「嫌韓厨」の背景


 「嫌韓厨」というもの言いがあります。主にネットから発した、ある種の方言。文字通り、韓国および北も含めた朝鮮半島そのものをとにかく嫌う、そんな一派を半ば揶揄したものです。この「嫌韓厨」の発生には、いわゆる韓流ブームに対する反感も作用していました。自然発生的なものというより、メディア主導の仕組まれたブーム、という印象がその反感を後押しもした。

 昨今、「世論」の手ざわりが大きく変わってしまいつつある、そのことに新聞はもちろん、テレビやラジオ、雑誌などマスメディアの現場がうまく対応できずにとまどっている、そのとまどいの表現が、たとえば「右傾化」「プチナショナリズム」といったもの言いになって現われています。「嫌韓厨」というもの言いも、同じくそのような「右傾化」風潮への違和感をはらんでいますが、しかしおそらく決定的に違うのは、マスメディアのような高みからものを言う目線で発されたものではない、ということでしょう。「嫌韓厨」とかるく嗤ってみせる、その気分は全く等価に、「右傾化」としか言えない今のマスメディアの硬直にも向けられています。

 ネット環境の普及はそのように「世論」のありようを変えている。それまで水面下で意識されなかった意見やものの見方、印象や気分といった水準まで含めて、良くも悪くもワンクリックで見通せてしまうようになった。それは高みからものを言う、天下にもの申すモードになじんできたマスメディアの自意識にとっては、にわかには認めがたい状況かも知れない。けれども、そんな現在をまず謙虚に見つめようとすることからしか、マスメディアへの信頼は回復されないでしょう。新年、自戒を込めて。