる。「耐えている私が美しい」ってやつね。

● 戦争中、九州の久留米連隊が一番勇猛果敢だ、と評判だったんだけど、いわゆる従軍慰安婦を最後まで連れて歩いてたのも久留米連隊だった、って言われてるんだよ。突撃して帰ってきてオンナ抱いてまた突撃、と(苦笑)。でもそれって、おねえちゃんの方も自分の意志で最後の前線までついてった、ってところもあってさ。他に選択肢がなかったってのもあるにせよ、そのへんのココロの機微というか、心理状況の〈リアル〉みたいなところは、インテリの能書きだけじゃ絶対見えてこない。「オトコらしさ」を体現する九州男児イデオロギーと、それを許しながら制御しちまう九州オンナは、ある種共犯関係のところはあるんだと思うよ。

○ 「アメとムチ」でも「アメなし」で……あたしにはわからない世界だわ。

● あたしなんか逆に、「男は世話するもんだ」ってモードでどんどん近寄って来られると、逆に困っちゃう。苦手っていうか、そういう「世話してやる」モードへの対応の仕方がよくわからないんだよ。ほら、彼氏にメシこさえて身の回りの世話して、ってモードが先行するコ、って未だにいるじゃない。でも、あんまりそれやられると、おまえそれだけでいいと思ってないか、って言いたくなったりする。

○ 男も女も出会ったばかりの頃は、お互いに世話を焼きたいもんじゃないですか。それが一緒になってしばらくすると疲れてくる。いま子供の友達の親御さんたちに話を聞くことが多いんですけど、もう八割が夫婦として破綻してますね。廊下をすれ違うのもイヤ、喧嘩するために口をきく気力すらもうないんだけど、子供がいるから身動きが取れない、みたいな。

● 今だと家庭内離婚、とかって言うやつか。でもさ、ミもフタもないこと言っちまえば、いまも昔も夫婦関係なんておおむねそんなもん、かも知れなくてさ。それでも何とか人生やり過ごしてこれた、ってのがこれまでだったんだと思ったりするよ。ウチもバツイチだけど、はたから見たら「単に別居してる」くらいなもんだと思うし。子供にもよく会うし、元ヨメ含めて一緒に旅行なんかも連れて行くし。

 ほら、「茶飲み友達」って、昔からのいいもの言いがあるじゃない。あの感覚って実は大事でさ。枯れた年寄り同士の関係ってところだけで言われるところがあるけど、でも、性的存在の部分をうまく捨象した「茶飲み友達」がいれば、人間ほんとはそれでもういいんじゃないか、とかって思うこともあるよ。いま離婚に関しては、女性のほうがあっけらかんとしてて、腹が据わってる。うちも離婚した時、そのことを話すと、オンナ友達は「ああ、そう。でも、そういうこともあるわよね」くらいなもんなのに、男はというと、もうみんな腫れ物扱い。どう対処していいかわかんないらしいのな。

○ 男の反応のはもう、「ヅラがバレた」時と一緒でしょ。見て見ぬフリ。ラブホの前でばったり出くわしたほうがまだ「照れ笑い」くらいでごまかせる。あたしが離婚したときも、寿司屋のおばちゃんに領収書の名前を旧姓でお願いしたら「どうして名前変わったの?」ってもろ直球(笑)。事情を説明したら「離婚、あらいいわね!」って。

● 誰もが恋愛しなきゃいけない、って思わされちゃった不幸ってのがあるし、その延長線上に夫婦愛とか家族愛もある、ってなると、もうさらに混乱するだけでさ。

 ……しかし、ほんとによく呑むなあ。女の酒飲みは八割方問題あり、ってのはあたしの持論なんだけど、大丈夫か?

○ だいたい高知県で酒に弱い奴は、もう死んでますって。それに、あたしに問題がなくなったら、あたしじゃなくなってしまうじゃないですか。マンガのネタがなくなって、おまんまの食い上げですよ。酩酊しないと寝つけないのが、思えばもう二〇年くらい続いてるかなあ。酔っぱらって子供に添い寝してお話読んで聞かせるから、わけわかんない話になってるし(笑)。いま、睡眠導入剤酒で飲んでいるし。

● 睡眠薬を酒で飲んだらダメだっての。あんたさ、別に酔っぱらいたいんじゃなくて、ほんとはゆっくり話ができたら、それでいいんじゃないのかなあ。さっきみたいな「茶飲み友達」がいたら、酒の量とか飲み方も変わってくると思うぞ。そりゃ、志摩子オバサンでも一向に構わないんだけどさ(苦笑)

○ 「茶飲み友達」かあ……未だに、明日仕事がなくなったらどうしようって不安が抜けないからなあ。だから小さなカット描きの仕事なんか、絶対断れないし、むしろ好き。はい、これ描いて二万円、三万円、ってのが性に合ってる。

● 日銭が入るのが一番うれしい、ってやつな。先の百万より目先の一万。やっぱりあんた、オンナの皮をかぶったオヤジで、本質的に漁師なんだと思うわ。「たとえ今日はすっからかんでも、明日天気がよくなって船さえ出して網おろせば、どうにかなる」っていう感覚が、実は底にあるような気がする。

○ 漁師で、しかも定置網(笑)。魚だけじゃなくて、イルカもでっかい亀もがっちょり引っ掛けてさらっていきますよ。まあ、そういう意味じゃ、船を出して、いつも現場にいたいって気持ちがありますね。だから今度は世界中まわってみたいんだけど、子供連れてそんなのどこまでできるかわかんないから、ちょっと考えている最中で。

● う~ん、そのへん、なんか鴨ちゃんの影響というか、ダンナだっただけに共鳴してるところがあるんじゃないのかなあ。いまどき、何も海外出てゆくだけが「現場」じゃないだろうに。アフリカの難民でもパレスチナのキャンプでも何でもいいけど、でも、そこに行くだけならいま、そんなに難しいこっちゃないわけでさ。それに、今のあんたの位置なら、出版社でも新聞社でも交渉すりゃ仕事で行かせてもくれるだろうし。でも、あんたにとっての「現場」ってのは、あんたがいる、その場所がまずそうなんだと思うよ。たとえそれが家の近所であれ、どこか遠い外国であれ、あんたのいるところが全部「現場」なんだよ。第一、ほんとにそうなれたらさくらももこみたいに、身のまわりのこといい加減に書き飛ばしても大儲けできるかも知れんぞ(笑)。

○ だったら、それでもいいかな。でも、やっぱり旅はしたいですね。それも子供連れて。

● 子持ちの兼高かおる、って線もあるのかもな。まあ、何にせよあんたには是対食いっぱぐれはないと思うから、安心しなって。


(さいばら りえこ・マンガ家)

5月16日、新宿「茶茶花」にて収録。

*1:粗起こしをした草稿をあたしがまずまとめて、サイバラに渡して、というプロセスで対談原稿に。というのは、故ナンシー関とのセッションの時と同じ作業工程。やっこさん骨組みはそのままで、でもビミョーに削除したあたりにいろいろと趣きが(笑)。これはサイバラに渡す前のもの。為念。